2026年9月15日火曜日

ひらめき
















 【今週の一枚】














DOMi & JD BECK - Who Asked? [Blue Note 2026]

2022年の鮮烈なデビュー作「Not Tight」から4年、遂にDOMi & JD BECKのセカンド・アルバムが届けられた。

超絶技巧で注目を集めたキーボーディストとドラマーの二人組はその年のGrammy賞の Best New ArtistとBest Contemporary Instrumental Albumにノミネートされるという快挙を成し遂げた。

翌年にはメトロポール・オーケストラとの共演も果たし、この経験が今作のオーケスラル・アレンジに繋がっていったようだ。

ジャズやヒップホップそしてゲーム音楽からの影響を公言し、オリジナリティの塊のような演奏に昇華させてきた彼等、今作においてはそのベースとなる音楽性を保ちつつもフルートやクラリネットなどの木管楽器を大胆に導入したサウンドを繰り広げている。

現在の彼等の作曲スタイルは楽譜制作ソフト「Sibelius」を駆使し、あらかじめ楽曲を完成させてから制作を進めていく形が採られており、今作のレコーディングにはなんと300時間以上を要したというのだから驚かされる。

また今作の特徴は大半の曲で二人が「歌っている」ところだ。

これに対して「歌は不要だ」みたいな批判も散見されたが、全く同じ楽曲構成のインスト作「YOU ASKED! 」も配信リリースしており、こういう趣向もイケすなあ、なんて。

12月には東名阪にまたがる再来日公演も予定されている模様。









2026年9月8日火曜日

水時計












【今週の一枚】















Julia Holter - Materia [Domino Recording 2026]

LAを拠点に活動するJulia Holter、2年ぶり12枚目のスタジオ・アルバム。

2024年の「Something in the Room She Moves」収録の「Materia」の別ヴァージョンやツアー中に描き下ろされた新曲を交えた全7曲から成る構成で、そういう意味では前作とは姉妹作という位置づけにあたるようだ。

アート・ポップの奇才として異彩を放つ彼女、20年近くにわたるキャリアのなかでコンスタントに作品を世に問い続けてきた。

アヴァンギャルドやエクスペリメンタルの括りに入るのは間違いないにしても。ポップ・ミュージックの範疇からは逸脱しておらず、フォークロア的なアプローチも追及しているのはアルゼンチン音響派の代表格Juana Molinaあたりにも通ずるものを感じる。

フレットレスベース、クラリネットといったインストゥルメンツは彼女の音楽を特徴づけているが、瞑想的であたかも時空を超えたかのような印象のサウンド・メイキングは今作においても健在だ。

表題曲の続編2曲も味わい深いが、先行シングルの「Fantasy」や2曲目の「My Lost One」に大いに感銘を受けた。

幻想的かつ神秘的なムードに包まれた白昼夢の如き音世界にゆったりと浸りたい。







2026年9月3日木曜日














 

【今週の一枚】



















Madeon - Victory [Mom + Pop Music 2026]

MadeonことHugo Pierre Leclercqによる7年ぶりの3rdアルバム。

まずもって冒頭の「Hi!」の荒々しいギター・ノイズに驚かされる。

チャーリーXCXの最新作といい、ダンス・ミュージックからロックへの接近は昨今のトレンドなのだろうか。

続く「Car Crash Baby」はトラディショナルなアプローチのエレクトロ・サウンドで軽快なリズムで進行しつつもどこか切迫感も感じさせる。

Flatbush ZombiesのErick The Architectをフィーチャーした「Super Platinum」はヒップ・ホップとEDMの相性の良さを体現したかのようなトラックだ。

5曲目の「Somebody Else Lyrics」はMadeonの真骨頂というべき青臭くてエモいメロディを堪能できる。

アルバムのラストを締め括る「Lonely Space Age」は往年のシャンソン~フレンチ・ポップの影響色濃いメロウな楽曲で、今作のなかでも異彩を放っているが、しみじみと余韻に浸れる作りとなっている。

総じてしっかり作りこまれた緻密なサウンド・メイキングを堪能出来る作品に仕上がっているのは間違いないにしても、どこか物足りなさを感じたのも正直なトコロ。

まだまだブレイク・スルーを期待できる大器だと思うので今後の活動ぶりにも注目したい。






2026年8月26日水曜日

確信

 












【今週の一枚】














Phoebe Bridgers - Lost Weekend [Dead Oceans 2026]

紛れもなくキャリア・ベストと言えるのでは。

カリフォルニアのシンガー・ソングライターPhoebe Bridgersによる6年ぶりの3rdアルバム。

ソロ名義としては久々のリリースとなるが、2023年にはJulien Baker、Lucy DacusとのユニットBoygeniusとしてデビュー・アルバムを発表、大いに好評を博したのは記憶に新しい。

コロナ初期の2020年にはThe Nationalのサポート・アクトとして来日する予定だったのがやむなく中止で悲嘆に暮れたものだったが、その後2023年2月にZepp DiverCityで初来日公演を観れたのは本当に素晴らしい経験だった。

さて正に待望の新作となった今作、エレクトロニカやアンビエント寄りのアプローチも感じられるが、彼女の音楽の根幹を支えるインディー・フォーク・スタイルは不変のものであり、アルバム全体を通じてソング・ライティングのクオリティが傑出しているように思える。

オープニング・トラック「The Outside」はImogen Heapの代表作「Hide and Seek」を彷彿とさせるようなヴォイス・エフェクトが施された実験色の強い楽曲だが実に幻想的で美しい。

続く「Lost Boys」はエモーショナルなコーラスが印象的で躍動感溢れるギターのストロークが痛快だ。

タイトル・トラック「Lost Weekend」の共作者のクレジットにDamien Juradoの名前を見つけたのは嬉しい驚きだったが、その他にもGeeseのCameron WinterやBlake Mills、Conor Oberstといった錚々たる面々が今作のコラボレーターとして名を連ねている。

作品を通じて全く捨て曲のない今回の作品だが、なかでも白眉はAmerican FootballのMike Kinsellaもギターで参加した「Bobby」ではなかろうか。

これからも彼女の代表曲のひとつとして語り継がれるであろう名曲に仕上がっていると思える。

プロデュースは彼女自身と長年の盟友的存在Ethan Gruska、Jack AntonoffそしてAlex Gが務めた。

UKアルバム・チャートで1位、そしてビルボード200でも2位を獲得した今回の「Lost Weekend」、これからも長く愛され続ける作品だと確信出来る。







2026年8月17日月曜日

快挙











 【今週の一枚】














Charli XCX - Music, Fashion, Film [Atlantic 2026]

このアートワークには驚かされた。

John CaleとMarc Jacobs、Martin Scorseseという音楽界、ファッション界、映画界のそれぞれ巨匠というべき存在の3人が不敵な表情で写真に捉えられている。

チャーリーXCXの8thアルバム。

今年は映画「Wuthering Heights」のサウンドトラック盤もリリースしており、UKアルバム・チャートで初登場チャート1位を獲得、今回のアルバムと併せ、一年の間に2枚のチャート・トップ作品をリリースするという離れ業を演じている。

これは英国人女性アーティストとしては初の快挙だそうだ。

2024年の「Brat」ではハイパー・ポップ界の寵児として絶賛を浴びた彼女、今作ではノイジーなギターサウンドを大胆に取り入れ、ロック・ミュージック的なアプローチにシフト・チェンジしてきた。

しかしながら作品一枚を通じての印象はこれも紛れもなくチャーリーそのものだなあというものだった。

彼女ほど突出した個性だと音楽的な方向性が少々変わったくらいでは、そのアイデンティティは微塵も揺るがないと痛感させられた。

レコーディングはパリのRue Boyer Studiosで行われ、プロデュースは長年のコラボレーターA. G. CookとFinn Keaneが手掛けた。

アルバムのラストを飾る「No One Lasts Forever」ではDavid Cronenbergのポエトリー・リーディングがフィーチャーされている。





2026年8月10日月曜日

理由














 【今週の一枚】














Nick Hakim - I Can See [Earseed Records 2026]

NYクイーンズを拠点に活動するマルチ・インストゥルメンタリストNick Hakimによる4年ぶりの4thアルバム。

ブランクの間もAdrianne LenkerやKassa Overall等の作品に携わるなど音楽活動は継続していたようだ。

チリ人の母親とペルー人の父親を持ちコスモポリタンな側面を持つ彼、その音楽性もなかなかに形容し難い異形のものと言えるが、今作も正に一筋縄ではいかない仕上がりとなっている。

オルタナR&Bというカテゴライズが一般的になって久しいが、今回のアルバムをストーナーR&Bと評した記述を見つけ、ものすごく同意させられてしまった。

作品一枚を通じてスモーキーで霞がかった印象というか、酩酊した状態で鳴らされているような感覚に陥るが、細部に耳を傾けると実に緻密に計算された作りとなっているのは実に素晴らしいと思える。

スティーヴ・ライヒとテリー・ライリーからの影響を公言する彼、R&Bをベースにしつつも、ミニマリズム的なアプローチも随所に感じさせてくれる。

往年のトーチソング的な側面も感じられ、どこかノスタルジックなムードを醸し出しているのも味わい深い。

自宅のベッドルームで作品作りが始められ、テキサス州トルニージョのSonic Ranch やニューヨークの数々のスタジオでレコーディングが行われ、プロデュースはNick自身とDijon や Bon Iver等との仕事で名高いAndrew Sarloとの共同作業で行われた。

インパクト抜群で素晴らしいアートワークはデザイナーのArjuna Routte-Prieur と写真家の Jack McKainによって作成されたそう。






2026年7月28日火曜日

確かなこと





















 【今週の一枚】














Friko - Something Worth Waiting For [ATO Records 2026]

やっぱりダサくてエモくてサイコーだ。

シカゴのFriko、2年ぶりのセカンド・アルバム。

鮮烈なデビュー作「Where We've Been, Where We Go from Here」に続く作品とあって期待と不安が交錯するような感覚で聴き始めたが、全くの杞憂であった。

インディー・ミュージックのみならず、よく「セカンド・アルバムのジンクス」みたいなハナシで2枚目でコケるのも珍しくないが、彼らはそのジンクスをさらりと乗り越えてきた。

もともとフロントマンのNiko KapetanとドラマーのBailey Minzenbergerの二人組でライブの際はサポートの二人を加えて4人編成で演奏していたが、正式にベーシストのDavid FullerとギタリストのKorgan Robbがメンバーに加わり新生Frikoとして活動している模様。

もともとNikoのパッショネイトで強烈なボーカル・スタイルと爆音ギター、Baileyのダイナミックなドラム・プレイが持ち味だった彼等、4人組となった事で重厚感が増し、サウンドのスケールもデカくなった印象。

静と動の絶妙なバランスが持ち味でもあるFrikoの音楽だが、今回の作品でも躍動感溢れるトラックが並ぶなかにあって「Certainty」や「Dear Bicycle」のような静謐な美しさをたたえた楽曲も強い印象を残してくれる。

プロデューサーには数々のアーティストの作品を手掛けたJohn Congletonを迎え、アルバムは彼のLAのスタジオでレコーディングされた。

先般開催された今年のフジロックではRed Marqueeのステージに立ち、New OrderのCeremonyのカバーを披露しオーディエンスを魅了したようだ。