2023年10月30日月曜日

ホレボレ

 











【今週の一枚】













Sampha - Lahai [Young 2023]

シエラレオーネにルーツを持ちサウス・ロンドンで活動するSamphaことSampha Lahai Sisayの6年ぶりのセカンド・アルバム。

その間にも様々なアーティストの作品に客演、コラボレーターとして名を連ねていたので、ブランクがあった印象は全くないのだけれど、彼が何故多くのミュージシャンに愛されているのかがよく分かる仕上がりとなっている。

サウンド・プロダクションの完成度の高さは言うまでもないにしても、これぞシルキー・ヴェルヴェット・ヴォイスというべき歌声を披露してくれており、聴き込む程に惚れ惚れしてしまう。

ストリングアレンジメントにOwen Pallettが名を連ねていたり、ゲスト・ヴォーカルにYaejiが参加しているのにも目をひかれたが、Mansur BrownやYussef Dayesなど三ス・ロンドン・シーンの盟友達も演奏を披露している。

5曲目のタイトルになった「Satellite Business」だが、同じタイトルを銘打ったイベントをブルックリンとロンドン、LAで敢行、これから本格的なツアーを計画している模様。

アルバム・タイトルのLahaiは父方の祖父の名前にちなんでいるそうで、彼自身のミドル・ネームでもある。



2023年10月23日月曜日

異能










 

【今週の一枚】













S. Carey & John Raymond - Shadowlands [Libellule Editions 2023]

Wisconsin州Eau ClaireのアーティストS. Careyとジャズ・トランペッターJohn Raymondの共作アルバム。

二人はウィスコンシン大学オークレア校に在学中から20年にわたって交友関係にあるそうで、今作は2018年頃から制作を始め、当初はインストゥルメンタル作品を作るつもりだったのが結果的にウタモノになった模様。

S. Careyの盟友的存在と言える豪州人Gordiも2曲で参加、特にM9「New Meaning」はアルバムのハイライトとも言える名曲だと思う。

マスタリングはTaylor Deupreeが手掛け、プロデューサーはSun Chungが務めた。

異能のピアニストAaron Parksが参加している事でも話題を呼んでいるようだ。

アダルト・コンテンポラリーの逸品と言える作品だと思う。









2023年10月16日月曜日

なげやり
















【今週の一枚】













Sufjan Stevens - Javelin [Asthmatic Kitty 2023]

スフィアン・スティーブンスの存在を知ったのは2003年リリースの傑作3rdアルバム「Michigan」だったので、もうそれから丁度20年が経過したのかと思うと実に感慨深い。

その間に映画「Call Me by Your Name」の主題歌「Mystery ofLove」で数々の賞を受賞したりアンビエント・アルバムを発表したりと話題には事欠かなかった彼だが、純粋なシンガー・ソングライター作品としては2015年の「Carrie & Lowell」以来8年ぶりという事になる。

多くのファンがこのアーティストにこんな作品をまた作って欲しいという期待に十分過ぎる程応えたアルバムに仕上がっているように思えるし、先述した3rdやそれに続く4th「Seven Swans」あたりと比しても全く遜色のないクオリティだと思えた。

先行シングルとしてカットされたM3「Will Anybody Ever Love Me?」は彼のキャリアを代表する名曲のひとつに挙げられるのではないだろうか。

Hannah Cohenをはじめ数々の女性ヴォーカリストをゲストに迎えて見事なコーラスワークで彩られており、8分半の大作となったM9「Shit Talk」ではThe NationalのBryce Dessnerがギタリストで客演しているが、基本的に全ての楽曲の演奏、レコーディング、ミキシング、プロデュースそしてアートワークに至るまでスフィアン自身が手掛けている。

アルバムには48ページのヴィジュアル・アートワークとそれぞれの楽曲に紐づいた10編のエッセイが収録されたブックレットが付属されている。

現在彼はギランバレー症候群の合併症で闘病中であり、リハビリを続けているそうだが、一日も早い回復を期待したい。








2023年10月10日火曜日

ひるとよる











 

【今週の一枚】













Colleen - Le jour et la nuit du r​é​el [Thrill Jockey 2023]

Colleenはフランス人のマルチ・インストゥルメンタリストCécile Schottによるソロ・プロジェクトで2003年以来7枚のアルバムをリリースしており、今作が8枚目の作品。

ヴォーカリストでもある彼女だが、今作は完全なインスト・アルバムで、2007年のLes ondes silencieuses以来の試みとなった。

この作品が特徴的なのはモノフォニック・セミモジュラー・シンセのMoog GrandmotherにRoland RE-201 Space EchoとMoogerfooger Analog Delayの2つのディレイを組み合わせ鳴らされた音だけで構成されている事で、PCのデジタル・エフェクトは一切施されていない事だ。

当初は唄入りの作品を作るつもりで制作が始まられたようだが、余程この機材の織り成すサウンドに惹きこまれたのか、結果的に7つの組曲で構成された21曲の楽曲集に仕上がった。

文字で書くといかにも退屈な音が想像されてしまいそうだが、これがなんとも中毒性の高いトリッピーかつトランシーな仕上がりの作品となっている。

タイトルは仏語で「現実の昼と夜」の意味だそうだ。







2023年10月2日月曜日

深海

 









【今週の一枚】













Laurel Halo - Atlas [AWE 2023]

LAを拠点に活動する電子音楽家Laurel Haloによる5年ぶりの5thアルバム。

これまでHyperdubやLatencyといったレーベルから作品をリリースしてきたが、今作は自ら立ち上げたAWEより。

まるで深海の奥底で鳴らされているかのような極上アンビエント・ドローン作品だ。

ともすれば不穏な響きにも聴こえる不協和音で構成されつつも、どこか癒しをも感じさせる不思議な音楽。

きわめて前衛的なアプローチが採られていながらも、古典的な側面も見え隠れしていて、フリースタイル・ジャズ作品のようでもあるし、クラシカルな雰囲気も醸し出している。

本作は2020年に彼女がピアノで制作を始め、パリ・ロンドン・ベルリンを行き来しつつ完成に漕ぎ付けた模様。

コラボレーターとしてサキソフォニストのBendik Giske、チェリストのLucy Railton、バイオリニストのJames Underwoodが参加し、James Ginzburgがミキシングを担当。

先行シングルの「Belleville」 は、2021年の春にワンテイクで録音された楽曲で、Coby Seyのヴォーカルがフィーチャーされている。