2024年11月25日月曜日

音楽だけが
















 【今週の一枚】














Becky and the Birds - Only Music Makes Me Cry Now [4AD 2024]

Becky and the Birdsはスウェーデン人アーティストThea Gustafssonによるソロ・プロジェクト。

2020年にEP「Trasslig」を4ADレーベルよりリリースして注目を集めた彼女、今作が4年越しに満を持してのデビュー・アルバムとなった。

耽美派ベッド・ルーム・ポップとも呼ぶべきその作風は、百花繚乱とも言えるラインナップを誇る同レーベルにあっても異彩を放っている。

ロンドンと母国ストックホルムを股にかけセルフ・プロデュースで完成させた今作、聴きドコロ満載の仕上がりと言えるだろう。

オープニング・トラックの「Star」からいきなり胸を鷲掴みにされるような感覚に陥ってしまうが、続く「anymore」や6曲目の「When she holds me」、そしてラスト・ソングにしてタイトル・トラック「only music makes me cry now」に至るまで感動的な楽曲目白押しとなっている。

今作はDijon、Seinabo Sey、Lapsley等とのコラボレーションから着想を得ているようで、拘り抜いたその音楽スタイルは今後の活躍に大いに期待できる逸材と言えるのではないか。






2024年11月18日月曜日

追いかけて
















 【今週の一枚】













Roy Blair - Chasing Moving Trains [Warner 2024]

LA出身で現在はNYを拠点に活動するアーティストRoy Blairの7年ぶりとなる2ndアルバム。

1stアルバム「Cat Heaven」をリリース後に2019年にツアーを終え、今作の制作が開始されたがコロナ禍のなか2年前にアルバムは完成、その後紆余曲折を経てやっとリリースに漕ぎつけたという経緯のようだ。

ビョークやUKガレージなどに影響を受けたと公言している彼、様々な映画音楽にも精通しており、正にPOP職人という呼称が似つかわしい作風だ。

真っ先に思い浮かんだのがカナダのSpookey Rubenで、1990年代後半に傑作を連発していた頃の高揚感がまざまざと思い起こされる。

レコーディングはNYやアイスランドで行われ、自らプロデュースを手掛けている。

リード シングルの「Panavision」や「Strawberry」も素晴らしいが、3曲目の「Belmont」の轟音ギター・ノイズは聴く度に痺れまくりだし、ラスト・トラックの「Garden」のポップ・ソングとしての完成度がズバ抜けているように思える。

USインディーズ・シーンにまたもや現れた若き傑出した才能に胸躍らされる思いである。








2024年11月11日月曜日

連続体
















 【今週の一枚】













Nala Sinephro - Endlessness [Warp Records 2024]

カリブ系ベルギー人アーティストNala Sinephroの3年ぶりの2ndアルバム。

1st「Space 1.8」に続いてWarp Recordsからのリリースとなった。

アンビエント・ジャズの旗手として賞賛を集める彼女、モジュラー・シンセとハープを駆使してオリジナリティの塊のような音世界を確立している。

black midiのMorgan Simpson、Ezra CollectiveのJames Mollison、Nubya Garciaの他、新世代UKジャズ・シーンの担い手が多数ゲスト参加した今作、正に旬のアーティストとして確固たる地位を確立していることの証左と言えるのではないだろうか。

全10曲45分の収録時間で構成される本作、トラック名は「連続体」を意味する「Continuum」の1から10で統一されている。

今月25日にはめぐろパーシモンホールにて初来日公演が予定されており、是非足を運びたいところではあるが、気が付いたら完売御礼。

こないだClaire Rousayの前座で観たphewの轟音アンビエント・ノイズにも大いに感銘を受けたけれど、このNala Sinephroもライブ空間でその唯一無二の音世界に身を委ねてみたいものである。






2024年11月5日火曜日

幻想









 

【今週の一枚】













TychoInfinite Health [Ninja Tune 2024]

サンフランシスコを拠点に活動するScott HansenのプロジェクトTychoの4年ぶりの7thアルバム。

ISO50名義で写真家・グラフィック・デザイナーとしても活動する彼だが、その偏執狂的とさえ言えそうな音質への拘りが遺憾なく発揮された仕上がりとなっている。

フィジカルなエレクトロニック・ギターやベースのサウンド、ダイナミックなドラムは電子音とポスト・ロック的な生演奏の化学反応を意識したものと感じたが、驚いたのは全ての楽器をデジタルで演奏・処理しているそうなのだ。

てっきり大型のギター・アンプにエフェクターを繋いで大音量で演奏したものを取り込んで加工しているものと思いきや、そもそも最初からプラグインを使用しているとは。

音の印象とは裏腹にアルバム制作にあたって電子音楽的なプロダクションに回帰しており、特にブレイク、ドラムとリズム楽器にフォーカスして作品作りが進められたそうだ。

大部分の楽曲のプロデュースとエンジニアリングをGrizzly Bear’のChris Taylorが手掛けており、タイトル・トラックの「Infinite Health」にはCautious Clayのヴォーカルをフィーチャー。

本人も最も気に入っているというリード・シングル「Phantom」や終盤の「DX Odyssey」から「Totem」にかけての流れは、さぞやライブで盛り上がるだろうなあ。