2026年7月28日火曜日

確かなこと





















 【今週の一枚】














Friko - Something Worth Waiting For [ATO Records 2026]

やっぱりダサくてエモくてサイコーだ。

シカゴのFriko、2年ぶりのセカンド・アルバム。

鮮烈なデビュー作「Where We've Been, Where We Go from Here」に続く作品とあって期待と不安が交錯するような感覚で聴き始めたが、全くの杞憂であった。

インディー・ミュージックのみならず、よく「セカンド・アルバムのジンクス」みたいなハナシで2枚目でコケるのも珍しくないが、彼らはそのジンクスをさらりと乗り越えてきた。

もともとフロントマンのNiko KapetanとドラマーのBailey Minzenbergerの二人組でライブの際はサポートの二人を加えて4人編成で演奏していたが、正式にベーシストのDavid FullerとギタリストのKorgan Robbがメンバーに加わり新生Frikoとして活動している模様。

もともとNikoのパッショネイトで強烈なボーカル・スタイルと爆音ギター、Baileyのダイナミックなドラム・プレイが持ち味だった彼等、4人組となった事で重厚感が増し、サウンドのスケールもデカくなった印象。

静と動の絶妙なバランスが持ち味でもあるFrikoの音楽だが、今回の作品でも躍動感溢れるトラックが並ぶなかにあって「Certainty」や「Dear Bicycle」のような静謐な美しさをたたえた楽曲も強い印象を残してくれる。

プロデューサーには数々のアーティストの作品を手掛けたJohn Congletonを迎え、アルバムは彼のLAのスタジオでレコーディングされた。

先般開催された今年のフジロックではRed Marqueeのステージに立ち、New OrderのCeremonyのカバーを披露しオーディエンスを魅了したようだ。







2026年7月14日火曜日

摩天楼

 










【今週の一枚】














Nirosta Steel - MY SKYSCRAPER [ULYSSA 2026]

Nirosta SteelことSteven Hallはスコットランド生まれの米国人アーティスト。

1957年生まれの彼は15歳で渡米、70年代からNYのアート・シーンに深く関わり、多くの芸術家と交流を持ったが、なかでも故Arthur Russellとは特別に親しい関係だったようだ。

今作「MY SKYSCRAPER」は約40年にわたる彼の音源アーカイブから厳選した楽曲をULYSSAレーベルとの提携のもと再構築し一枚のアルバムにまとめあげた作品である。

最も古い楽曲は80年代に録音され、最も新しい「FIRST LOVE」は昨年レコーディングされたというから本当に長い時間の隔たりがあるし、録音スタイルもアナログ・カセットから最新のデジタル機器に至るまでかなりバリエーションに富んでいるが、不思議な程に統一感がある。

ヴァイナル版だと2枚組、全17曲収録時間83分の大作だが、全く長さを感じさせない。

ちなみにオープニング・トラック「English Party」は元々Madonnaのために書かれたそうだ。

M14「Mohn (Mandarin Version)」では曲中に突然京劇の歌が流れて驚かされるが、これは京劇歌手の洪秋鳳によるものでStevenは台湾と香港に在住した経験があり広東語で歌った作品をリリースした事もあるのだとか。

またタイにも縁が深くM16「Thaitanium」はバンコクで制作されたようで、正に流浪の吟遊詩人と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

インタビューに応えて「69歳でポップスターになるなんて、ばかばかしくて面白い」と嘯く彼だが、実にクールだと思える。






2026年7月7日火曜日

仔羊











 【今週の一枚】














Gustav Kemps - Lonesome For A Storm [Motion Ward 2026]

今年Cancer House の「The Moth」で注目を集めたLAのMotion Wardレーベルより、これまた異才とよぶべきアーティストの作品が発表された。

ベルリンのYorck StreetやFelicity J Lord等とのコラボレーションでも知られるGustav Kempsが初めて自らのソロ・アルバムをリリース。

これが極上の幽玄アンビエント・フォークに仕上がっている。

装飾を極限まで削ぎ落したアレンジはアコースティック・ギターの音色が主体となっており、電子音のエフェクトやフィールド・サンプリングのサウンドが非常に効果的に用いられている。

全てのインストゥルメンツの演奏はGustav自身によってなされ、3曲目の「Fog」とラスト・トラックの「Afterglow」でLily Beltaneによる美麗極まりない歌声が披露されているが歌唱というよりは楽器のひとつとしてのコーラス・ワークという印象が強い。

マスタリングはIke Zwanikkenによって為され、アートワークはJustus de Rodeの撮影した素材をもとにNathan Collisがデザインを担当した模様。

異形のミニマリズム・サウンド、存分に浸りたい。








2026年6月30日火曜日

無銘











 

【今週の一枚】














American Football - LP4 [Polyvinyl 2026]

米イリノイ州のAmerican Footballによる7年ぶりの4thアルバム。

これまでの作品同様今回も正式なアルバム名は無く、通称「LP4」と呼ばれている様。

ドラマーのSteve Lamosが一時脱退した時期もあったようだが、無事復帰を果たし、ギター・ボーカルのMike Kinsella、ベースのNate Kinsella、ギターのSteve Holmesの4人のオリジナル・ラインナップが集結し作品作りが進められたようだ。

ファースト・アルバムがリリースされたのが1999年の事なのでバンドは30年近い歴史を誇る中で4作目というのは寡作な方ともいえるが、Mike KinsellaはJoan of ArcやOwenなど多くのプロジェクトで多数の作品を発表しており、常に活動し続けてきた印象だ。

2019年の「LP4」発表後のツアーを終え一年の休養を経て次作に取り組む予定だったのが、コロナ禍のなか再開には至らず、リモートでの制作にもトライしたものの、なかなか上手くいかなかったらしい。

その後MikeとNateのプロジェクトLIESのアルバムがリリースされ、American Footballとしての活動も本格化、今作の完成に漕ぎ付けたという経緯らしい。

ポスト・ロック、エモの文脈で語られる事が多い彼等、スケール感溢れるダイナミックなバンド・サウンドとリリシズムが同居する音楽性は健在だ。

今回のアルバムにはTurnstileのBrendan Yates、Rainer MariaのCaithlin De Marrais、そしてWispことNatalie R. Luといった面々がコーラスで参加、作品に華を添えている。

7月には2019年以来のフジロックへの参加で久々の来日が予定されている模様。








2026年6月24日水曜日

蟷螂











 

【今週の一枚】














Courtney Barnett - Creature Of Habit [Mom + Pop Music 2026]

豪州出身で現在メルボルンとLAの二拠点で活動するCourtney Barnettの5年ぶりの4thアルバム。

デビュー作「Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit」をリリースしたのが2015年のことなので、もうそれから10年以上の月日が経過した事になる。

これまでの作品はNYのMom + Pop Musicと自身が設立したMilk! Recordsからのリリースだったが、2023年にMilk! Recordsは解散の運びとなったようだ。

重厚なリズム・ワークと切れ味鋭いギター・プレイが心地よいオープニング・トラック「Stay in Your Lane」で幕を開ける本作、続く「Wonder」とM6「Mantis」の2曲は彼女のキャリアを代表するトラックになるような気がしてならない。

M3「Site Unseen」はアルタナ・カントリー界の歌姫のひとりWaxahatcheeをフィーチャー、またM5「One Thing at a Time」では今年ソロ・アルバムを発表したRed Hot Chili PeppersのFleaがベース・プレイを披露している。

Courtney Barnettは先週Spotify O-EASTで来日ソロ公演を行っており、我ながら間抜けな事にその情報をしったのが公演後だっという。

次回は必ず行こう。







2026年6月16日火曜日

 














【今週の一枚】













Fink - The City Is Coming To Erase It All [R'Coup'd 2026]

英国Cornwall出身で現在はベルリンと倫敦を拠点に活動するFinkことFin Greenallによる2年ぶりの9thアルバム。

仏LyonのフィメイルSSWClaire daysのデビュー作および2ndでは演奏のサポートに加えプロデュースにミキシングと全面的なバックアップというべき仕事ぶりであったワケだけれど、自身の作品もコンスタントに発表し続けてくれているのは敬服に値するのでは。

1952年生まれの彼だが幼少の頃から様々な音楽に触れながら育ち、リーズ大学在学中にエレクトロニック・ミュージックやダンス・ミュージックに傾倒するようになりDJとして活動していた時期もあったようだ。

2000年代中頃になると彼の関心は伝統的な音楽に寄せられるようになり、現在のコラボレーターであるギタリスト兼ドラマーのTim ThorntonとベーシストのGuy Whittakerとのトリオ編成でアコースティック・ミュージックを追求した作品作りに邁進するようになった模様。

今作のインスピレーションにはヨークシャー出身のMichael ChapmanやJoni Mitchellが挙げられており、70年代のサウンドの感触に憧憬を抱きつつも、現代風の雰囲気や精神性を追求した音作りに成功しているように感じられた。

アルバムは柔らかな陽光を浴びているかのような感覚に陥る「Wishing For Blue Sky」で幕を開け、彼の麗しい美声とアコギのサウンドを堪能できる佳曲が続くが、ハイライトは中盤の「Memorise Your Senses」だ。

トライバルなリズム・ワークにのって紡がれる音のタペストリーは彼の真骨頂とは言えまいか。

作品のラストを飾る「Spirit Of Place」は唯一のインスト曲で往年のSongs: OhiaことJason Molinaを彷彿させるかのような幽玄美に溢れたトラックとなっている。





2026年6月9日火曜日

業火















 【今週の一枚】













Boards of Canada - Inferno [Warp Records 2026]

スコットランドのMike SandisonとMarcus Eoinによる兄弟デュオBoards of Canadaの13年ぶりとなる5thアルバム。

全19曲収録時間1時間11分の大作だ。

長いブランクの間に幾つかのリミックス作のリリースがあったといえ、多くのファンにとって正に待望のカムバックと言えるだろう。

1998年のデビュー作「Music Has the Right to Children」でエレクトロニック・ミュージック界に登場した彼等、その独特な存在感は今もって健在である。

兄弟が幼少期を過ごした70年代の音楽やメディアに強くノスタルジアを感じているのは明白で、あえて使い古されたサウンドを再現するかの如くヴィンテージ・シンセを駆使して鳴らされる楽曲の数々は時としてオカルティックで呪術的かつ宗教的な響きを現出している。

アルバム一枚が絵画的でもあり、長編の映画を観ているかのような錯覚に陥ってします。

ちなみにBoards of Canadaという名前の由来は1980年ごろに建設業に従事していた兄弟の父親とともにカナダのカルガリーに住んでいた頃に彼等が観ていたドキュメンタリー映画やアニメーションを制作していた政府機関であるカナダ国立映画庁(National Film Board of Canada)にちなんで名付けられたそう。





2026年6月2日火曜日

Thoroughbred














 

【今週の一枚】














Storey Littleton - At a Diner [Don Giovanni 2026]

2000年にリリースされたIdaの「Will You Find Me」という作品には当時大いに感銘を受けて愛聴した記憶があるが、2002年のDaniel LittletonとTara Jane O'Neilの来日公演には当時住んでいた高松から瀬戸大橋を車で渡って尾道まで足を運んだ程思い入れが強かった。

そのIdaのDanielとElizabeth Mitchellの娘がデビュー・アルバムを発表したというので心底驚いた。

期待しすぎる程期待して音源に触れたワケだが、ファースト・インプレッションとしては、拍子抜けする程オーソドックスなスタイルだな、というかともすれば優等生過ぎるようにさえ思えてしまった。

ただ、何度か聴き進めていくうちに、これはノーマル過ぎるようでいて実に深みのあるフォーキッシュ・ポップのように感じられるようになった次第だ。

インディー・フォーク界の正にサラブレット的存在と言える彼女、ソング・ライティングの才能はズバ抜けていると言えるのではないだろうか。

両親からの影響は多大であることは言うまでもないにしても、Kate BushやPrinceへの敬愛も公言しており、Judee SillやLiz Phair等の影響も自らの音楽性に多大であったと認めているそう。

作品は静謐なアコースティック・ギターの調べが印象的な「To Answer」で幕を開け、続く「In The Morning」ではクラリネットの音色が非常に効果的に用いられている。

中盤の「Worst of Everything」では往年のグランジを彷彿させるかのような轟音ギターが鳴り響き、続くタイトル・トラックの「At a Diner」はなんともさりげなくも美しいフォーク・ソングが紡がれている。

ラスト・トラックの「Nothing to No One」は清涼感と疾走感が同居するトラックで、聴いていて実に心地よい。

初っ端からこれだからちょっと末恐ろしいくらいだが、これからもさらっと良作を量産し続けてくれそうな気がしてならない。






2026年5月26日火曜日










 

【今週の一枚】













Kathryn Mohr - Carve [The Flenser 2026]

米国ベイエリアを拠点に活動するKathryn Mohrによる2ndアルバム。

5年の年月をかけて書き上げられた楽曲の数々をアメリカ南西部のモハーヴェ砂漠に移動式住宅を持ち込み数週間かけて、たった一人で制作された。

リズム・トラックは完全に排除され、ギターとフィールド・レコーダーを駆使して録音するという実にストイックなスタイルが採られている。

その作風は硬派極まりなく、殺伐とした雰囲気すら漂わせている。

ただ、荒涼かつ陰鬱なサウンド・スケープが展開されるなかにあって、どこかロマンティックなムードも醸し出しているあたり、一筋縄では行かない表現力を持つアーティストと言えるだろう。

先行シングルの「Property」は重低音の効いたギター・サウンドがとても印象的で、中毒性が高い。

なかでも圧巻はラスト・トラックの「Crow Eyes」で怒涛のギター・ドローン・ノイズには圧倒されるばかりだ。

あまり比較対象になるようなミュージシャンが思い浮かばないが、あえて挙げるとするならThrowing MusesのKristin Hershなんかに近しい部分はあるかも知れない。

ミクシングとマスタリングはThe Flenserのレーベルメイトの Agriculture の Richard Chowenhilが担当した模様。







2026年5月19日火曜日










 

【今週の一枚】













Gia Margaret - Singing [Jagjaguwar 2026]

シカゴを拠点に活動するGia Margaretによる3年ぶりの4thアルバム。

2018年にリリースされたデビュー作のツアー中に声帯を痛め、前2作は基本的にインストゥルメンタル作(それぞれ1曲づつ歌声を披露)だった彼女だが、今回の作品で本格的に「ウタ」に回帰している。

前作「Romantic Piano」は文字通りピアノ主体のアンビエント作品だったが、今作は2曲を除いてその美声を堪能できる仕上がりとなっている。

インスト曲のうちのひとつ「Ambient for Ichiko」は彼女が昨年来日公演を果たした際に共演した青葉市子に捧げられている。

またラスト・トラックの「E-Motion」ではKurt Vileがギタリストとして参加、その他Pedro the LionのDavid Bazan、StarsやBrokenSocialSceneで名高いAmy Millan、Imogen HeapとのFrou Frouが懐かしいGuy SigswortそしてBon Iverの初期ドラマーとして知られるSean Carey等豪華ゲスト陣が客演を果たしているあたり、彼女のヴォーカリストとしての完全復活を祝福しているかのようで感慨深い。

リーディング・シングルにしてオープニング・トラックの「Everyone Around Me Dancing」からして掴みは完璧と言えるが作品のハイライトは中盤の「Good Friend」から「Phenomenon」にかけての流れの様に思えた。

自身の音楽を自嘲気味に「Sleep Rock」と表現する彼女だが、そのサウンドは正に白昼夢のような美しさを湛えていると言えまいか。






2026年5月12日火曜日

生体リズム










 

【今週の一枚】














Mammal Hands - Circadia [Act Music 2026]

英Norwichのジャズ・トリオMammal Handsによる3年ぶりの6thアルバム。

2012年に結成され2014年に1stアルバム「Animalia」をGondwana Recordsからリリースして以来、前作まで同レーベルの所属であったが、今作がAct Musicレーベル移籍第一弾となった。

また今回の作品は元GoGo PenguinのドラマーであるRob Turner加入後初の作品であり、現在トリオのラインナップはピアニストのNick SmartとSaxophonistのJordan Smartの3名から成っている。

その音楽のスタイルはジャズをベースにしつつ、アンビエント・ミュージックやミニマルリズム、ポスト・クラシカル的な側面も併せ持ち、その演奏はポスト・ロックの影響も感じさせる。

レコーディングは WalesのGiant Wafer Studiosで行われプロデュースはMammal Handsと Ben Cappが手掛けている。

アルバム全体を通じて総じて楽曲そして演奏の完成度は高いが、個人的には終盤8曲目の「Four Flowers」に特に感銘を受けた。

アルバム・タイトルの「Circadia」は生体リズム(サーカディアン・リズム)に由来するそうで、全ての生物が持つ約24時間周期の体内機能変動にインスパイアされたのだとか。






2026年4月28日火曜日

意図

 



【今週の一枚】














Ego Ella May - Good Intentions [Believe UK 2026]

ナイジェリア系英国人シンガーEgo Ella Mayによる新作。

これまで3枚のフル・レングスを発表してきた彼女だが、今作が正規のセカンド・アルバムと捉えているようだ。

活況を呈するサウス・ロンドンのシーンにあって、数多のミュージシャンが鎬を削っているワケだけれど、彼女の存在感は刮目に値するといえるのではなかろうか。

19歳にして独学でギターを習得し始め、ビートメイクも自ら手掛けて音楽制作をするようになった後、倫敦のICPM(The Institute of Contemporary Music Performance)に進学して本格的に学ぶに至った模様。

最初のEP「The Tree」をリリースしたのが2013年との事で既に十数年のキャリアを誇るアーティストだ。

彼女の名前はジャズ界のレジェンドElla Jane Fitzgeraldにちなんで付けられたそうで、大のジャズ・ファンだという父親の影響で幼少の頃から聴き親しんでいたらしい。

Sarah VaughanやBillie Holiday、 Nina Simoneなど往年の先達へのレスペクトを抱きつつもYazmin LaceyやFatima、そしてMoonchildのAmber Navranといった同時代を生きるジャズ、ネオ・ソウルのSSW達へのシンパシーを表明する彼女のアティチュードにはとても好感が持てる。

至高のシルキー・ヴェルヴェット・ヴォイス、大いに堪能したい。









2026年4月21日火曜日

放心



















 【今週の一枚】














Cancer House - The Moth [Motion Ward 2026]

数々のポスト・ロック、インディー・ギター・バンドを輩出してきたイリノイ州シカゴからまた新たな才能が現れた。

90年代スロウコア隆盛期を彷彿とさせる音を鳴らすCancer HouseはKeeyan Haack、Lily Sharratt、Alex Furrh、Whitney Johnsonの4人のメンバーで編成されるバンドで、これまで2枚のシングルを発表しており、今作がデビュー・アルバムにあたるようだが、全6曲収録時間29分と短尺な作品であることからEPの括りで捉えられている向きもあるようだ。

リリースはLAのMotion Wardからで設立10年余りと新興レーベルでありながら数々のアンビエント、実験音楽の作品を世に問うている模様。

古くはRed House PaintersやGalaxie 500にGasterDel Sol、00年代以降もDusterやGrouperといった数々のバンドが素晴らしい作品を残してきたが、このCancer Houseもそれらのバンドの系譜に連なる逸材のように思える。

あたかも録音されていなかった架空のジャム・セッションのムードを醸成する事を目指した、と嘯く彼等だが、本当にスタジオのなかで放心した状態で聴いているかのような錯覚に陥ってしまう。






2026年4月13日月曜日

Vitality









 

【今週の一枚】














Robyn - Sexistential [Young 2026]

スウェーデンのモダン・ポップのスーパースターRobynによる8年ぶりの9thアルバム。

英国Youngレーベルへの移籍第一弾となった。

今作は2010年の彼女の代表作「Body Talk」三部作と呼応する内容となっており、あたかも速射砲のように繰り出されるポップ・チューンが目白押しだ。

1979年生まれで46歳になるという彼女だが、そのバイタリティは全く衰え知らずと言えるだろう。

タイトル・トラックの「Sexistential」は体外受精を経て妊娠10週目の状態でワンナイト・スタンドについてラップするという破天荒なパフォーマンスが繰り広げられているが、その完成度は半端ないと思える。

作品全体を通じてこのうえない高揚感に覆われており、フロアで聴いたらさぞかし盛り上がる事だろう。

彼女はデヴィッド・バーンと共にSaturday Night Liveの50周年を祝うパフォーマンスを披露したり、今をときめくチャーリーXCXとも共演を果たしたそうで、その精力的な活動ぶりに心躍らされる思いである。





2026年4月6日月曜日

Not

















 【今週の一枚】














Joshua Burnside - It's Not Going to be Okay [Nettwerk 2026]

北アイルランド出身で現在ベルファストを拠点に活動するJoshua Burnsideの新作アルバム。

昨年の「Teeth of Time」に続き2年連続でのリリースとなった。

オーセンティックなアイリッシュ民謡をベースにした硬派な音楽性は今作でも健在だ。

悲しみの感情が彼の音楽のモチベーションになっており、13歳の頃に作曲を始めたきっかけも悲しみの感情だったと語っている。

今回のアルバムの制作に入る前の2024年8月に長年の親友ディーン・ジェンドゥビが薬物の過剰摂取で亡くなるという痛ましい出来事があり、その経験を受けてレコーディングが始められ、2025年の秋に完成に漕ぎつけた模様。

収録された楽曲は痛み、苦しみ、そして死の避けられない運命について歌われており、そのシリアスな内容と裏腹にどこか牧歌的なムードに覆われたサウンドが印象的だ。

タイトル・トラックの「It's Not Going To Be Okay」は最後に書かれた楽曲で、アルバムのハイライトと言うべきトラックに仕上がっている。

装飾を削ぎ落したシンプル極まりないアレンジが彼の音楽の特徴と言えるが、今回の作品を制作する際にビル・キャラハン&スモッグの「 A River Ain't Too Much To Love」を愛聴していたそうで、その簡素でありながらも豊かな響きがある音楽に大いにインスパイアされたそう。







2026年3月27日金曜日

必ず











 

【今週の一枚】














Samm Henshaw - It Could Be Worse [Dorm Seven 2026]

サウス・ロンドン出身のナイジェリア系英国人シンガーSamm Henshawによる4年ぶりの2ndアルバム。

ソングライターにしてプロデューサー、マルチ・インストゥルメンタリストとして活動する彼、ヴォーカリストとしての力量は数多のソウル・シンガーのなかにあって突出していると言えるだろう。

Gospel、R&B、Bluesの影響色濃いその音楽性だが、実にオーセンティックなスタイルで、王道そのものである。

サウンド・プロダクションの完成度の高さは言うまでもないにしても、全曲アカペラで歌われてしたとしても、十分聴き応えがあるのではないだろうか。

オープニング・トラックの「Don’t Give It Up」から続く「Closer」と掴みは完璧で、「Sun and Moon」や「Get Back」といったトラックにも大いに感銘を受けた次第だ。

現在ワールド・ツアー中の彼、ここ日本から公演を開始したらしく、なんとワタクシの誕生日の1月27日のEX THEATER ROPPONGIが初日だったらしく、後から知って心底後悔しているが後の祭りである。

次来日したら必ず行くぞ。









2026年3月16日月曜日

怒涛














 

【今週の一枚】














Xavisphone - balança e paixão [Modern Love 2026]

xavisphoneことXavier Herreraによるデビュー・アルバム。

ドミニカ系とブラジル系の両親のもとに生まれた彼、ボストン郊外の出身で現在はマルセイユを拠点に活動している模様。

過去にはアリアナ・グランデやヴィンス・ステイプルズの作品に携わったキャリアの持ち主で、現在はメジャーのシーンから完全に決別し、2024年頃からsoundcloudに楽曲をUPし始めたところModern Loveレーベルの目に止まり今作のリリースに漕ぎつけたようだ。

何とも凄まじくカオティックなサウンドがアルバム全体を通じて展開されているが、「バイラファンキ」というカテゴリーに分類されるらしく、1980年代末にリオデジャネイロのファベーラ(貧民街)で生まれた音楽だそうでファンキ・カリオカ、ブラジリアン・ファンクとも呼ばれるんだそう。

全12曲で収録時間25分とかなり短尺な作品であるにも関わらず物足りなさは一切感じさせず、怒涛のビートに圧倒されまくり。

他に似たタイプのアーティストが全く思い浮かばないというか、こんな音楽初めて聴いたような気がしてしまう。

未確認生命体みたいな音楽家に出会ってしまった気分だ。







2026年3月9日月曜日

320



















 【今週の一枚】














threetwenty - Separate From The Noise [New Century Sound 2025]

threetwentyはナイジェリア系米国人シンガーIvana Nwokikeとスウェーデン人プロデューサーFilip Hunterによる夫婦デュオで今作がデビュー・アルバム。

二人が主宰するNew Century Soundよりリリースされた。

Ivanaは妹のJessicaとの姉妹ユニットVanJessとして活動していたキャリアの持ち主で、2018年にアルバム「Silk Canvas」を発表している。

threetwentyの名称は二人が出会ったのが2018年の3月12日であったこと、そして聖書のエフェソス人への手紙第3章20節に由来するんだそう。

90年代ネオソウルの影響色濃いR&Bサウンドは実にスイートなテイストで聴いていて本当に心地良い。

アルバムに先行して「Who Are You To Me」、「Let Me Grow」、「The Light (I Need You)」がドロップされておりこの3曲を含めアルバム全体を通してソング・ライティングの完成度が高いと思える。

ジャズ・ファンクやヒップホップからもインスピレーションを受けているそうだが、温かみを感じさせる独特のグルーブ感は実に格別なものと言えるだろう。







2026年3月2日月曜日

折紙












 【今週の一枚】














Kevin Atwater - Achilles [Mutual Friends 2025]

シカゴ出身で現在はNYを拠点に活動するSSW、Kevin Atwaterによるデビュー・アルバム。

アコースティック・ギターのフィンガー・ピッキングのサウンドを主体に流麗なストリングスが施されたり、往年のエモのバンドの数々を彷彿させるようなラウドなバンド・サウンドを展開している様は強烈な印象を残してくれる。

Queerとしてのアイデンティティを包み隠さず、リリックにも反映させた歌の数々は繊細かつ内省的で、癒しを感じさせてくれる。

Nick DrakeやJoni Mitchellへの憧憬を公言しAdrianne LankerやSufjan Stevensといったアーティストに強いシンパシーを感じるという彼だが、今年16年ぶりの来日公演を果たすKings of Convenienceなんかにも通ずる音楽性だと思える。

冒頭の「Threat」からして美しいとしか言いようがないが、続く「Jamie's Daydreams」の疾走感も格別だ。

「Origami Roses」もシンプルながらなんとも味わい深い楽曲となっており、ラストを飾るタイトルトラック「Achilles」のダイナミズムは感動的ですらある。

今作のプロデューサーはHazel Eyesが務め、全てのソング・ライティングをKevin自身がを手掛けた模様。







2026年2月19日木曜日

異質











 

【今週の一枚】














feeo - Goodness [AD 93 2025]

なんだかとても異質な感覚を覚えてしまった。

倫敦を拠点に活動するfeeoことTheodora Lairdによるデビュー・アルバム。

Nic Taskerが主宰するAD 93レーベルからリリースされた。

往年のサッド・コアやPortisheadに代表されるトリップ・ホップの系譜に連なるようにも感じられつつも、どこか逸脱しているように思えてならない。

フィールド・レコーディングや環境音を取り入れたダーク・アンビエント、ドローン・ノイズを駆使したサウンドは不穏な空気に纏われつつも、どこか癒しをも醸し出しつつ、宗教音楽をも連想させる。

全てのソング・ライティング、プロデュース、ミキシングそしてアートワークを自身が手掛け、マスタリングはNoel Summervilleが担当。

彼女の父は英国人俳優Trevor Lairdで、オープニング・トラックの「Days pt.1」と終盤の「Days pt.2」で実に深みのあるポエトリー・リーディングを披露している。

3曲目の「Requiem」は今作のハイライトと言える楽曲と言えるのではなかろうか。

ロレイン・ジェイムスとのコラボレーションを始め、活況を呈するロンドンのシーンにおいて存在感を放つ彼女の今後の躍進に注目したいトコロだ。








2026年2月13日金曜日

無限












 

【今週の一枚】














Big Thief - Double Infinity [4AD 2025]

もうこのヒト達はハズレを出しそうにないな。

そんな風にさえ感じさせられたBig Thiefによる6枚目のスタジオ・アルバム。

称賛を浴びた前作「Dragon New Warm Mountain I Believe In You」の続編にあたる位置づけだという今作、ベーシストにしてフォウンダー・メンバーであったMax Oleartchikが脱退、Adrianne Lenker、Buck Meek、James Krivcheniaのトリオとして初めての作品となった。

Adrianneが毎日作曲している楽曲のうち50曲から9曲が厳選され、マンハッタンの名門パワー・ステーション・スタジオで3週間にわたり毎日9時間のセッション形式でレコーディングが進められたそう。

ゲスト・ベーシストにはJoshua Crumblyが迎えられ、Hannah CohenやLaraaji等総勢10名の面々が客演している。

オープニング・トラックにしてリード・シングルとなった「Incomprehensible」からして掴みは完璧と言え、続く「Words」も感動的。

「Grandmother」はバンドの真骨頂ともいえるフォーキッシュ・ロックが堪能出来るし、続く「Happy With You」なぞは80年代ネオ・アコースティックの名曲と比肩するクオリティと言えるのでは。

まだまだ彼等の快進撃は続いていきそうだ。




2026年2月5日木曜日

repressive


















 【今週の一枚】














dodie - Not For Lack Of Trying  [Doddleoddle 2025]

UKエセックス出身のフィメイルSSW、DoddlことDorothy Miranda Clarkによる4年ぶりのセカンド・アルバム。

2007年7歳のときに初めて自身のYoutubeチャンネルを開設し配信をスタートしたというから、かなり早熟な少女だった彼女、2019年にはJacob CollierとのコラボレーションでBeatlesの「Here Comes the Sun」のカヴァーを披露、大いに注目を集めた模様。

2021年にデビュー・アルバム「Build a Problem」をリリースし好評を博したのち2023年には, Orla Gartland、Greta IsaacそしてMartin Luke BrownとバンドFizzを結成、アルバム「The Secret to Life」を発表している。

ジャズやクラシック、フォークの影響を感じさせるインディー・ポップのスタイルの彼女の音楽だが、先行配信された「I Feel Bad For You, Dave」はボサノバ風の軽妙な曲調が印象的だ。

今年発表されたブルーノートの『Re:imagined』シリーズの「チェット・ベイカー・リイマジンド」にも「Old Devil Moon」のカヴァーで参加、ジャズ・ファンの間でも注目を集めているそう。

様々な表情を見せる楽曲が並ぶ今作だが、彼女の歌唱スタイルは一貫して抑制的で、それがなんともセクシーに聴こえるのが実にクールだと思えた次第。



2026年1月29日木曜日

待望














 【今週の一枚】














Sturle Dagsland - Dreams And Conjurations [Sturle Dagsland 2025]

ノルウェーの奇才デュオSturle Dagslandによる4年ぶりのセカンド・アルバム。

Sturle DagslandとSjur Dagslandの兄弟によるこのユニット、ライブではCarl Tomas Nisingと

Eirik O. Heggenの二人のサポート・メンバーが参加する事が多いようだ。

2021年の1stを聴いたときにそのエクストリーム極まりないサウンドに度肝を抜かれたものだが、今作も同等かそれ以上のインパクトと言えるだろう。

変幻自在ともいえるSturleのボーカルは唯一無二であり、ベクトルは違えどコクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーの全盛期をすら彷彿とさせる。

エレクトロニクスを駆使しつつ北欧の伝統的な民族楽器やアフリカのコラ、中国の古筝など世界中の楽器を使用し、重層的なサウンドを構築している様は本当に圧倒的だ。

アバンギャルドでエクスメンタルでありつつどこか牧歌的な側面をも持ち合わせた音世界、実に不思議な魅力をたたえている。

1stリリース後の初来日公演はスケジュールの都合で泣く泣く諦めたのだが、来週末金曜日に青山の「月見ル君想フ」で遂にそのパフォーマンスを初めて観る事が出来る予定で、今から待ち遠しくて仕方がない。







2026年1月22日木曜日

















 【今週の一枚】














Ambre Ciel - still, there is the sea [Gondwana Records 2025]

カナダのモントリオール出身の作曲家兼シンガーAmbre Cielによるデビュー・アルバム。

Hania RaniやJasmine Myra等を擁する英Gondwana Recordsよりリリースされた。

ポスト・クラシカルの数々の名盤に名を連ねるに十分値する佳作と言えるだろう。

彼女は6歳でバイオリンを始め音楽生活をスタートし、正統派クラシック音楽を学びつつペダルエフェクトやループメロディーの実験にも没頭していたようだ。

大学では作曲と録音技術を専攻、本格的に音楽家への道に進む事を決断した模様。

アンビエントやミニマル・ミュージックにも造詣が深く、それらの音楽のエッセンスも大いに作品に反映されている。

幾つかのインストゥルメンタル作も挟みつつ、英語と自身の母国語の仏語の歌唱を披露しており、本当に美しい。

冬の冷たい空気のなかで聴くのにうってつけの作品のように思える。







2026年1月15日木曜日

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【今週の一枚】














Fred again.. - USB [Atlantic 2025]

昨年のフジロックで初来日を果たしヘッドライナーを務めたFred again..が2022年に始動した「無限に進化する」プロジェクト、USBシリーズの第二弾「USB002」のリリースに合わせ、「001」の楽曲も収録したアルバムが発表された。

彼曰くこのプロジェクトは「永遠に曲が追加されていく終わらない」ものであり、「うまくいけば、いつか200曲収録したい」と嘯いている。

2001年のデビュー作以来コンスタントにアルバムをリリースしてきたFred again..だがこのUSBプロジェクトはそれらの作品群とは性質が異なるものであり、様々なコラボレーション、ブートレグ、リミックスが含まれている。

「USB002」の展開にあたり10週間、10都市、10公演のパフォーマンスを開催するという企てを敢行したそうだ。

「001」と「002」を合わせた全34曲、収録時間2時間21分という超大作ではあるものの、驚く事に本当に捨て曲がない。

コラボレーターの陣容はSkrillex、Four Tet、Overmono、Swedish House Mafia、Floating PointsにCaribou等々、正に豪華絢爛で彼が多くの大物アーティストのレスペクトを集めているのが良くわかる内容となっている。

「USB003」のリリースが実に待ち遠しいが、彼の創作意欲の旺盛さを思うと、そんなに遠くない将来に聴く事が出来るのではないだろうか。