2023年12月28日木曜日

今年の十枚

 















【Best Albums 2023】

Hayden - Are We Good [Arts & Crafts]

Overmono - Good Lies [XL Recordings] 

Kassa Overall - ANIMALS [Warp]

Ítallo - Tarde no Walkiria [LAB 344]

Sigur Rós - ÁTTA [Von Dur]

Sampha - Lahai [Young]

Sufjan Stevens - Javelin [Asthmatic]

Laurel Halo - Atlas [AWE]

Beirut - Hadsel [Pompeii Records]

Maria BC - Spike Field- [Sacred Bones]

Selection 2023






















 【今年の22曲】

01.Riu (intro) - Magalí Datzira
02.Ensemble Mais Perdu - Afternoon Bike Ride
03.Way Back - Skrillex & PinkPantheress
04.Found - Sandrayati
05.A Void - CARM
06.このまま - さらさ
07.Will Anybody Ever Love Me? - Sufjan Stevens
08.On A Beach (feat. Feist) - Hayden
09.more than words - 羊文学
10.February - JFDR
11.Mona Lisa Moan - Eartheater
12.Is U - Overmono
13.Carbon Dioxide - Fever Ray
14.4th Feb (Stay Awake) - Alfa Mist
15.VoidManifest - Eluvium
16.x w x - yeule
17.Stockholm Syndrome - Joanna Sternberg
18.Portrait of a Dog - Jonah Yano
19.Only - Sampha
20.New Meaning (feat. Gordi) - S. Carey & John Raymond
21.Homewrecker - Ryan Hall
22.恋の色 - ヒグチアイ

2023年12月25日月曜日

毒気













 【今週の一枚】













Eartheater - Powders [Chemical X 2023]

米国人Alexandra Drewchinによるソロ・プロジェクトEartheaterの3年ぶりの4thアルバム。

前作に引き続き自身のレーベルChemical Xからリリース。

それにしてもアートワークにフィーチャーされた自身の写真は本当にこのポーズを取っているのだろうか。

冒頭の「Sugarcane Switch」の退廃的なムードはFelt Mountainの頃のGoldfrappなんかを彷彿とさせて非常に好印象。

System Of A Downのカバーでる5曲目のChop Sueyも素晴らしいが個人的には7曲目の「Mona Lisa Moan」に最も感銘を受けた。

全体的には少々毒気が抜けたような気がせんでもないが、ある意味ポジティブなシフト・チェンジのように思える。

既に来年5thアルバム「Aftermath」のリリースも決まっているようで、精力的な活動振りが頼もしい限り。





2023年12月18日月曜日











 

【今週の一枚】













羊文学 - 12 hugs (like butterflies) [F.C.L.S. 2023]

3ピース・バンド羊文学による1年半ぶりの4thアルバム。

アートワークは塩塚モエカが「バタフライハグ」というポーズをとったポートレイトが採用されていて、タイトルにもlike butterfliesと記載されているように、「バタフライ」

というワードが今作のキーワードのようだ。

アルバムは静謐でありながらも絞り出すような声で歌われるアコースティック弾き語りの「Hug.m4a」で幕を開けるが、この曲はスマホで録音されたそうで当初はアルバムのラスト・トラックにする予定だったのだそう。

続く「more than words」はテレビアニメ『呪術廻戦』のエンディング・テーマに採用されており、前作の「光るとき」に比肩する屈指の名曲だと思う。

「永遠のブルー」もNTTドコモのCMソングとして今年の春にリリースされており、この二つの曲でまた大幅にファン層を拡大するのではないだろうか。

Dinosaur Jr.の向こうを張るかのようなラスト・トラック「FOOL」も実に痛快だし、今作も実に粒ぞろいの楽曲が並んでいる。

この作品に収録されている楽曲は全曲塩塚モエカのアコギ弾き語りで収録されていたとしても全然違和感を感じないのではないかと思えるくらいメロディの完成度が高い。

来春には初のアリーナ公演も予定されているようで、彼女達の快進撃はまだまだ続きそうだ。






2023年12月11日月曜日

怒涛

 











【今週の一枚】















ロンドンの電子音楽家Loraine Jamesによる5thアルバム。

2017年のデビュー以来Whatever The Weather名義の作品を含め6枚のフル・レングスを発表しており、実に制作意欲旺盛と言えるし、驚くことに一枚も「外し」ていない。

今作も全17曲、収録時間一時間強のボリュームだが、聴きどころは満載だ。

リズム・トラックを中心にテクニカルな意味では攻めまくっているが、ポップ・ミュージックとしての完成度がこのうえなく高い事に圧倒される思いだ。
打ち込み主体のトラックが並ぶなかM7「I DM U」ではBlack Midiモーガン・シンプソンが怒涛の生ドラム・プレイを披露している。

昨年佳作アルバムを発表したEden Samaraをはじめ、シカゴの新鋭KeiyaA、Marina Herlop、George Riley等豪華ゲスト陣が作品に彩りを添えており、Loraineが大いに影響を受けたTelefon Tel AvivのJoshua Eustisがマスタリングを手掛けている。



2023年12月4日月曜日










 

【今週の一枚】













yeulesoftscars [Ninja Tune 2023]

yeuleはシンガポール生まれで現在はLAを拠点に活動するNat Ćmielによるソロ・プロジェクトで今作が3rdアルバム。

昨年の2nd「Glitch Princess」に続いて1年のスパンでフル・アルバムをリリースという事で旺盛な制作意欲が窺える。

そのエキセントリックな風貌とヴィジュアル・イメージから相当ブッ飛んだサウンドが連想されるし、事実オープニング・トラックの「x w x」などは往年のDaisy Chainsawの KatieJane Garsideを彷彿させるような凄まじいスクリームを披露しているが、作品全体の印象としては極めて全うでオーソドックスかつ良質なドリーム・ポップ作に仕上がっている。

マイブラやヨ・ラ・テンゴからの影響を公言しているようだが、昨年傑作セカンドをリリースしたBeabadoobeeといい、90年代オルタナの系譜に連なるような若きアーティストの活躍はなんだか胸躍らされる。

前作に引き続き今を時めくMura Masaがプロデュースや演奏に参加している事でも話題を呼んでいる模様。








2023年11月27日月曜日

痛感






















 【今週の一枚】













Ryan Hall - Postteenangst [PEACE 2023]

昨年のBrakenceの「Hypochondriac」には非常に大きな衝撃を受けたものだったが、このRyan Hallによるデビュー・アルバム「Postteenangst」にも同等が場合によってはそれ以上のインパクトを受けてしまった。

エモやグランジ、シューゲイザーやハイパーポップの影響を色濃く感じさせる音と言えるだろうが、紛れもなく2023年にしか鳴らせないサウンドのように思える。

Brakenceの咆哮にも勝るとも劣らぬ凄まじいエネルギーをたたえたその歌唱スタイルも、彼の個性を際立たせている。

こういう出会いがあるとやはり新たな音源探しの旅はやめられないものだと痛感。

五十路を過ぎてこんなに感銘を受けるんだから、大学生くらいの頃に聴いたら滅茶苦茶興奮しただろうなあ。






2023年11月20日月曜日










 

【今週の一枚】













Beirut - Hadsel [Pompeii Records 2023]

Zach Condonによるソロ・プロジェクトBeirutの四年ぶりの6thアルバム。

アルバム・タイトルのHadselはノルウェーの島の名前だそうで、2020年に実際に滞在していたそう。

ニューメキシコ出身で現在はベルリンを拠点に活動する彼だが、前作「Gallipoli」はイタリアでの収録であったり、旅先で創作のインスピレーションを得るタイプのアーティストなんだろう。

これまでの作品では多彩な楽器編成のバンド・スタイルの録音が為されてきたのに比して、今作は全てのインストゥルメンツの演奏をZach自身が一人で手掛けている。

これといって音楽的に新たなアプローチが採られているわけでもなく、どこをどう聴いても「Beirutの音」で構成されているが、それは決してネガティブな意味合いではなく、素晴らしい完成度を誇っていると思える。

2019年にツアー・バンドの解体という苦難を味わい、コロナ禍のなかたった一人で作り上げられたこの作品が、Zach Condonの再出発の門出を飾るに相応しい充実作と言えるのではないだろうか。







2023年11月13日月曜日

はにゃ










 

【今週の一枚】













Hania Rani - Ghosts [Gondwana 2023]

ポーランドのポストクラシカル・ピアニストHania Raniによる今年二枚目のアルバム・リリース。

前作「On Giacometti」は彫刻家アルベルト・ジャコメッティのドキュメンタリーのサウンドトラックであったが、今作は純粋に彼女のソロ作品となっている。

彼女自身のピアノが主体であったこれまでの作品に比して今回の「Ghosts」ではProphet '08というビンテージ・スタイルのアナログ・シンセサイザーを駆使し、新境地というべきサウンド・メイキングに成功している。

アルバムのリリースにあわせて発表された一時間半に及ぶワルシャワでのライブ・パフォーマンスは実に迫力ある映像だ。

M7「Whispering House」は彼女の音楽に大きな影響を与えたというアイスランドのOlafur Arnaldsと共演、今回の作品で最初に書かれたというM5「Dancing with Ghosts」はカナダのシンガーソングライターPatrick Watsonをフィーチャー、Portico QuartetのDuncan Bellamyも2曲にゲスト参加しており、これらのコラボレーターが作品の音に深みと厚みを与えているように思えた。

ちなみにこれまで彼女の名前を「ハニア」と読んでいたが、「ハニャ」と日本語表記されている事が多く、実際の発音はそれに近いのかも知れない。




2023年11月6日月曜日

Jinx










 

【今週の一枚】



Maria BC - Spike Field- [Sacred Bones 2023]

オハイオ出身で現在カリフォルニア州オークランドを拠点に活動するMaria BCによるセカンド・アルバム。

デビュー・アルバム「Hyaline」に引き続き2年連続のリリースで、Sacred Bonesレーベルへの移籍第一弾となった。

セカンドのジンクスなんて言われるくらいで、1stで好評を博した後で期待されながら出した2ndでずっこける、なんてケースは枚挙にいとまがないワケだけれど、彼女に関しては期待を上回る作品を世に問う形となった。

前作を聴いたときにはその独特の浮遊感溢れるサウンドからTara Jane O'neilあたりが想起されたが、今作を聴くにつけRed House Paintersなんかが持つ有無を言わさぬ凄味に近しいものを感じた次第。

幽玄で深遠でありつつも、どこか不気味さもたたえる孤高のサウンド・スケープは実に見事なものだ。

彼女はブルックリンのアンビエント・ミュージシャンRachika Nayarと親交が深く、アルバムにフィーチャーされたり、バンド・メンバーとしてツアーに同行したりするなかだそうだ。





2023年10月30日月曜日

ホレボレ

 











【今週の一枚】













Sampha - Lahai [Young 2023]

シエラレオーネにルーツを持ちサウス・ロンドンで活動するSamphaことSampha Lahai Sisayの6年ぶりのセカンド・アルバム。

その間にも様々なアーティストの作品に客演、コラボレーターとして名を連ねていたので、ブランクがあった印象は全くないのだけれど、彼が何故多くのミュージシャンに愛されているのかがよく分かる仕上がりとなっている。

サウンド・プロダクションの完成度の高さは言うまでもないにしても、これぞシルキー・ヴェルヴェット・ヴォイスというべき歌声を披露してくれており、聴き込む程に惚れ惚れしてしまう。

ストリングアレンジメントにOwen Pallettが名を連ねていたり、ゲスト・ヴォーカルにYaejiが参加しているのにも目をひかれたが、Mansur BrownやYussef Dayesなど三ス・ロンドン・シーンの盟友達も演奏を披露している。

5曲目のタイトルになった「Satellite Business」だが、同じタイトルを銘打ったイベントをブルックリンとロンドン、LAで敢行、これから本格的なツアーを計画している模様。

アルバム・タイトルのLahaiは父方の祖父の名前にちなんでいるそうで、彼自身のミドル・ネームでもある。



2023年10月23日月曜日

異能










 

【今週の一枚】













S. Carey & John Raymond - Shadowlands [Libellule Editions 2023]

Wisconsin州Eau ClaireのアーティストS. Careyとジャズ・トランペッターJohn Raymondの共作アルバム。

二人はウィスコンシン大学オークレア校に在学中から20年にわたって交友関係にあるそうで、今作は2018年頃から制作を始め、当初はインストゥルメンタル作品を作るつもりだったのが結果的にウタモノになった模様。

S. Careyの盟友的存在と言える豪州人Gordiも2曲で参加、特にM9「New Meaning」はアルバムのハイライトとも言える名曲だと思う。

マスタリングはTaylor Deupreeが手掛け、プロデューサーはSun Chungが務めた。

異能のピアニストAaron Parksが参加している事でも話題を呼んでいるようだ。

アダルト・コンテンポラリーの逸品と言える作品だと思う。









2023年10月16日月曜日

なげやり
















【今週の一枚】













Sufjan Stevens - Javelin [Asthmatic Kitty 2023]

スフィアン・スティーブンスの存在を知ったのは2003年リリースの傑作3rdアルバム「Michigan」だったので、もうそれから丁度20年が経過したのかと思うと実に感慨深い。

その間に映画「Call Me by Your Name」の主題歌「Mystery ofLove」で数々の賞を受賞したりアンビエント・アルバムを発表したりと話題には事欠かなかった彼だが、純粋なシンガー・ソングライター作品としては2015年の「Carrie & Lowell」以来8年ぶりという事になる。

多くのファンがこのアーティストにこんな作品をまた作って欲しいという期待に十分過ぎる程応えたアルバムに仕上がっているように思えるし、先述した3rdやそれに続く4th「Seven Swans」あたりと比しても全く遜色のないクオリティだと思えた。

先行シングルとしてカットされたM3「Will Anybody Ever Love Me?」は彼のキャリアを代表する名曲のひとつに挙げられるのではないだろうか。

Hannah Cohenをはじめ数々の女性ヴォーカリストをゲストに迎えて見事なコーラスワークで彩られており、8分半の大作となったM9「Shit Talk」ではThe NationalのBryce Dessnerがギタリストで客演しているが、基本的に全ての楽曲の演奏、レコーディング、ミキシング、プロデュースそしてアートワークに至るまでスフィアン自身が手掛けている。

アルバムには48ページのヴィジュアル・アートワークとそれぞれの楽曲に紐づいた10編のエッセイが収録されたブックレットが付属されている。

現在彼はギランバレー症候群の合併症で闘病中であり、リハビリを続けているそうだが、一日も早い回復を期待したい。








2023年10月10日火曜日

ひるとよる











 

【今週の一枚】













Colleen - Le jour et la nuit du r​é​el [Thrill Jockey 2023]

Colleenはフランス人のマルチ・インストゥルメンタリストCécile Schottによるソロ・プロジェクトで2003年以来7枚のアルバムをリリースしており、今作が8枚目の作品。

ヴォーカリストでもある彼女だが、今作は完全なインスト・アルバムで、2007年のLes ondes silencieuses以来の試みとなった。

この作品が特徴的なのはモノフォニック・セミモジュラー・シンセのMoog GrandmotherにRoland RE-201 Space EchoとMoogerfooger Analog Delayの2つのディレイを組み合わせ鳴らされた音だけで構成されている事で、PCのデジタル・エフェクトは一切施されていない事だ。

当初は唄入りの作品を作るつもりで制作が始まられたようだが、余程この機材の織り成すサウンドに惹きこまれたのか、結果的に7つの組曲で構成された21曲の楽曲集に仕上がった。

文字で書くといかにも退屈な音が想像されてしまいそうだが、これがなんとも中毒性の高いトリッピーかつトランシーな仕上がりの作品となっている。

タイトルは仏語で「現実の昼と夜」の意味だそうだ。







2023年10月2日月曜日

深海

 









【今週の一枚】













Laurel Halo - Atlas [AWE 2023]

LAを拠点に活動する電子音楽家Laurel Haloによる5年ぶりの5thアルバム。

これまでHyperdubやLatencyといったレーベルから作品をリリースしてきたが、今作は自ら立ち上げたAWEより。

まるで深海の奥底で鳴らされているかのような極上アンビエント・ドローン作品だ。

ともすれば不穏な響きにも聴こえる不協和音で構成されつつも、どこか癒しをも感じさせる不思議な音楽。

きわめて前衛的なアプローチが採られていながらも、古典的な側面も見え隠れしていて、フリースタイル・ジャズ作品のようでもあるし、クラシカルな雰囲気も醸し出している。

本作は2020年に彼女がピアノで制作を始め、パリ・ロンドン・ベルリンを行き来しつつ完成に漕ぎ付けた模様。

コラボレーターとしてサキソフォニストのBendik Giske、チェリストのLucy Railton、バイオリニストのJames Underwoodが参加し、James Ginzburgがミキシングを担当。

先行シングルの「Belleville」 は、2021年の春にワンテイクで録音された楽曲で、Coby Seyのヴォーカルがフィーチャーされている。





2023年9月25日月曜日

Saudade









 

【今週の一枚】













MARO - hortelã [SECCA Records 2023]

ポルトガル・リスボン出身のSSWマルチ・インストゥルメンタリストMAROことMariana  Seccaによる7thアルバム。

2017年に名門バークリー音楽大学を卒業した才媛で、母国ポルトガルのみならずロサンゼルスやブラジル等で精力的に活動している。

これまでにJacob CollierやOdesza等とのコラボレーションも実現している彼女、母国代表としてEurovision Song Contest 2022にも出場した模様。

今作は友人である二人のギタリストDarío BarrosoとPau Figueresを迎えて制作され、ビートや装飾音を排した完全なアコースティック・アルバムで、現在3人はトリオとしてツアー中らしい。

収録全10曲中2曲が英語詞で残りは全て母国語で歌われているが、兎に角魅力的な、所謂サウダージを感じさせる声だ。

奇しくも前述のEurovision出場のきっかけとなったのが「saudade, saudade」という楽曲だそう。










2023年9月19日火曜日

醍醐味










 

【今週の一枚】













James Blake - Playing Robots Into Heaven [Polydor 2023]

セルフ・タイトルの1stアルバムで鮮烈すぎるデビューを果たして12年、James Blakeが2年ぶりの6thアルバムをリリースした。

当初よりトラック・メイカーとして抜きんでた才能を遺憾なく発揮してきた彼だが、今作においては初期インディー時代を彷彿させるかのようなアンダーグラウンドなダンス・フロア寄りのサウンドにシフトしている印象で、それが好結果に繋がっていると感じられた。

今夏のソニックマニアで来日し、大阪では単独公演も敢行し、大いに好評を博した彼だが、2017年の東京国際フォーラムでのライブは個人的に今まで観てきたなかでも最も感動的なパフォーマンスの内のひとつに挙げられる。

ライブにおいても前衛的な電子音と繊細かつ流麗なメロディとの対比が彼の音楽の醍醐味と言えるだろうが、今回の作品においても絶妙なバランスで混交している。

アルバム随所に聴きドコロが散りばめられた作品だが、エンディングのタイトル・トラックの素朴な調べが、何故かやたらに強く心に残る。






2023年9月11日月曜日

爛漫
















 【今週の一枚】













Joanna Sternberg - I've Got Me [Fat Possum Records 2023]

Joanna Sternbergはマンハッタンを拠点に活動するフィメイルSSWにしてマルチ・インストゥルメンタリスト、ヴィジュアル・アーティストで今作がセカンド・アルバム。

2019年の1st「Then I Try Some More」は最初Conor OberstのレーベルTeam Love Recordsよりリリースされたが、Fat Possum Recordsより再発され、今作は同レーベルからのリリース。

オルタナ・カントリーというジャンルが定着してもう随分と時間が経っているし、Gillian Welchを筆頭に数多のアーティストが真正アメリカーナを手掛けた作品を世に問うてきているワケだけれど、このJoanna Sternbergはかなり強烈な個性を感じさせてくれる。

何十年も前に作られたフォーク・アルバムなんですよ、と言われて聴かされても信じてしまいそうな程にタイムレスな音楽性だ。

Rickie Lee Jonesを彷彿させるような歌声も印象的だが、その佇まいが天真爛漫で、その天然ぶりはどこかDaniel Johnstonあたりに通ずるトコロも。

Matt Sweeneyがプロデュースを手掛けた事でも話題を呼んだようだが、7曲目の「Stockholm Syndrome」が突出して素晴らしい。

何の変哲も無い、極めてシンプルな弾き語りの小品でありながら、こんなにも胸に響き渡る曲を作り出してくれた事に心から感謝したくなってしまう。


2023年9月4日月曜日

矢野さん

 










【今週の一枚】













Jonah Yano - Portrait Of A Dog [Innovative Leisure 2023]

広島生まれで幼少のころカナダに移住し、トロントを拠点に活動する日系SSW、Jonah Yanoによるセカンド・フル・アルバム。

ラスト・トラックのみカナダのジャズ・バンドBADBADNOTGOODと連名のクレジットとなっているが、実際にはすべての楽曲でアレンジ、演奏を手掛けており、実質的には共作と言って差し支えないと思う。

ジャジーで瀟洒なサウンドに、繊細でフェミニンなヴォーカルが乗るスタイルの音楽だが、決して軽い印象は与えておらず、むしろエモーショナルな作品ではないだろうか。

タイトル・トラック「Portrait Of A Dog」や2曲目の「Always」あたりのメロディのクオリティが突出しているが、ラスト前の「Song About The Family House」のアコースティック・フォークは実に美しいし、ラストの「The Ordinary Is Ordinary Because It Ordinarily Repeats」の迫力あるジャズ・サウンドも実に味わい深い。

Jonah Yanoは来月初の来日を果たし、全国6か所で7回の公演を予定している模様。






2023年8月28日月曜日















 【今週の一枚】














Eluvium - (Whirring Marvels In) Consensus Reality [Temporary Residence 2023]

米国ポートランドのMatthew Cooperによるソロ・ユニットEluviumの新作アルバム。

数多く生み出されてきたポスト・クラシカル作品の逸品の数々にその名を連ねる作品だと思う。

T.S.エリオットの「荒地」とリチャード・ブラウティガンの「All Watched Over By Machines Of Loving Grace」からインスピレーションを得て制作された模様。

本格的なオーケストラル・ストリングス・アレンジはコロナ禍のなかAmerican Contemporary Music EnsembleやGolden Retriever、Budapest Scoring Orchestraのメンバーとネットを介して遠隔で演奏されているのだとか。

唯一女声ヴォーカルがフィーチャーされたM7「Void Manifest」が息をのむほどに美しい。






2023年8月21日月曜日

至宝














 【今週の一枚】












Sigur Rós - ÁTTA [Von Dur 2023]

アイスランド、レイキャビクの至宝、シガー・ロスの10年ぶりの8thアルバム。

タイトルのÁTTAはEightの意味だそう。

去年の来日公演は本当に感動的だったし、今作リリース直前に渋谷でリスニング・パーティが有ると知り速攻で予約したけど、これも素晴らしい体験だった。

今作は2012年に脱退したメンバーのKjartan Sveinssonの復帰作となっており、その唯一無二の至高かつ深遠な音楽性が遺憾なく発揮されている仕上がり。

オーケストレーションが大胆に導入されていて、実際現在彼らはオーケストラと北米をツアー中の模様。

ギター・バンドとしての彼等も偉大というほかは無いけど、オーケストラとの共演もとても見応えがありそうだ。







2023年8月16日水曜日

Acousmatic








 

【今週の一枚】













Salami Rose Joe Louis - Akousmatikous [Brainfeeder 2023]

Lindsay Olsenによるソロ・プロジェクトSalami Rose Joe Louisの4年ぶりの新作は前作に引き続きBrainfeederレーベルより。

「Zdenka 2080」をリリースした翌年にはそのアウトテイク集ともいうべき「Chapters of Zdenka」を発表しており、その後コロナ禍のなかで制作が進められた音源が今作に結実したという事だろう。

彼女のような「ザ・宅録アーティスト」にしてみればずっと室内に引き籠って音作りに勤しむのはそんなに苦痛ではないようにも思えてしまうが、全くストレスが無かったわけではないだろうと推察される。

愛用のRoland MV-8800を駆使して作り上げられたモンド感たっぷりの音世界は今作でも健在で、メロディの完成度の高さはこれまでのキャリアでも随一の完成度の高さを誇っているように感じられた。

アートワークは映像監督としても活動するというデザイナーWinston Hackingが手掛けており、オープニングを飾るタイトル・トラック「Akousmatikous (feat. Soccer96)」のMVは映像作家Carlos López Estradaによるアニメーションが採用されている。









2023年8月7日月曜日

フレットレス










 

【今週の一枚】













Blake Mills - Jelly Road [Verve Forecast 2023]

2021年のPino Palladinoとの連名作品「Notes With Attachments」が称賛を集めたBlake Mills、ソロ名義としては2020年の「Mutable Set」以来3年ぶりの5thアルバム。

敏腕プロデューサーとして名を馳せる彼だが、自身の作品も毎度の事ながら充実しまくっている。

ただソロ名義ではあるものの今作もヴァーモント州のアーティスト、Chris Weismanとの共作という形が取られている。

もとはAmazon Primeのドラマ・シリーズのミュージック・ディレクターを務めることになったミルズが共通の友人であるKyle ThomasにChris Weismanを紹介され、意気投合した二人が共同でドラマの音楽制作を始め、その後2022年春にこの「Jelly Road」が録音されたようだ。

昨年にはPino Palladinoとともに来日し、その公演にはSam Gendelも名を連ねていたが、今回のアルバムにも数曲で演奏を披露しており、その密接な関係性がうかがえる。

MillsとWeismanはこの6月に20年数年ぶりに開催されたジョニ・ミッチェルの公演に参加、その後Blake Mills Featuring Chris Weisman Tourと銘打ったツアーをスタートさせている模様。

4曲目の「Skeleton Is Walking」の長尺の荒々しいギター・プレイが印象に残るが、これはミルズ自身がサスティナー内蔵のフレットレス・バリトン・ギターで演奏しているらしい。

このギター、彼のお気に入りらしく、昨年の来日の際も披露していたのだとか。







2023年7月31日月曜日

勘違い
























 【今週の一枚】













Lauren Auder - the infinite spine [True Panther Records 2023]

アートワーク見ててっきり耽美派ゴス系の女性アーティストかと思い込んで聴き始めたら野太いバリトン・ヴォイスで吃驚。

Lauren Auderはロンドンを拠点に活動する25歳のシンガー・ソングライター、プロデューサーで今作がデビュー・アルバム。

英国Watford生まれで幼少期を南仏Albiで過ごした経歴の持ち主であり、両親は音楽ジャーナリストで父親がKerrang!、母親がNMEに勤務していたそうだ。

なんだか浮世離れした音楽性を連想していまうビジュアル・イメージだけれど、オーセンティックなバロック・ポップであり、その歌唱スタイルからオーケストラル&シアトリカル・エモという形容も出来るように思える。
そのエネルギッシュ極まりない咆哮は去年衝撃的なデビュー作をリリースしたBrakenceことRandy Findellにも引けを取らないレベルと感じたし、CursiveやThe Good Lifeで活動するTim Kasherなんかを連想させられたりもした。
このスケール感溢れる壮大なサウンド、ライブではどう再現するのか想像するのも愉しい。



2023年7月24日月曜日

トロピカリア











 

【今週の一枚】













Ítallo - Tarde no Walkiria [LAB 344 2023]

もし将来2023年の夏は暑かったなあ、と思い返す事があったとしたら、その時の脳内BGMはこのアルバムだと思う。

ブラジル、アラゴアスのアーティストÍtalloことÍtallo Françaの3rdアルバム。

ジャジーなピアノの響きが印象的なオープニングの「Jangadeiros Alagoanos」から実験色の強いタイトル・トラック「Tarde no Walkiria」への流れで一気に作品にひきこまれていくかのような感覚を覚えるが、アルバム全体を通じてソング・ライティングの妙を堪能出来る作品だ。

極上ローファイ・トロピカリアの世界を堪能出来る逸品と言えるだろう。

今作はリオのレーベルLAB 344への移籍第一弾で、Paulo Francoをはじめとした様々なアーティストがゲスト参加。

なんとも味のあるアートワークはNathalia Bezerraによって撮影された写真をもとにÍtallo本人によって手掛けられた模様。







2023年7月18日火曜日

いたみ

 










【今週の一枚】













Lloyd Cole - On Pain [Earmusic 2023]

Lloyd Cole and the Commotionsが最初のアルバム「Rattlesnakes」をリリースしたのは1984年の事なので、彼のミュージシャンとしてのキャリアは40年近くに及ぶ。

1990年にソロ転向後も安定した活動振りでLloyd Cole and the Negatives名義の作品を含め十数枚の作品を世に問うてきた。

かなりエレクトロ寄りの作風に転じた時期もあったり、息子との共作アルバムをリリースしたりもして、そろそろ隠居モードなのかな、なんて思ったりした事もあったけど、なんのなんの。

今作で聴く事の出来る彼の若々しくも艶っぽく深みのある色気をまとったヴォーカルの素晴らしい事といったら。

元々若いころから渋い声質の持ち主だったけど、こういう人に限って声が年を取らない典型のような気がする。

Aimee Mannなんかにも言えると思うけど、特にセールスを追求するワケでなく、ただ自分のやりたい音楽を自分のペースで作り続けているアティチュードは本当に素晴らしいと思える。

今作はChris Merrick Hughesがプロデューサーを務め、the Commotionsの創設メンバーBlair CowanとNeil Clarkが4曲の楽曲を共作している。