2025年10月27日月曜日

証左











 

【今週の一枚】














Blood Orange - Essex Honey [RCA Records 2025]

Blood OrangeことDevonté Hynesによる7年ぶりの5thアルバム。

先行シングルとなった「The Field」にはCaroline Polachek、Daniel Caesar、 Tariq Al-Sabirに加えてなんとUKインディー界の伝説的存在The Durutti Columnことヴィニ・ライリーがフィーチャーされており驚かされた。

加えてM12「Scared Of It」にはBrendan Yatesと共にEBTGのBen Watt もその名を連ねており世代を超えて彼の音楽が支持を受けている証左とは言えまいか。

プロデュースとミックスは自身とMikaelin "Blue" Bluespruceの共同作業で進められ、マスタリングはHeba Kadryが手掛けた模様。

作品全体を通じてその洗練されたアレンジは見事としか言い様がないが、時折鳴らされる流麗なストリングスは実に感動的だ。

ラスト・トラック「I Can Go」には昨年傑作アルバムを発表したMustafaがゲスト・ヴォーカルとして参加、味わい深い歌唱を披露している。

それにしても今年はDijonやNourished By Time然りでポストR&Bの佳作が多い年だとまざまざと実感させられる。




2025年10月20日月曜日

虚栄心











 

【今週の一枚】














Malibu - Vanities [YEAR0001 2025]

仏人プロデューサーMalibuことBarbara Bracciniのデビューアルバム。

これが実に見事なアンビエント作品となっており、深海で鳴らされているかのようなドローン・ミュージックだ。

今年佳作アルバムをリリースした同じフランスのOklouとはツアーを共にする関係なのだとか。

今作は主にストックホルムで制作され、最終的にはロサンゼルスで完成に漕ぎつけた模様。

シューゲイザーの再評価の高まる昨今だが、90年代にはドリーム・ポップと呼ばれるカテゴリーのバンドが多数活躍しており、このMalibuもその系譜に連なるアーティストのように思える。

個々の楽曲のクオリティもさることながら、アルバム全体がひとつの芸術作品として圧倒的な完成度を誇っていると言えるのではなかろうか。





2025年10月14日火曜日









 

【今週の一枚】














Purity Ring - Purity Ring [The Fellowship 2025]

カナダのエレクトロニック・ポップ・デュオPurity Ringによる5年ぶりの4thアルバムはセル・タイトル作品となった。

コロナ禍の2022年にEP「Graves」を発表しているものの、多くのファンにとって待望の復活作だと言えるだろう。

今作はコンセプト・アルバムとなっており、架空のロール・プレイング・ゲームのサウンドトラックとして制作されており、「ゼルダの伝説」や「ファイナル・ファンタジー」などのゲームにインスパイアされているのだとか。

初期の頃からエレクトロ歌謡的なスタイルは一貫している彼等、今回のアルバムで完成の域に達したように感じられた。

Corin Roddickによるトラック・メイキングは全編にわたって冴え渡っているし、Megan Jamesによるヴォーカルはかつてないほどに魅力的だ。

オープニングの「Relict」からして掴みは最高過ぎるし、「Many Lives」「Part II」「Place of My Own」の怒涛のシングル3連発は圧巻の出来。

個人的にはM5「Red the Sunrise」やM12「Broken Well」といったトラックに深く感銘を受けた次第。

キャリア・ピークとなった今回の作品だが、これからの活動にも大いに期待したいトコロだ。







2025年10月6日月曜日

とんま

















 【今週の一枚】














Geese - Getting Killed [Partisan Records 2025]

GeeseはNYブルックリン出身の4人組ロックバンドで今作が4thアルバム。

来年で結成10年を迎えるという彼等、バンド名の由来はギタリストのEmily GreenのニックネームGoose(ダチョウ、スラングでとんま)の複数形との事。

ロック・バンドというフォーマットで産み出される音というにはもう既に出尽くしてしまったようにも思えるが、未だにこういうプリミティブでレアなサウンドに圧倒されてしまうことに驚きを覚えてしまう。

丁度30年前に渋谷のクアトロでG・ラヴ&スペシャル・ソースとザ・ジョン・スペンサー・ブルースエクスプロージョンとのスプリット公演を観た事があるのだけれど、その時ですら「いまこんな音を鳴らすのか」と思ったものなのに2025年のいまこのGeeseのむきだしのロックンロールに戦慄を憶えてしまう。

NYのアートロックの先達テレヴィジョンへの憧憬を公言する彼等だが、「メインストリートのならず者」期のローリング・ストーンズをも彷彿させる。

来年2月には代官山SPACE ODDで初来日公演が開催されるとの事だが、あのクラスのハコで見られるのは最初で最後になるのではなかろうか。