2024年9月30日月曜日

娘よ









 

【今週の一枚】













Bat for Lashes - The Dream of Delphi [Mercury 2024]

Natasha KhanによるプロジェクトBat for Lashesの5年ぶりの6thアルバム。

タイトルのDelphiは彼女の娘の名前だそうで、タイトル・トラックの他にも「Letter To My Daughter」や「Delphi Dancing」など娘への思いを綴ったと思しきトラックが並ぶ。

作品はLAでコロナ期間中に制作され、殆どが即興で書かれた模様。

デビュー以来幾度となく引き合いに出されてきたKate Bushの影響は本作にも色濃く息づいており、シアトリカルでオペラチックなスタイルと80年代NWっぽいサウンド・アレンジが絶妙のコントラストを現出している。

5曲目の「Home」は唯一のカバー・ソングで、Delphiのお気に入りの一曲なのだとか。

Brad OberhoferやJack Falbyに加え、孤高のハーピストMary Lattimoreがゲストに名を連ねている。






2024年9月25日水曜日

キック!

 











【今週の一枚】














Eels - Eels Time! [E Works 2024]

EことMark Oliver Everettが率いるEelsの15作目となるスタジオ・アルバム。

1996年にデビュー作「Beautiful Freak」を発表後、コンスタントに活動を続け、今作は2年ぶりの作品。

2023年は北米と欧州でLockdown Hurricaneツアーを敢行、2枚目のベスト・アルバム「EELS SO GOOD: ESSENTIAL EELS VOL. 2 (2007-2020)」もリリースと話題に事欠かなかったが、コラボレーターにKoool G Murder、The Chet、Tyson Ritter、Sean Colemanらを迎え、Los AngelesとDublinのスタジオで12曲がレコーディングされて今回のアルバムに結実した模様。

これまでも何度も書いてきたけど、1998年の2nd「Electro-Shock Blues」と続く2000年の3rd「Daisies of the Galaxy」には当時本当に深く感銘を受けたし、今もって傑作だと信じて疑わない次第だ。

その後もずっとこのバンドの事は追いかけ続けてきていたものの、上記2作品に比べると正直インパクトに欠けるというか、毎回全盛期の七掛けくらいのクオリティの作品だな、なんて印象を抱いていたのも事実である。

ただ、今回の「Eels Time!」はかなり復調の兆しが感じられるというか、久々の充実作に仕上がっているように思えた。

Eの特徴のある声質もハリが感じられるし、ソング・ライティングのクオリティもかなりイイ線行っているように思え、「If I’m Gonna Go Anywhere」なんぞは往年の名曲「Fresh Feeling」にも比肩するトラックと言えるのでは。

加えてアートワークが素晴らしい。

1963年生まれという事で還暦目前のEだが、素晴らしいキックを披露してくれており、なんとも微笑ましいではないか。










2024年9月17日火曜日

10日間















 【今週の一枚】













Fred again.. - ten days [Atlantic 2024]

今やダンス・ミュージックのフィールドでは世界的な知名度を誇るプロデューサーにしてマルチ・インストゥルメンタリストFred again..ことFrederick John Philip Gibsonによる2年ぶりの4thアルバム。
前作「Actual Life 3」は今年の第66回グラミー賞でBest Dance/Electronic Albumを受賞、8月のReading and Leeds Festivalsではダンス・エレクトロニック・アクトとして初のヘッドライナーを務めたとうのだから、その勢いは留まることを知らないかのようだ。
今作は「或る10日間についての10曲」というテーマで10のインターバルを挟みつつ10の楽曲を演奏する、というコンセプトの作品となっている。

彼が旬のアーティストである事を証明するかの如く、そのゲスト陣は豪華絢爛なラインナップとなっている。

昨年のアルバムが称賛を浴び、今年のフジロックのパフォーマンスも注目を集めたSamphaを始め、盟友的存在のSkrillex、Four Tet、Bruno Marsとユニット「Silk Sonic」でも名高いAnderson .Paak、オルタナ・カントリーの歌姫Emmylou Harrisもその名を連ねている。

個人的にはアイルランドのSOAKの参加が嬉しい驚きだったし、彼女のポエトリー・リーディング・スタイルの歌をフィーチャーした「just stand there」には大いに感銘を受けた。

今回のアルバムのリリースに先立って、世界40都市以上でリスニングパーティーが催され、東京も下北沢で行われた模様。





2024年9月9日月曜日

熱望










 

【今週の一枚】













Beabadoobee - This Is How Tomorrow Moves [Dirty Hit 2024]

フィリピン生まれロンドン育ちのBeabadoobeeことBeatrice Kristi Lausの2年ぶりの3rdアルバム。

今作はUKメジャー・チャート初登場1位を獲得したというのだから凄まじい。

去年はTaylor Swiftの全米ツアーのサポート・アクトにも抜擢されたようで、正に今が旬のアーティストと言えるのでは。

リード・シングルにしてオープニング・トラック「Take A Bite」やそれに続く「California」はライブで聴くとさぞや盛り上がるだろうなと思えるが、今作はぐっと楽曲のヴァリエーションが広がった印象で、「Girl Song」やタイトル・トラックにしてラストを飾る「This Is How It Went」などアコースティックな佳品が凄く良い。

なかでも日本で全面ロケを敢行してMV制作をして話題を呼んだ「Ever Seen」などはそれこそ絶品と言える仕上がりで彼女のキャリアを代表する曲のひとつになるのではないだろうか。

ところで個人的に復活を熱望しているバンドのひとつに英国ブリストルのThe Sundaysが居るのだけれど、彼らの名曲「Here's Where the Story Ends」をBeabadoobeeがカヴァーしているヴィデオを発見して猛烈に感激した記憶がある。

The Sundaysのリード・シンガーHarriet Wheelerは本当に魅力的な歌い手だけれど、Beabadoobeeは彼女の系譜に連なる才能の持ち主だと思える。

「Can't Be Sure」とか演ってくれたら間違いなく泣いてしまうだろうなあ。







2024年9月2日月曜日

SXC












 

【今週の一枚】













Mura Masa - Curve 1 [Pond Recordings 2024]

英国Guernsey島出身のMura MasaことAlexander George Edward Crossanによる2年ぶりの4thアルバム。

これまでメジャー・レーベルから作品をリリースしてきたが、今作は自ら設立したPond Recordingsより。

yeuleをフィーチャーした「We Are Making Out」、Daniela Lalitaを迎えた「Drugs」といったコラボレーション作を含めた全10曲50分は実際の収録時間以上のヴォリューム感だ。

ラスト・トラック「Fly」はCherishが堂々たる歌唱を披露、9分超えのExtend Mixヴァージョンとなっている。

個人的には仏語詞が全面的に導入されたトラック「SXC」に最も心奪われた。

なんだか90年代のMomusなんかが想起させられたりして。

今年快作アルバム「Brat」を発表したチャーリーXCXにも感じた事だが、享楽的なダンス・ミュージックを追求しつつも、そのアティチュードは実にストイックなのも興味深い。

彼が設立したThe Pondは単なるレコード・レーベルの枠を超え、新進のアーティストやクリエイターが交流するクリエイティブ・コミュニティを目指しているようで、その活動拠点として2025 年初頭の完成を目指しPondスタジオ・コンプレックスを建設中なのだとか。

これからもまだまだ精力的な活動ぶりに期待出来そうだ。