2023年11月27日月曜日

痛感






















 【今週の一枚】













Ryan Hall - Postteenangst [PEACE 2023]

昨年のBrakenceの「Hypochondriac」には非常に大きな衝撃を受けたものだったが、このRyan Hallによるデビュー・アルバム「Postteenangst」にも同等が場合によってはそれ以上のインパクトを受けてしまった。

エモやグランジ、シューゲイザーやハイパーポップの影響を色濃く感じさせる音と言えるだろうが、紛れもなく2023年にしか鳴らせないサウンドのように思える。

Brakenceの咆哮にも勝るとも劣らぬ凄まじいエネルギーをたたえたその歌唱スタイルも、彼の個性を際立たせている。

こういう出会いがあるとやはり新たな音源探しの旅はやめられないものだと痛感。

五十路を過ぎてこんなに感銘を受けるんだから、大学生くらいの頃に聴いたら滅茶苦茶興奮しただろうなあ。






2023年11月20日月曜日










 

【今週の一枚】













Beirut - Hadsel [Pompeii Records 2023]

Zach Condonによるソロ・プロジェクトBeirutの四年ぶりの6thアルバム。

アルバム・タイトルのHadselはノルウェーの島の名前だそうで、2020年に実際に滞在していたそう。

ニューメキシコ出身で現在はベルリンを拠点に活動する彼だが、前作「Gallipoli」はイタリアでの収録であったり、旅先で創作のインスピレーションを得るタイプのアーティストなんだろう。

これまでの作品では多彩な楽器編成のバンド・スタイルの録音が為されてきたのに比して、今作は全てのインストゥルメンツの演奏をZach自身が一人で手掛けている。

これといって音楽的に新たなアプローチが採られているわけでもなく、どこをどう聴いても「Beirutの音」で構成されているが、それは決してネガティブな意味合いではなく、素晴らしい完成度を誇っていると思える。

2019年にツアー・バンドの解体という苦難を味わい、コロナ禍のなかたった一人で作り上げられたこの作品が、Zach Condonの再出発の門出を飾るに相応しい充実作と言えるのではないだろうか。







2023年11月13日月曜日

はにゃ










 

【今週の一枚】













Hania Rani - Ghosts [Gondwana 2023]

ポーランドのポストクラシカル・ピアニストHania Raniによる今年二枚目のアルバム・リリース。

前作「On Giacometti」は彫刻家アルベルト・ジャコメッティのドキュメンタリーのサウンドトラックであったが、今作は純粋に彼女のソロ作品となっている。

彼女自身のピアノが主体であったこれまでの作品に比して今回の「Ghosts」ではProphet '08というビンテージ・スタイルのアナログ・シンセサイザーを駆使し、新境地というべきサウンド・メイキングに成功している。

アルバムのリリースにあわせて発表された一時間半に及ぶワルシャワでのライブ・パフォーマンスは実に迫力ある映像だ。

M7「Whispering House」は彼女の音楽に大きな影響を与えたというアイスランドのOlafur Arnaldsと共演、今回の作品で最初に書かれたというM5「Dancing with Ghosts」はカナダのシンガーソングライターPatrick Watsonをフィーチャー、Portico QuartetのDuncan Bellamyも2曲にゲスト参加しており、これらのコラボレーターが作品の音に深みと厚みを与えているように思えた。

ちなみにこれまで彼女の名前を「ハニア」と読んでいたが、「ハニャ」と日本語表記されている事が多く、実際の発音はそれに近いのかも知れない。




2023年11月6日月曜日

Jinx










 

【今週の一枚】



Maria BC - Spike Field- [Sacred Bones 2023]

オハイオ出身で現在カリフォルニア州オークランドを拠点に活動するMaria BCによるセカンド・アルバム。

デビュー・アルバム「Hyaline」に引き続き2年連続のリリースで、Sacred Bonesレーベルへの移籍第一弾となった。

セカンドのジンクスなんて言われるくらいで、1stで好評を博した後で期待されながら出した2ndでずっこける、なんてケースは枚挙にいとまがないワケだけれど、彼女に関しては期待を上回る作品を世に問う形となった。

前作を聴いたときにはその独特の浮遊感溢れるサウンドからTara Jane O'neilあたりが想起されたが、今作を聴くにつけRed House Paintersなんかが持つ有無を言わさぬ凄味に近しいものを感じた次第。

幽玄で深遠でありつつも、どこか不気味さもたたえる孤高のサウンド・スケープは実に見事なものだ。

彼女はブルックリンのアンビエント・ミュージシャンRachika Nayarと親交が深く、アルバムにフィーチャーされたり、バンド・メンバーとしてツアーに同行したりするなかだそうだ。