2026年5月26日火曜日










 

【今週の一枚】













Kathryn Mohr - Carve [The Flenser 2026]

米国ベイエリアを拠点に活動するKathryn Mohrによる2ndアルバム。

5年の年月をかけて書き上げられた楽曲の数々をアメリカ南西部のモハーヴェ砂漠に移動式住宅を持ち込み数週間かけて、たった一人で制作された。

リズム・トラックは完全に排除され、ギターとフィールド・レコーダーを駆使して録音するという実にストイックなスタイルが採られている。

その作風は硬派極まりなく、殺伐とした雰囲気すら漂わせている。

ただ、荒涼かつ陰鬱なサウンド・スケープが展開されるなかにあって、どこかロマンティックなムードも醸し出しているあたり、一筋縄では行かない表現力を持つアーティストと言えるだろう。

先行シングルの「Property」は重低音の効いたギター・サウンドがとても印象的で、中毒性が高い。

なかでも圧巻はラスト・トラックの「Crow Eyes」で怒涛のギター・ドローン・ノイズには圧倒されるばかりだ。

あまり比較対象になるようなミュージシャンが思い浮かばないが、あえて挙げるとするならThrowing MusesのKristin Hershなんかに近しい部分はあるかも知れない。

ミクシングとマスタリングはThe Flenserのレーベルメイトの Agriculture の Richard Chowenhilが担当した模様。







2026年5月19日火曜日










 

【今週の一枚】













Gia Margaret - Singing [Jagjaguwar 2026]

シカゴを拠点に活動するGia Margaretによる3年ぶりの4thアルバム。

2018年にリリースされたデビュー作のツアー中に声帯を痛め、前2作は基本的にインストゥルメンタル作(それぞれ1曲づつ歌声を披露)だった彼女だが、今回の作品で本格的に「ウタ」に回帰している。

前作「Romantic Piano」は文字通りピアノ主体のアンビエント作品だったが、今作は2曲を除いてその美声を堪能できる仕上がりとなっている。

インスト曲のうちのひとつ「Ambient for Ichiko」は彼女が昨年来日公演を果たした際に共演した青葉市子に捧げられている。

またラスト・トラックの「E-Motion」ではKurt Vileがギタリストとして参加、その他Pedro the LionのDavid Bazan、StarsやBrokenSocialSceneで名高いAmy Millan、Imogen HeapとのFrou Frouが懐かしいGuy SigswortそしてBon Iverの初期ドラマーとして知られるSean Carey等豪華ゲスト陣が客演を果たしているあたり、彼女のヴォーカリストとしての完全復活を祝福しているかのようで感慨深い。

リーディング・シングルにしてオープニング・トラックの「Everyone Around Me Dancing」からして掴みは完璧と言えるが作品のハイライトは中盤の「Good Friend」から「Phenomenon」にかけての流れの様に思えた。

自身の音楽を自嘲気味に「Sleep Rock」と表現する彼女だが、そのサウンドは正に白昼夢のような美しさを湛えていると言えまいか。






2026年5月12日火曜日

生体リズム










 

【今週の一枚】














Mammal Hands - Circadia [Act Music 2026]

英Norwichのジャズ・トリオMammal Handsによる3年ぶりの6thアルバム。

2012年に結成され2014年に1stアルバム「Animalia」をGondwana Recordsからリリースして以来、前作まで同レーベルの所属であったが、今作がAct Musicレーベル移籍第一弾となった。

また今回の作品は元GoGo PenguinのドラマーであるRob Turner加入後初の作品であり、現在トリオのラインナップはピアニストのNick SmartとSaxophonistのJordan Smartの3名から成っている。

その音楽のスタイルはジャズをベースにしつつ、アンビエント・ミュージックやミニマルリズム、ポスト・クラシカル的な側面も併せ持ち、その演奏はポスト・ロックの影響も感じさせる。

レコーディングは WalesのGiant Wafer Studiosで行われプロデュースはMammal Handsと Ben Cappが手掛けている。

アルバム全体を通じて総じて楽曲そして演奏の完成度は高いが、個人的には終盤8曲目の「Four Flowers」に特に感銘を受けた。

アルバム・タイトルの「Circadia」は生体リズム(サーカディアン・リズム)に由来するそうで、全ての生物が持つ約24時間周期の体内機能変動にインスパイアされたのだとか。






2026年4月28日火曜日

意図

 



【今週の一枚】














Ego Ella May - Good Intentions [Believe UK 2026]

ナイジェリア系英国人シンガーEgo Ella Mayによる新作。

これまで3枚のフル・レングスを発表してきた彼女だが、今作が正規のセカンド・アルバムと捉えているようだ。

活況を呈するサウス・ロンドンのシーンにあって、数多のミュージシャンが鎬を削っているワケだけれど、彼女の存在感は刮目に値するといえるのではなかろうか。

19歳にして独学でギターを習得し始め、ビートメイクも自ら手掛けて音楽制作をするようになった後、倫敦のICPM(The Institute of Contemporary Music Performance)に進学して本格的に学ぶに至った模様。

最初のEP「The Tree」をリリースしたのが2013年との事で既に十数年のキャリアを誇るアーティストだ。

彼女の名前はジャズ界のレジェンドElla Jane Fitzgeraldにちなんで付けられたそうで、大のジャズ・ファンだという父親の影響で幼少の頃から聴き親しんでいたらしい。

Sarah VaughanやBillie Holiday、 Nina Simoneなど往年の先達へのレスペクトを抱きつつもYazmin LaceyやFatima、そしてMoonchildのAmber Navranといった同時代を生きるジャズ、ネオ・ソウルのSSW達へのシンパシーを表明する彼女のアティチュードにはとても好感が持てる。

至高のシルキー・ヴェルヴェット・ヴォイス、大いに堪能したい。









2026年4月21日火曜日

放心



















 【今週の一枚】














Cancer House - The Moth [Motion Ward 2026]

数々のポスト・ロック、インディー・ギター・バンドを輩出してきたイリノイ州シカゴからまた新たな才能が現れた。

90年代スロウコア隆盛期を彷彿とさせる音を鳴らすCancer HouseはKeeyan Haack、Lily Sharratt、Alex Furrh、Whitney Johnsonの4人のメンバーで編成されるバンドで、これまで2枚のシングルを発表しており、今作がデビュー・アルバムにあたるようだが、全6曲収録時間29分と短尺な作品であることからEPの括りで捉えられている向きもあるようだ。

リリースはLAのMotion Wardからで設立10年余りと新興レーベルでありながら数々のアンビエント、実験音楽の作品を世に問うている模様。

古くはRed House PaintersやGalaxie 500にGasterDel Sol、00年代以降もDusterやGrouperといった数々のバンドが素晴らしい作品を残してきたが、このCancer Houseもそれらのバンドの系譜に連なる逸材のように思える。

あたかも録音されていなかった架空のジャム・セッションのムードを醸成する事を目指した、と嘯く彼等だが、本当にスタジオのなかで放心した状態で聴いているかのような錯覚に陥ってしまう。






2026年4月13日月曜日

Vitality









 

【今週の一枚】














Robyn - Sexistential [Young 2026]

スウェーデンのモダン・ポップのスーパースターRobynによる8年ぶりの9thアルバム。

英国Youngレーベルへの移籍第一弾となった。

今作は2010年の彼女の代表作「Body Talk」三部作と呼応する内容となっており、あたかも速射砲のように繰り出されるポップ・チューンが目白押しだ。

1979年生まれで46歳になるという彼女だが、そのバイタリティは全く衰え知らずと言えるだろう。

タイトル・トラックの「Sexistential」は体外受精を経て妊娠10週目の状態でワンナイト・スタンドについてラップするという破天荒なパフォーマンスが繰り広げられているが、その完成度は半端ないと思える。

作品全体を通じてこのうえない高揚感に覆われており、フロアで聴いたらさぞかし盛り上がる事だろう。

彼女はデヴィッド・バーンと共にSaturday Night Liveの50周年を祝うパフォーマンスを披露したり、今をときめくチャーリーXCXとも共演を果たしたそうで、その精力的な活動ぶりに心躍らされる思いである。





2026年4月6日月曜日

Not

















 【今週の一枚】














Joshua Burnside - It's Not Going to be Okay [Nettwerk 2026]

北アイルランド出身で現在ベルファストを拠点に活動するJoshua Burnsideの新作アルバム。

昨年の「Teeth of Time」に続き2年連続でのリリースとなった。

オーセンティックなアイリッシュ民謡をベースにした硬派な音楽性は今作でも健在だ。

悲しみの感情が彼の音楽のモチベーションになっており、13歳の頃に作曲を始めたきっかけも悲しみの感情だったと語っている。

今回のアルバムの制作に入る前の2024年8月に長年の親友ディーン・ジェンドゥビが薬物の過剰摂取で亡くなるという痛ましい出来事があり、その経験を受けてレコーディングが始められ、2025年の秋に完成に漕ぎつけた模様。

収録された楽曲は痛み、苦しみ、そして死の避けられない運命について歌われており、そのシリアスな内容と裏腹にどこか牧歌的なムードに覆われたサウンドが印象的だ。

タイトル・トラックの「It's Not Going To Be Okay」は最後に書かれた楽曲で、アルバムのハイライトと言うべきトラックに仕上がっている。

装飾を削ぎ落したシンプル極まりないアレンジが彼の音楽の特徴と言えるが、今回の作品を制作する際にビル・キャラハン&スモッグの「 A River Ain't Too Much To Love」を愛聴していたそうで、その簡素でありながらも豊かな響きがある音楽に大いにインスパイアされたそう。