2026年8月26日水曜日

確信

 












【今週の一枚】














Phoebe Bridgers - Lost Weekend [Dead Oceans 2026]

紛れもなくキャリア・ベストと言えるのでは。

カリフォルニアのシンガー・ソングライターPhoebe Bridgersによる6年ぶりの3rdアルバム。

ソロ名義としては久々のリリースとなるが、2023年にはJulien Baker、Lucy DacusとのユニットBoygeniusとしてデビュー・アルバムを発表、大いに好評を博したのは記憶に新しい。

コロナ初期の2020年にはThe Nationalのサポート・アクトとして来日する予定だったのがやむなく中止で悲嘆に暮れたものだったが、その後2023年2月にZepp DiverCityで初来日公演を観れたのは本当に素晴らしい経験だった。

さて正に待望の新作となった今作、エレクトロニカやアンビエント寄りのアプローチも感じられるが、彼女の音楽の根幹を支えるインディー・フォーク・スタイルは不変のものであり、アルバム全体を通じてソング・ライティングのクオリティが傑出しているように思える。

オープニング・トラック「The Outside」はImogen Heapの代表作「Hide and Seek」を彷彿とさせるようなヴォイス・エフェクトが施された実験色の強い楽曲だが実に幻想的で美しい。

続く「Lost Boys」はエモーショナルなコーラスが印象的で躍動感溢れるギターのストロークが痛快だ。

タイトル・トラック「Lost Weekend」の共作者のクレジットにDamien Juradoの名前を見つけたのは嬉しい驚きだったが、その他にもGeeseのCameron WinterやBlake Mills、Conor Oberstといった錚々たる面々が今作のコラボレーターとして名を連ねている。

作品を通じて全く捨て曲のない今回の作品だが、なかでも白眉はAmerican FootballのMike Kinsellaもギターで参加した「Bobby」ではなかろうか。

これからも彼女の代表曲のひとつとして語り継がれるであろう名曲に仕上がっていると思える。

プロデュースは彼女自身と長年の盟友的存在Ethan Gruska、Jack AntonoffそしてAlex Gが務めた。

UKアルバム・チャートで1位、そしてビルボード200でも2位を獲得した今回の「Lost Weekend」、これからも長く愛され続ける作品だと確信出来る。







2026年8月17日月曜日

快挙











 【今週の一枚】














Charli XCX - Music, Fashion, Film [Atlantic 2026]

このアートワークには驚かされた。

John CaleとMarc Jacobs、Martin Scorseseという音楽界、ファッション界、映画界のそれぞれ巨匠というべき存在の3人が不敵な表情で写真に捉えられている。

チャーリーXCXの8thアルバム。

今年は映画「Wuthering Heights」のサウンドトラック盤もリリースしており、UKアルバム・チャートで初登場チャート1位を獲得、今回のアルバムと併せ、一年の間に2枚のチャート・トップ作品をリリースするという離れ業を演じている。

これは英国人女性アーティストとしては初の快挙だそうだ。

2024年の「Brat」ではハイパー・ポップ界の寵児として絶賛を浴びた彼女、今作ではノイジーなギターサウンドを大胆に取り入れ、ロック・ミュージック的なアプローチにシフト・チェンジしてきた。

しかしながら作品一枚を通じての印象はこれも紛れもなくチャーリーそのものだなあというものだった。

彼女ほど突出した個性だと音楽的な方向性が少々変わったくらいでは、そのアイデンティティは微塵も揺るがないと痛感させられた。

レコーディングはパリのRue Boyer Studiosで行われ、プロデュースは長年のコラボレーターA. G. CookとFinn Keaneが手掛けた。

アルバムのラストを飾る「No One Lasts Forever」ではDavid Cronenbergのポエトリー・リーディングがフィーチャーされている。





2026年8月10日月曜日

理由














 【今週の一枚】














Nick Hakim - I Can See [Earseed Records 2026]

NYクイーンズを拠点に活動するマルチ・インストゥルメンタリストNick Hakimによる4年ぶりの4thアルバム。

ブランクの間もAdrianne LenkerやKassa Overall等の作品に携わるなど音楽活動は継続していたようだ。

チリ人の母親とペルー人の父親を持ちコスモポリタンな側面を持つ彼、その音楽性もなかなかに形容し難い異形のものと言えるが、今作も正に一筋縄ではいかない仕上がりとなっている。

オルタナR&Bというカテゴライズが一般的になって久しいが、今回のアルバムをストーナーR&Bと評した記述を見つけ、ものすごく同意させられてしまった。

作品一枚を通じてスモーキーで霞がかった印象というか、酩酊した状態で鳴らされているような感覚に陥るが、細部に耳を傾けると実に緻密に計算された作りとなっているのは実に素晴らしいと思える。

スティーヴ・ライヒとテリー・ライリーからの影響を公言する彼、R&Bをベースにしつつも、ミニマリズム的なアプローチも随所に感じさせてくれる。

往年のトーチソング的な側面も感じられ、どこかノスタルジックなムードを醸し出しているのも味わい深い。

自宅のベッドルームで作品作りが始められ、テキサス州トルニージョのSonic Ranch やニューヨークの数々のスタジオでレコーディングが行われ、プロデュースはNick自身とDijon や Bon Iver等との仕事で名高いAndrew Sarloとの共同作業で行われた。

インパクト抜群で素晴らしいアートワークはデザイナーのArjuna Routte-Prieur と写真家の Jack McKainによって作成されたそう。