2026年6月30日火曜日

無銘











 

【今週の一枚】














American Football - LP4 [Polyvinyl 2026]

米イリノイ州のAmerican Footballによる7年ぶりの4thアルバム。

これまでの作品同様今回も正式なアルバム名は無く、通称「LP4」と呼ばれている様。

ドラマーのSteve Lamosが一時脱退した時期もあったようだが、無事復帰を果たし、ギター・ボーカルのMike Kinsella、ベースのNate Kinsella、ギターのSteve Holmesの4人のオリジナル・ラインナップが集結し作品作りが進められたようだ。

ファースト・アルバムがリリースされたのが1999年の事なのでバンドは30年近い歴史を誇る中で4作目というのは寡作な方ともいえるが、Mike KinsellaはJoan of ArcやOwenなど多くのプロジェクトで多数の作品を発表しており、常に活動し続けてきた印象だ。

2019年の「LP4」発表後のツアーを終え一年の休養を経て次作に取り組む予定だったのが、コロナ禍のなか再開には至らず、リモートでの制作にもトライしたものの、なかなか上手くいかなかったらしい。

その後MikeとNateのプロジェクトLIESのアルバムがリリースされ、American Footballとしての活動も本格化、今作の完成に漕ぎ付けたという経緯らしい。

ポスト・ロック、エモの文脈で語られる事が多い彼等、スケール感溢れるダイナミックなバンド・サウンドとリリシズムが同居する音楽性は健在だ。

今回のアルバムにはTurnstileのBrendan Yates、Rainer MariaのCaithlin De Marrais、そしてWispことNatalie R. Luといった面々がコーラスで参加、作品に華を添えている。

7月には2019年以来のフジロックへの参加で久々の来日が予定されている模様。








2026年6月24日水曜日

蟷螂











 

【今週の一枚】














Courtney Barnett - Creature Of Habit [Mom + Pop Music 2026]

豪州出身で現在メルボルンとLAの二拠点で活動するCourtney Barnettの5年ぶりの4thアルバム。

デビュー作「Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit」をリリースしたのが2015年のことなので、もうそれから10年以上の月日が経過した事になる。

これまでの作品はNYのMom + Pop Musicと自身が設立したMilk! Recordsからのリリースだったが、2023年にMilk! Recordsは解散の運びとなったようだ。

重厚なリズム・ワークと切れ味鋭いギター・プレイが心地よいオープニング・トラック「Stay in Your Lane」で幕を開ける本作、続く「Wonder」とM6「Mantis」の2曲は彼女のキャリアを代表するトラックになるような気がしてならない。

M3「Site Unseen」はアルタナ・カントリー界の歌姫のひとりWaxahatcheeをフィーチャー、またM5「One Thing at a Time」では今年ソロ・アルバムを発表したRed Hot Chili PeppersのFleaがベース・プレイを披露している。

Courtney Barnettは先週Spotify O-EASTで来日ソロ公演を行っており、我ながら間抜けな事にその情報をしったのが公演後だっという。

次回は必ず行こう。







2026年6月16日火曜日

 














【今週の一枚】













Fink - The City Is Coming To Erase It All [R'Coup'd 2026]

英国Cornwall出身で現在はベルリンと倫敦を拠点に活動するFinkことFin Greenallによる2年ぶりの9thアルバム。

仏LyonのフィメイルSSWClaire daysのデビュー作および2ndでは演奏のサポートに加えプロデュースにミキシングと全面的なバックアップというべき仕事ぶりであったワケだけれど、自身の作品もコンスタントに発表し続けてくれているのは敬服に値するのでは。

1952年生まれの彼だが幼少の頃から様々な音楽に触れながら育ち、リーズ大学在学中にエレクトロニック・ミュージックやダンス・ミュージックに傾倒するようになりDJとして活動していた時期もあったようだ。

2000年代中頃になると彼の関心は伝統的な音楽に寄せられるようになり、現在のコラボレーターであるギタリスト兼ドラマーのTim ThorntonとベーシストのGuy Whittakerとのトリオ編成でアコースティック・ミュージックを追求した作品作りに邁進するようになった模様。

今作のインスピレーションにはヨークシャー出身のMichael ChapmanやJoni Mitchellが挙げられており、70年代のサウンドの感触に憧憬を抱きつつも、現代風の雰囲気や精神性を追求した音作りに成功しているように感じられた。

アルバムは柔らかな陽光を浴びているかのような感覚に陥る「Wishing For Blue Sky」で幕を開け、彼の麗しい美声とアコギのサウンドを堪能できる佳曲が続くが、ハイライトは中盤の「Memorise Your Senses」だ。

トライバルなリズム・ワークにのって紡がれる音のタペストリーは彼の真骨頂とは言えまいか。

作品のラストを飾る「Spirit Of Place」は唯一のインスト曲で往年のSongs: OhiaことJason Molinaを彷彿させるかのような幽玄美に溢れたトラックとなっている。





2026年6月9日火曜日

業火















 【今週の一枚】













Boards of Canada - Inferno [Warp Records 2026]

スコットランドのMike SandisonとMarcus Eoinによる兄弟デュオBoards of Canadaの13年ぶりとなる5thアルバム。

全19曲収録時間1時間11分の大作だ。

長いブランクの間に幾つかのリミックス作のリリースがあったといえ、多くのファンにとって正に待望のカムバックと言えるだろう。

1998年のデビュー作「Music Has the Right to Children」でエレクトロニック・ミュージック界に登場した彼等、その独特な存在感は今もって健在である。

兄弟が幼少期を過ごした70年代の音楽やメディアに強くノスタルジアを感じているのは明白で、あえて使い古されたサウンドを再現するかの如くヴィンテージ・シンセを駆使して鳴らされる楽曲の数々は時としてオカルティックで呪術的かつ宗教的な響きを現出している。

アルバム一枚が絵画的でもあり、長編の映画を観ているかのような錯覚に陥ってします。

ちなみにBoards of Canadaという名前の由来は1980年ごろに建設業に従事していた兄弟の父親とともにカナダのカルガリーに住んでいた頃に彼等が観ていたドキュメンタリー映画やアニメーションを制作していた政府機関であるカナダ国立映画庁(National Film Board of Canada)にちなんで名付けられたそう。





2026年6月2日火曜日

Thoroughbred














 

【今週の一枚】














Storey Littleton - At a Diner [Don Giovanni 2026]

2000年にリリースされたIdaの「Will You Find Me」という作品には当時大いに感銘を受けて愛聴した記憶があるが、2002年のDaniel LittletonとTara Jane O'Neilの来日公演には当時住んでいた高松から瀬戸大橋を車で渡って尾道まで足を運んだ程思い入れが強かった。

そのIdaのDanielとElizabeth Mitchellの娘がデビュー・アルバムを発表したというので心底驚いた。

期待しすぎる程期待して音源に触れたワケだが、ファースト・インプレッションとしては、拍子抜けする程オーソドックスなスタイルだな、というかともすれば優等生過ぎるようにさえ思えてしまった。

ただ、何度か聴き進めていくうちに、これはノーマル過ぎるようでいて実に深みのあるフォーキッシュ・ポップのように感じられるようになった次第だ。

インディー・フォーク界の正にサラブレット的存在と言える彼女、ソング・ライティングの才能はズバ抜けていると言えるのではないだろうか。

両親からの影響は多大であることは言うまでもないにしても、Kate BushやPrinceへの敬愛も公言しており、Judee SillやLiz Phair等の影響も自らの音楽性に多大であったと認めているそう。

作品は静謐なアコースティック・ギターの調べが印象的な「To Answer」で幕を開け、続く「In The Morning」ではクラリネットの音色が非常に効果的に用いられている。

中盤の「Worst of Everything」では往年のグランジを彷彿させるかのような轟音ギターが鳴り響き、続くタイトル・トラックの「At a Diner」はなんともさりげなくも美しいフォーク・ソングが紡がれている。

ラスト・トラックの「Nothing to No One」は清涼感と疾走感が同居するトラックで、聴いていて実に心地よい。

初っ端からこれだからちょっと末恐ろしいくらいだが、これからもさらっと良作を量産し続けてくれそうな気がしてならない。






2026年5月26日火曜日










 

【今週の一枚】













Kathryn Mohr - Carve [The Flenser 2026]

米国ベイエリアを拠点に活動するKathryn Mohrによる2ndアルバム。

5年の年月をかけて書き上げられた楽曲の数々をアメリカ南西部のモハーヴェ砂漠に移動式住宅を持ち込み数週間かけて、たった一人で制作された。

リズム・トラックは完全に排除され、ギターとフィールド・レコーダーを駆使して録音するという実にストイックなスタイルが採られている。

その作風は硬派極まりなく、殺伐とした雰囲気すら漂わせている。

ただ、荒涼かつ陰鬱なサウンド・スケープが展開されるなかにあって、どこかロマンティックなムードも醸し出しているあたり、一筋縄では行かない表現力を持つアーティストと言えるだろう。

先行シングルの「Property」は重低音の効いたギター・サウンドがとても印象的で、中毒性が高い。

なかでも圧巻はラスト・トラックの「Crow Eyes」で怒涛のギター・ドローン・ノイズには圧倒されるばかりだ。

あまり比較対象になるようなミュージシャンが思い浮かばないが、あえて挙げるとするならThrowing MusesのKristin Hershなんかに近しい部分はあるかも知れない。

ミクシングとマスタリングはThe Flenserのレーベルメイトの Agriculture の Richard Chowenhilが担当した模様。







2026年5月19日火曜日










 

【今週の一枚】













Gia Margaret - Singing [Jagjaguwar 2026]

シカゴを拠点に活動するGia Margaretによる3年ぶりの4thアルバム。

2018年にリリースされたデビュー作のツアー中に声帯を痛め、前2作は基本的にインストゥルメンタル作(それぞれ1曲づつ歌声を披露)だった彼女だが、今回の作品で本格的に「ウタ」に回帰している。

前作「Romantic Piano」は文字通りピアノ主体のアンビエント作品だったが、今作は2曲を除いてその美声を堪能できる仕上がりとなっている。

インスト曲のうちのひとつ「Ambient for Ichiko」は彼女が昨年来日公演を果たした際に共演した青葉市子に捧げられている。

またラスト・トラックの「E-Motion」ではKurt Vileがギタリストとして参加、その他Pedro the LionのDavid Bazan、StarsやBrokenSocialSceneで名高いAmy Millan、Imogen HeapとのFrou Frouが懐かしいGuy SigswortそしてBon Iverの初期ドラマーとして知られるSean Carey等豪華ゲスト陣が客演を果たしているあたり、彼女のヴォーカリストとしての完全復活を祝福しているかのようで感慨深い。

リーディング・シングルにしてオープニング・トラックの「Everyone Around Me Dancing」からして掴みは完璧と言えるが作品のハイライトは中盤の「Good Friend」から「Phenomenon」にかけての流れの様に思えた。

自身の音楽を自嘲気味に「Sleep Rock」と表現する彼女だが、そのサウンドは正に白昼夢のような美しさを湛えていると言えまいか。