2026年9月3日木曜日














 

【今週の一枚】



















Madeon - Victory [Mom + Pop Music 2026]

MadeonことHugo Pierre Leclercqによる7年ぶりの3rdアルバム。

まずもって冒頭の「Hi!」の荒々しいギター・ノイズに驚かされる。

チャーリーXCXの最新作といい、ダンス・ミュージックからロックへの接近は昨今のトレンドなのだろうか。

続く「Car Crash Baby」はトラディショナルなアプローチのエレクトロ・サウンドで軽快なリズムで進行しつつもどこか切迫感も感じさせる。

Flatbush ZombiesのErick The Architectをフィーチャーした「Super Platinum」はヒップ・ホップとEDMの相性の良さを体現したかのようなトラックだ。

5曲目の「Somebody Else Lyrics」はMadeonの真骨頂というべき青臭くてエモいメロディを堪能できる。

アルバムのラストを締め括る「Lonely Space Age」は往年のシャンソン~フレンチ・ポップの影響色濃いメロウな楽曲で、今作のなかでも異彩を放っているが、しみじみと余韻に浸れる作りとなっている。

総じてしっかり作りこまれた緻密なサウンド・メイキングを堪能出来る作品に仕上がっているのは間違いないにしても、どこか物足りなさを感じたのも正直なトコロ。

まだまだブレイク・スルーを期待できる大器だと思うので今後の活動ぶりにも注目したい。






2026年8月26日水曜日

確信

 












【今週の一枚】














Phoebe Bridgers - Lost Weekend [Dead Oceans 2026]

紛れもなくキャリア・ベストと言えるのでは。

カリフォルニアのシンガー・ソングライターPhoebe Bridgersによる6年ぶりの3rdアルバム。

ソロ名義としては久々のリリースとなるが、2023年にはJulien Baker、Lucy DacusとのユニットBoygeniusとしてデビュー・アルバムを発表、大いに好評を博したのは記憶に新しい。

コロナ初期の2020年にはThe Nationalのサポート・アクトとして来日する予定だったのがやむなく中止で悲嘆に暮れたものだったが、その後2023年2月にZepp DiverCityで初来日公演を観れたのは本当に素晴らしい経験だった。

さて正に待望の新作となった今作、エレクトロニカやアンビエント寄りのアプローチも感じられるが、彼女の音楽の根幹を支えるインディー・フォーク・スタイルは不変のものであり、アルバム全体を通じてソング・ライティングのクオリティが傑出しているように思える。

オープニング・トラック「The Outside」はImogen Heapの代表作「Hide and Seek」を彷彿とさせるようなヴォイス・エフェクトが施された実験色の強い楽曲だが実に幻想的で美しい。

続く「Lost Boys」はエモーショナルなコーラスが印象的で躍動感溢れるギターのストロークが痛快だ。

タイトル・トラック「Lost Weekend」の共作者のクレジットにDamien Juradoの名前を見つけたのは嬉しい驚きだったが、その他にもGeeseのCameron WinterやBlake Mills、Conor Oberstといった錚々たる面々が今作のコラボレーターとして名を連ねている。

作品を通じて全く捨て曲のない今回の作品だが、なかでも白眉はAmerican FootballのMike Kinsellaもギターで参加した「Bobby」ではなかろうか。

これからも彼女の代表曲のひとつとして語り継がれるであろう名曲に仕上がっていると思える。

プロデュースは彼女自身と長年の盟友的存在Ethan Gruska、Jack AntonoffそしてAlex Gが務めた。

UKアルバム・チャートで1位、そしてビルボード200でも2位を獲得した今回の「Lost Weekend」、これからも長く愛され続ける作品だと確信出来る。







2026年8月17日月曜日

快挙











 【今週の一枚】














Charli XCX - Music, Fashion, Film [Atlantic 2026]

このアートワークには驚かされた。

John CaleとMarc Jacobs、Martin Scorseseという音楽界、ファッション界、映画界のそれぞれ巨匠というべき存在の3人が不敵な表情で写真に捉えられている。

チャーリーXCXの8thアルバム。

今年は映画「Wuthering Heights」のサウンドトラック盤もリリースしており、UKアルバム・チャートで初登場チャート1位を獲得、今回のアルバムと併せ、一年の間に2枚のチャート・トップ作品をリリースするという離れ業を演じている。

これは英国人女性アーティストとしては初の快挙だそうだ。

2024年の「Brat」ではハイパー・ポップ界の寵児として絶賛を浴びた彼女、今作ではノイジーなギターサウンドを大胆に取り入れ、ロック・ミュージック的なアプローチにシフト・チェンジしてきた。

しかしながら作品一枚を通じての印象はこれも紛れもなくチャーリーそのものだなあというものだった。

彼女ほど突出した個性だと音楽的な方向性が少々変わったくらいでは、そのアイデンティティは微塵も揺るがないと痛感させられた。

レコーディングはパリのRue Boyer Studiosで行われ、プロデュースは長年のコラボレーターA. G. CookとFinn Keaneが手掛けた。

アルバムのラストを飾る「No One Lasts Forever」ではDavid Cronenbergのポエトリー・リーディングがフィーチャーされている。





2026年8月10日月曜日

理由














 【今週の一枚】














Nick Hakim - I Can See [Earseed Records 2026]

NYクイーンズを拠点に活動するマルチ・インストゥルメンタリストNick Hakimによる4年ぶりの4thアルバム。

ブランクの間もAdrianne LenkerやKassa Overall等の作品に携わるなど音楽活動は継続していたようだ。

チリ人の母親とペルー人の父親を持ちコスモポリタンな側面を持つ彼、その音楽性もなかなかに形容し難い異形のものと言えるが、今作も正に一筋縄ではいかない仕上がりとなっている。

オルタナR&Bというカテゴライズが一般的になって久しいが、今回のアルバムをストーナーR&Bと評した記述を見つけ、ものすごく同意させられてしまった。

作品一枚を通じてスモーキーで霞がかった印象というか、酩酊した状態で鳴らされているような感覚に陥るが、細部に耳を傾けると実に緻密に計算された作りとなっているのは実に素晴らしいと思える。

スティーヴ・ライヒとテリー・ライリーからの影響を公言する彼、R&Bをベースにしつつも、ミニマリズム的なアプローチも随所に感じさせてくれる。

往年のトーチソング的な側面も感じられ、どこかノスタルジックなムードを醸し出しているのも味わい深い。

自宅のベッドルームで作品作りが始められ、テキサス州トルニージョのSonic Ranch やニューヨークの数々のスタジオでレコーディングが行われ、プロデュースはNick自身とDijon や Bon Iver等との仕事で名高いAndrew Sarloとの共同作業で行われた。

インパクト抜群で素晴らしいアートワークはデザイナーのArjuna Routte-Prieur と写真家の Jack McKainによって作成されたそう。






2026年7月28日火曜日

確かなこと





















 【今週の一枚】














Friko - Something Worth Waiting For [ATO Records 2026]

やっぱりダサくてエモくてサイコーだ。

シカゴのFriko、2年ぶりのセカンド・アルバム。

鮮烈なデビュー作「Where We've Been, Where We Go from Here」に続く作品とあって期待と不安が交錯するような感覚で聴き始めたが、全くの杞憂であった。

インディー・ミュージックのみならず、よく「セカンド・アルバムのジンクス」みたいなハナシで2枚目でコケるのも珍しくないが、彼らはそのジンクスをさらりと乗り越えてきた。

もともとフロントマンのNiko KapetanとドラマーのBailey Minzenbergerの二人組でライブの際はサポートの二人を加えて4人編成で演奏していたが、正式にベーシストのDavid FullerとギタリストのKorgan Robbがメンバーに加わり新生Frikoとして活動している模様。

もともとNikoのパッショネイトで強烈なボーカル・スタイルと爆音ギター、Baileyのダイナミックなドラム・プレイが持ち味だった彼等、4人組となった事で重厚感が増し、サウンドのスケールもデカくなった印象。

静と動の絶妙なバランスが持ち味でもあるFrikoの音楽だが、今回の作品でも躍動感溢れるトラックが並ぶなかにあって「Certainty」や「Dear Bicycle」のような静謐な美しさをたたえた楽曲も強い印象を残してくれる。

プロデューサーには数々のアーティストの作品を手掛けたJohn Congletonを迎え、アルバムは彼のLAのスタジオでレコーディングされた。

先般開催された今年のフジロックではRed Marqueeのステージに立ち、New OrderのCeremonyのカバーを披露しオーディエンスを魅了したようだ。







2026年7月14日火曜日

摩天楼

 










【今週の一枚】














Nirosta Steel - MY SKYSCRAPER [ULYSSA 2026]

Nirosta SteelことSteven Hallはスコットランド生まれの米国人アーティスト。

1957年生まれの彼は15歳で渡米、70年代からNYのアート・シーンに深く関わり、多くの芸術家と交流を持ったが、なかでも故Arthur Russellとは特別に親しい関係だったようだ。

今作「MY SKYSCRAPER」は約40年にわたる彼の音源アーカイブから厳選した楽曲をULYSSAレーベルとの提携のもと再構築し一枚のアルバムにまとめあげた作品である。

最も古い楽曲は80年代に録音され、最も新しい「FIRST LOVE」は昨年レコーディングされたというから本当に長い時間の隔たりがあるし、録音スタイルもアナログ・カセットから最新のデジタル機器に至るまでかなりバリエーションに富んでいるが、不思議な程に統一感がある。

ヴァイナル版だと2枚組、全17曲収録時間83分の大作だが、全く長さを感じさせない。

ちなみにオープニング・トラック「English Party」は元々Madonnaのために書かれたそうだ。

M14「Mohn (Mandarin Version)」では曲中に突然京劇の歌が流れて驚かされるが、これは京劇歌手の洪秋鳳によるものでStevenは台湾と香港に在住した経験があり広東語で歌った作品をリリースした事もあるのだとか。

またタイにも縁が深くM16「Thaitanium」はバンコクで制作されたようで、正に流浪の吟遊詩人と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

インタビューに応えて「69歳でポップスターになるなんて、ばかばかしくて面白い」と嘯く彼だが、実にクールだと思える。






2026年7月7日火曜日

仔羊











 【今週の一枚】














Gustav Kemps - Lonesome For A Storm [Motion Ward 2026]

今年Cancer House の「The Moth」で注目を集めたLAのMotion Wardレーベルより、これまた異才とよぶべきアーティストの作品が発表された。

ベルリンのYorck StreetやFelicity J Lord等とのコラボレーションでも知られるGustav Kempsが初めて自らのソロ・アルバムをリリース。

これが極上の幽玄アンビエント・フォークに仕上がっている。

装飾を極限まで削ぎ落したアレンジはアコースティック・ギターの音色が主体となっており、電子音のエフェクトやフィールド・サンプリングのサウンドが非常に効果的に用いられている。

全てのインストゥルメンツの演奏はGustav自身によってなされ、3曲目の「Fog」とラスト・トラックの「Afterglow」でLily Beltaneによる美麗極まりない歌声が披露されているが歌唱というよりは楽器のひとつとしてのコーラス・ワークという印象が強い。

マスタリングはIke Zwanikkenによって為され、アートワークはJustus de Rodeの撮影した素材をもとにNathan Collisがデザインを担当した模様。

異形のミニマリズム・サウンド、存分に浸りたい。