2026年11月6日金曜日

旗手

















 【今週の一枚】













Brakence - marroW [Columbia 2026]

Ohio州Columbus出身のbrakenceことRandall Todd "Randy" Findellの4年ぶりの3rdアルバム。

2022年の前作「Hypocondriac」には当時大きな衝撃を受けたものだが、待望の新作となった今回の作品も期待通りの仕上がりとなっている。

4年間のブランクの間も盟友的存在のQuadecaの「A la Carte」やAriesの「Sleepwalker」といった楽曲にコラボレーターとして参加していた模様。

全18曲収録時間68分の大作となった今作、前作以上にサウンドのバリエイションが広がった印象。

ハイパーポップ、エモ、グリッチホップ、R&B、デジコアなど様々な音楽的要素を作品のそこかしこに感じ取れる。

またバリトンとファルセットが共存する彼のヴォーカル・スタイルは更に磨きがかかっているとは言えないだろうか。

Quadecaはリード・シングル「ready or noT」の監督と編集を担当しているそうだが、彼やMk.geeそしてDijonといった異能の才能と並び、brakenceが新世代の旗手のひとりと目されるに値する事を堂々と証明した作品と言えるのではなかろうか。

それにしても2021年生まれの彼、現時点ではまだ弱冠24歳というのも驚かされる。








2026年10月26日月曜日

サングラス

 









【今週の一枚】














Tinashe - Popstar [Atlantic 2026]

ケンタッキー州生まれ、カリフォルニア州パサデナ育ちのシンガーTinashe、8枚目のスタジオ・アルバム。

2019年にRCA Recordsを離脱して以降、インディペンデントのフィールドで活動してきた彼女、今作も自身のレーベルTinashe Music、Nice Life Recording Companyそして Atlantic Recordsからのリリースとなっている。

彼女の同世代のハイパー・ポップのスターCharli XCXやPinkPantheressが今作の内容を絶賛しており、主要音楽メディアが揃って高く評価、UK R&B Albumチャートでは堂々の1位を獲得している。

幾つかの楽曲ではゲスト・コーラスを迎えつつ、基本的に全て彼女自身がメイン・ボーカルとして歌い上げており、自信に満ち溢れた魅力的な歌唱を存分に堪能できる仕上がりとなっている。

今作にはプロデューサーとしてArca、Machinedrumをはじめとした錚々たる面々が多数参加、作品のクオリティに大いに貢献しているように感じられた。

リード・シングル「Too Easy」を始め「Crash Out」「Melatonin」「Pillow Fight」「I'd Rather Be Alone」がシングル・カットされているが、なかでも「Melatonin」は屈指の名曲だと思う。

R&B、ドラムンベース、ジャズ、ハイパーポップと様々な要素を取り込んだ彼女の音楽だが、それらを絶妙なバランスで混交させつつ、自身のオリジナリティに昇華している手腕は実に見事としか言いようが無い。





2026年10月13日火曜日

Extraordinary










 

【今週の一枚】














Kristin Hersh - Sugar on Blackstone [FIRE 2026]

Throwing Muses、50 Foot Waveのフロントウーマンとしても知られるKristin Hershによる(おそらく)13枚目のソロ・アルバム。

1966年生まれで今年還暦を迎える彼女、バンドの結成は1981年に遡るというのだから、そのキャリアは45年もの長きにわたる。

Throwing Musesがセルフ・タイトルのデビュー作を1986年に4ADレーベルからリリースしたのは英米インディー・ミュージックの歴史においてもエポック・メイキングな事実であるのは疑う余地のないところと言えるだろう。

個人的には1991年のMusesの4th「The Real Ramona」に衝撃を受けたのがきっかけだが。その後こんなにも長く彼女の音楽に接することになるとは当時は想像だにしなかった。

近年では2018年の「Possible Dust Clouds 」に大いに感銘を受け、その年の私的ベスト・アルバム10枚に挙げた。

50FOOTWAVEのドラマーRob Ahlersと、Throwing MusesのチェリストPete Harveyを迎え、

StableTable Sound Studiosで制作が進められたという今作、今もって全く衰え知らずのエネルギッシュで瑞々しいサウンドが全面に展開されている。

光と影の部分を併せ持つ彼女の音楽性だが、今回の作品でもその陰影の対比を大いに堪能出来る。

現在彼女はThrowing Musesの次回の作品の準備を進めており、同時にイギリスとアイルランド、オーストラリア、ニュージーランドのツアーも敢行中というのだからそのバイタリティは常人離れしているとしか言いようが無い。





2026年9月29日火曜日

灯

















 【今週の一枚】














Jo Mango - The Lightswitch [Nature Bliss 2026]

グラスゴーを拠点に活動するJo MangoことJo Collinson Scottによるなんと14年ぶりの3rdアルバム。

1stアルバム「Paperclips and Sand」が2006年のリリースなので、丁度20年のキャリアで3枚目の作品というのはかなり寡作の部類に入ると言えるだろう。

ただ彼女の場合は2012年に音楽学の博士号を取得し、西スコットランド大学で講師をつとめ、スコットランド王立音楽院でも教鞭をとっていたというのだから、むしろ多忙な日々を送っていたようだ。

かつては生ける伝説的存在の歌姫Vashti Bunyanのツアー・メンバーとして世界でパフォーマンスを披露、David ByrneやJuana Molinaとも共演を果たした経験で知られる彼女、今回の待望の新作でもその類稀な音楽的才能を遺憾なく発揮しているように感じられた。

Four TetとのプロジェクトFRIDGEとしても知られるAdem Ilhanが前作に引き続きプロデューサーを務め、多くの楽器を演奏、ミキシングも手掛けている。

作品全体を覆うオーガニックなテイストは格別のものだが、ストリングスやハープなどを用いたオーケストラルなアレンジも実に味わい深い。

表題曲をはじめ多くの楽曲のタイトルに家のなかに存在する物や場所が採用されており、それぞれの思い入れが歌にこめられているのだろう。

確かな技巧と美しく豊潤きわまりない歌声にじっと浸りたくなる、そんな思いにさせられる作品だと思える。





2026年9月15日火曜日

ひらめき
















 【今週の一枚】














DOMi & JD BECK - Who Asked? [Blue Note 2026]

2022年の鮮烈なデビュー作「Not Tight」から4年、遂にDOMi & JD BECKのセカンド・アルバムが届けられた。

超絶技巧で注目を集めたキーボーディストとドラマーの二人組はその年のGrammy賞の Best New ArtistとBest Contemporary Instrumental Albumにノミネートされるという快挙を成し遂げた。

翌年にはメトロポール・オーケストラとの共演も果たし、この経験が今作のオーケスラル・アレンジに繋がっていったようだ。

ジャズやヒップホップそしてゲーム音楽からの影響を公言し、オリジナリティの塊のような演奏に昇華させてきた彼等、今作においてはそのベースとなる音楽性を保ちつつもフルートやクラリネットなどの木管楽器を大胆に導入したサウンドを繰り広げている。

現在の彼等の作曲スタイルは楽譜制作ソフト「Sibelius」を駆使し、あらかじめ楽曲を完成させてから制作を進めていく形が採られており、今作のレコーディングにはなんと300時間以上を要したというのだから驚かされる。

また今作の特徴は大半の曲で二人が「歌っている」ところだ。

これに対して「歌は不要だ」みたいな批判も散見されたが、全く同じ楽曲構成のインスト作「YOU ASKED! 」も配信リリースしており、こういう趣向もイケすなあ、なんて。

12月には東名阪にまたがる再来日公演も予定されている模様。









2026年9月8日火曜日

水時計












【今週の一枚】















Julia Holter - Materia [Domino Recording 2026]

LAを拠点に活動するJulia Holter、2年ぶり12枚目のスタジオ・アルバム。

2024年の「Something in the Room She Moves」収録の「Materia」の別ヴァージョンやツアー中に描き下ろされた新曲を交えた全7曲から成る構成で、そういう意味では前作とは姉妹作という位置づけにあたるようだ。

アート・ポップの奇才として異彩を放つ彼女、20年近くにわたるキャリアのなかでコンスタントに作品を世に問い続けてきた。

アヴァンギャルドやエクスペリメンタルの括りに入るのは間違いないにしても。ポップ・ミュージックの範疇からは逸脱しておらず、フォークロア的なアプローチも追及しているのはアルゼンチン音響派の代表格Juana Molinaあたりにも通ずるものを感じる。

フレットレスベース、クラリネットといったインストゥルメンツは彼女の音楽を特徴づけているが、瞑想的であたかも時空を超えたかのような印象のサウンド・メイキングは今作においても健在だ。

表題曲の続編2曲も味わい深いが、先行シングルの「Fantasy」や2曲目の「My Lost One」に大いに感銘を受けた。

幻想的かつ神秘的なムードに包まれた白昼夢の如き音世界にゆったりと浸りたい。







2026年9月3日木曜日

勝














 

【今週の一枚】



















Madeon - Victory [Mom + Pop Music 2026]

MadeonことHugo Pierre Leclercqによる7年ぶりの3rdアルバム。

まずもって冒頭の「Hi!」の荒々しいギター・ノイズに驚かされる。

チャーリーXCXの最新作といい、ダンス・ミュージックからロックへの接近は昨今のトレンドなのだろうか。

続く「Car Crash Baby」はトラディショナルなアプローチのエレクトロ・サウンドで軽快なリズムで進行しつつもどこか切迫感も感じさせる。

Flatbush ZombiesのErick The Architectをフィーチャーした「Super Platinum」はヒップ・ホップとEDMの相性の良さを体現したかのようなトラックだ。

5曲目の「Somebody Else Lyrics」はMadeonの真骨頂というべき青臭くてエモいメロディを堪能できる。

アルバムのラストを締め括る「Lonely Space Age」は往年のシャンソン~フレンチ・ポップの影響色濃いメロウな楽曲で、今作のなかでも異彩を放っているが、しみじみと余韻に浸れる作りとなっている。

総じてしっかり作りこまれた緻密なサウンド・メイキングを堪能出来る作品に仕上がっているのは間違いないにしても、どこか物足りなさを感じたのも正直なトコロ。

まだまだブレイク・スルーを期待できる大器だと思うので今後の活動ぶりにも注目したい。