2026年5月12日火曜日

生体リズム










 

【今週の一枚】














Mammal Hands - Circadia [Act Music 2026]

英Norwichのジャズ・トリオMammal Handsによる3年ぶりの6thアルバム。

2012年に結成され2014年に1stアルバム「Animalia」をGondwana Recordsからリリースして以来、前作まで同レーベルの所属であったが、今作がAct Musicレーベル移籍第一弾となった。

また今回の作品は元GoGo PenguinのドラマーであるRob Turner加入後初の作品であり、現在トリオのラインナップはピアニストのNick SmartとSaxophonistのJordan Smartの3名から成っている。

その音楽のスタイルはジャズをベースにしつつ、アンビエント・ミュージックやミニマルリズム、ポスト・クラシカル的な側面も併せ持ち、その演奏はポスト・ロックの影響も感じさせる。

レコーディングは WalesのGiant Wafer Studiosで行われプロデュースはMammal Handsと Ben Cappが手掛けている。

アルバム全体を通じて総じて楽曲そして演奏の完成度は高いが、個人的には終盤8曲目の「Four Flowers」に特に感銘を受けた。

アルバム・タイトルの「Circadia」は生体リズム(サーカディアン・リズム)に由来するそうで、全ての生物が持つ約24時間周期の体内機能変動にインスパイアされたのだとか。






2026年4月28日火曜日

意図

 



【今週の一枚】














Ego Ella May - Good Intentions [Believe UK 2026]

ナイジェリア系英国人シンガーEgo Ella Mayによる新作。

これまで3枚のフル・レングスを発表してきた彼女だが、今作が正規のセカンド・アルバムと捉えているようだ。

活況を呈するサウス・ロンドンのシーンにあって、数多のミュージシャンが鎬を削っているワケだけれど、彼女の存在感は刮目に値するといえるのではなかろうか。

19歳にして独学でギターを習得し始め、ビートメイクも自ら手掛けて音楽制作をするようになった後、倫敦のICPM(The Institute of Contemporary Music Performance)に進学して本格的に学ぶに至った模様。

最初のEP「The Tree」をリリースしたのが2013年との事で既に十数年のキャリアを誇るアーティストだ。

彼女の名前はジャズ界のレジェンドElla Jane Fitzgeraldにちなんで付けられたそうで、大のジャズ・ファンだという父親の影響で幼少の頃から聴き親しんでいたらしい。

Sarah VaughanやBillie Holiday、 Nina Simoneなど往年の先達へのレスペクトを抱きつつもYazmin LaceyやFatima、そしてMoonchildのAmber Navranといった同時代を生きるジャズ、ネオ・ソウルのSSW達へのシンパシーを表明する彼女のアティチュードにはとても好感が持てる。

至高のシルキー・ヴェルヴェット・ヴォイス、大いに堪能したい。









2026年4月21日火曜日

放心



















 【今週の一枚】














Cancer House - The Moth [Motion Ward 2026]

数々のポスト・ロック、インディー・ギター・バンドを輩出してきたイリノイ州シカゴからまた新たな才能が現れた。

90年代スロウコア隆盛期を彷彿とさせる音を鳴らすCancer HouseはKeeyan Haack、Lily Sharratt、Alex Furrh、Whitney Johnsonの4人のメンバーで編成されるバンドで、これまで2枚のシングルを発表しており、今作がデビュー・アルバムにあたるようだが、全6曲収録時間29分と短尺な作品であることからEPの括りで捉えられている向きもあるようだ。

リリースはLAのMotion Wardからで設立10年余りと新興レーベルでありながら数々のアンビエント、実験音楽の作品を世に問うている模様。

古くはRed House PaintersやGalaxie 500にGasterDel Sol、00年代以降もDusterやGrouperといった数々のバンドが素晴らしい作品を残してきたが、このCancer Houseもそれらのバンドの系譜に連なる逸材のように思える。

あたかも録音されていなかった架空のジャム・セッションのムードを醸成する事を目指した、と嘯く彼等だが、本当にスタジオのなかで放心した状態で聴いているかのような錯覚に陥ってしまう。






2026年4月13日月曜日

Vitality









 

【今週の一枚】














Robyn - Sexistential [Young 2026]

スウェーデンのモダン・ポップのスーパースターRobynによる8年ぶりの9thアルバム。

英国Youngレーベルへの移籍第一弾となった。

今作は2010年の彼女の代表作「Body Talk」三部作と呼応する内容となっており、あたかも速射砲のように繰り出されるポップ・チューンが目白押しだ。

1979年生まれで46歳になるという彼女だが、そのバイタリティは全く衰え知らずと言えるだろう。

タイトル・トラックの「Sexistential」は体外受精を経て妊娠10週目の状態でワンナイト・スタンドについてラップするという破天荒なパフォーマンスが繰り広げられているが、その完成度は半端ないと思える。

作品全体を通じてこのうえない高揚感に覆われており、フロアで聴いたらさぞかし盛り上がる事だろう。

彼女はデヴィッド・バーンと共にSaturday Night Liveの50周年を祝うパフォーマンスを披露したり、今をときめくチャーリーXCXとも共演を果たしたそうで、その精力的な活動ぶりに心躍らされる思いである。





2026年4月6日月曜日

Not

















 【今週の一枚】














Joshua Burnside - It's Not Going to be Okay [Nettwerk 2026]

北アイルランド出身で現在ベルファストを拠点に活動するJoshua Burnsideの新作アルバム。

昨年の「Teeth of Time」に続き2年連続でのリリースとなった。

オーセンティックなアイリッシュ民謡をベースにした硬派な音楽性は今作でも健在だ。

悲しみの感情が彼の音楽のモチベーションになっており、13歳の頃に作曲を始めたきっかけも悲しみの感情だったと語っている。

今回のアルバムの制作に入る前の2024年8月に長年の親友ディーン・ジェンドゥビが薬物の過剰摂取で亡くなるという痛ましい出来事があり、その経験を受けてレコーディングが始められ、2025年の秋に完成に漕ぎつけた模様。

収録された楽曲は痛み、苦しみ、そして死の避けられない運命について歌われており、そのシリアスな内容と裏腹にどこか牧歌的なムードに覆われたサウンドが印象的だ。

タイトル・トラックの「It's Not Going To Be Okay」は最後に書かれた楽曲で、アルバムのハイライトと言うべきトラックに仕上がっている。

装飾を削ぎ落したシンプル極まりないアレンジが彼の音楽の特徴と言えるが、今回の作品を制作する際にビル・キャラハン&スモッグの「 A River Ain't Too Much To Love」を愛聴していたそうで、その簡素でありながらも豊かな響きがある音楽に大いにインスパイアされたそう。







2026年3月27日金曜日

必ず











 

【今週の一枚】














Samm Henshaw - It Could Be Worse [Dorm Seven 2026]

サウス・ロンドン出身のナイジェリア系英国人シンガーSamm Henshawによる4年ぶりの2ndアルバム。

ソングライターにしてプロデューサー、マルチ・インストゥルメンタリストとして活動する彼、ヴォーカリストとしての力量は数多のソウル・シンガーのなかにあって突出していると言えるだろう。

Gospel、R&B、Bluesの影響色濃いその音楽性だが、実にオーセンティックなスタイルで、王道そのものである。

サウンド・プロダクションの完成度の高さは言うまでもないにしても、全曲アカペラで歌われてしたとしても、十分聴き応えがあるのではないだろうか。

オープニング・トラックの「Don’t Give It Up」から続く「Closer」と掴みは完璧で、「Sun and Moon」や「Get Back」といったトラックにも大いに感銘を受けた次第だ。

現在ワールド・ツアー中の彼、ここ日本から公演を開始したらしく、なんとワタクシの誕生日の1月27日のEX THEATER ROPPONGIが初日だったらしく、後から知って心底後悔しているが後の祭りである。

次来日したら必ず行くぞ。









2026年3月16日月曜日

怒涛














 

【今週の一枚】














Xavisphone - balança e paixão [Modern Love 2026]

xavisphoneことXavier Herreraによるデビュー・アルバム。

ドミニカ系とブラジル系の両親のもとに生まれた彼、ボストン郊外の出身で現在はマルセイユを拠点に活動している模様。

過去にはアリアナ・グランデやヴィンス・ステイプルズの作品に携わったキャリアの持ち主で、現在はメジャーのシーンから完全に決別し、2024年頃からsoundcloudに楽曲をUPし始めたところModern Loveレーベルの目に止まり今作のリリースに漕ぎつけたようだ。

何とも凄まじくカオティックなサウンドがアルバム全体を通じて展開されているが、「バイラファンキ」というカテゴリーに分類されるらしく、1980年代末にリオデジャネイロのファベーラ(貧民街)で生まれた音楽だそうでファンキ・カリオカ、ブラジリアン・ファンクとも呼ばれるんだそう。

全12曲で収録時間25分とかなり短尺な作品であるにも関わらず物足りなさは一切感じさせず、怒涛のビートに圧倒されまくり。

他に似たタイプのアーティストが全く思い浮かばないというか、こんな音楽初めて聴いたような気がしてしまう。

未確認生命体みたいな音楽家に出会ってしまった気分だ。