2024年10月28日月曜日

ゆめのくに

 











【今週の一枚】













Kelly Lee Owens - Dreamstate [dh2 2024]

ウェールズ出身の電子音楽家Kelly Lee Owensの2年ぶりの4thアルバム。

看護師からミュージシャンに転身したという異色の経歴を持つ彼女、コロナ禍のなかにあっても精力的に作品作りに取り組んできた。

これまでの3作はSmalltown Supersoundからのリリースであったが、今回の作品はThe 1975のドラマーGeorge Danielが新たに設立したエレクトロ・ミュージック・レーベルdh2への移籍第一弾となった。

前作「LP.8」ではThrobbing GristleとEnyaの融合を目指したなどと嘯き、かなり実験色の強い作風であったが、今作はうってかわってかなり開かれた音となっている。

リード・シングルの「Love You Got」などはメジャー・チャートを席捲しても全然不思議ではないようなアッパーなポップ・チューンだ。

プロデューサーにはGeorge Danielに加えてBicepやThe Chemical BrothersのTom Rowlandsらも名を連ね、曲作りにも参画している模様。

今夏彼女は今夏イビザ島で開催されたBoiler Room & Charli xcx presents: PARTYGIRL Ibizaに参加したそうだが、今回の作品はCharli xcxの「BRAT」と並んで2025年を代表するダンス・アルバムの一枚に挙げらえるのではないだろうか。




2024年10月22日火曜日

黄金の子














 

【今週の一枚】












さらさ - Golden Child [ASTERI ENTERTAINMENT 2024]

湘南出身のSSWさらさによる2年ぶりのセカンド・アルバム。

デビュー・アルバム「Inner Ocean」に衝撃を受けて以来ずっと注目しているアーティストで2023年3月の1stアルバム・リリース・パーティと銘打たれたソロ公演、12月の渋谷WWW Xにおけるワンマンライブ「( star )」、そして今作のリリースを受けて開催された恵比寿リキッド・ルームでのライブと既に三回も彼女のパフォーマンスを観る機会に恵まれ、その都度感激しまくっている次第。

楽曲の完成度の高さは勿論のこと、彼女の歌唱も本当に素晴らしいのだが、バンド・メンバーの演奏が実にハイ・レベルなのだ。

今作は当初の予定より発売が延期されるという経緯があったのだが、5曲目の「リズム」の完成に相当手こずったらしく、それでもどうしても収録したいという思いがあったようで、その拘りも納得の出来栄え。

オープニング・トラックの「予感」やリード・シングルの「f e e l d o w n」も名曲だが、ライブでも披露されていた「祝福」が今作の白眉ではなかろうか。

アルバム・タイトルの「Golden Child」は彼女の母親が彼女を身ごもる前に占い師に「あなたの前世の悲しみを救うために、ゴールデン・チャイルドが生まれてくる」と言われた、というエピソードから採られているそう。





2024年10月17日木曜日

毅然
















 【今週の一枚】













Nilüfer Yanya - My Method Actor [Ninja Tune 2024]

UKのNilüfer Yanyaの2年ぶりの3rdアルバムはNinja Tuneレーベルへの移籍第一弾となった。

躍動感溢れるギター・ストロークが印象的なオープニング・トラック「Keep On Dancing」で幕を開ける今作、続く「Like I Say (I runaway)」とタイトル・トラック「Method Actor」と轟音ギターがうなりをあげるのは実に痛快だ。

ところが4曲目の「Binding」から一転して繊細でリリカルなSSW然とした佇まいの楽曲が並べられており、これがまた味わい深いのである。

特に7曲目の「Call It Love」は聴くたびに胸を締め付けられるような思いのする名曲だと思えた。

2020年の初来日公演を観た際にも彼女のギターという楽器に対する強い思い入れと拘りを感じさせられたが、今作も全編を通じ本当に様々なギターのサウンドを堪能出来る。

その声質と歌唱スタイルからネオR&B的な文脈で語られる事の多い彼女の音楽だが、「自分の作る音楽にはR&B的な要素は一切無い」と嘯く彼女、その毅然とした姿勢にも好感を感じさせられる次第だ。









2024年10月7日月曜日

詩人








 

【今週の一枚】













Mustafa - DUNYA [Jagjaguwar 2024]

こ、これは…。

エリオット・スミスやスフィアン・スティーブンスの系譜にも連なるメランコリック・フォークの逸品というべき作品が産み落とされた。

Mustafaはスーダン系カナダ人でトロントで生まれ育ったSSWにして映像制作者で、かつてはMustafa the Poetの名義で活動していた模様。

もとはDrakeにその才能を見出され、The WeekndやCamila Cabelloに楽曲を提供してきた経歴を持つ。

2021年に発表したミニ・アルバム「When Smoke Rises」はJames Blake、Jamie xxをプロデューサーに迎え、今をときめくSamphaをゲストに迎え、大きな話題を呼んだようだ。

今回の「DUNYA」は待望のデビューアルバムで、タイトルはアラビア語で「あらゆる欠点を抱えた世界 」の意だそう。

共同プロデューサーにThe NationalのAaron Dessnerを招き、Rosalía, Clairo, Nicolas Jaarといった錚々たるコラボレターが名を連ねて完成に漕ぎつけた今作だが、えもいわれぬ美しさをたたえている。

またしても眩いばかりの才能を持った若きクリエイターの登場に心躍らされる思いだ。