2024年6月26日水曜日

餓鬼













 【今週の一枚】













Charli XCX - Brat [Atlantic 2024]

Charli XCXによる2年ぶりの6thアルバムはAtlantic Recordsへの移籍第一弾となった。

タイトルの「brat」は糞餓鬼という意味のスラングなんだそう。

ライム・グリーンにタイトルの文字だけという拍子抜けする程にシンプルなアートワークはニューヨークのスタジオSpecial Offer, Inc.によって手掛けられたそうで、今作の発表にあわせストリーミング・サービスの過去のディスコグラフィも同様に文字だけのジャケットに変更されている。

エクゼクティブ・プロデューサーにはお馴染みのA. G. Cookが名を連ねており、Hudson Mohawkeをはじめとして多くのプロデューサーが作品に携わっている模様。

3月にリード・シングル「Von Dutch」を発表したのを皮切りに「Club Classics」、「B2B」、「360」と収録曲を立て続けにリリースしたのち、今月に入ってアルバムの発表に漕ぎつけたところ、本国UKではいきなり2位をマークしたのを始めとして各国のチャートを席捲しているようだ。

そのストイックでプリミティブなアティチュードはさながらダンス・ミュージックの求道者かのごとき印象を与えてくれるが、実にクールだと思える。

2年前には有明アリーナで開催されたTONAL TOKYOに出演した彼女、今年は是非とも単独で来日して欲しいところ。







2024年6月17日月曜日

敢行

 











【今週の一枚】













Aurora - What Happened to the Heart?  [Decca - 2024]

カナダ人のアーティストでSarah McLachlanという方が居られて、このヒトが1993年にリリースした3rdアルバム「Fumbling Towards Ecstasy」という作品は今もって90年代を代表する傑作だと思うし、セールス的にも大成功をおさめ、当時のビル・クリントン元大統領がモニカ・ルインスキーとの逢瀬のBGMに使っていたという逸話が残っていたりもする。

それがノルウェーのオーロラの新譜と何の関係が?という話なんだけど、彼女が2022年にリリースしたアルバム「The Gods We Can Touch」のガッカリ感がSarah McLachlanの4th以降に感じた感触にすごく似ていたのだ。

サウンド・プロダクションもしっくり来ていないように感じられたし、ソング・ライティングも冴えが感じられないというか。

そんなワケで今回の「What Happened to the Heart?」もあんまり期待していなかったというか、ガッカリする位なんだったら聴かないほうが良いかもな、なんて思っていたくらいなのだ。

ところが実際に作品を聴いてみると、これが完全に良いほうに裏切られた。

前のが何だったんだ、というくらいにキレッキレに冴え渡っている。

初来日の渋谷Space Odd公演で感じたこのうえない高揚感がフツフツと蘇ってくるような思いで作品に没頭させられてしまった。

その後彼女は何度も来日しているし、SNS上でもしょっちゅう世界中をツアーに出ている印象で、いつ曲を書く暇があるのかな、なんて思わされるくらいだが、溢れ出んばかりの創作意欲の持ち主なんだろう。

サマーソニックへの出演は決まっているようで、単独があればまた是非観てみたい。

あ、Sarah McLachlanの「Fumbling Towards Ecstasy」は去年30周年のアニバーサリーということで記念ツアーを北米で敢行中とのことで、無いとは思うけど来日があれば必ず行こうと思います。








2024年6月10日月曜日

経過














 

【今週の一枚】













Idaho - Lapse [Arts & Crafts 2024]

いやあ、驚いた。

あのIdahoの新作が13年ぶりに突如リリースされたのだから。

てっきり活動停止状態だと思い込んでいたし、前作「You Were A Dick」の時も「6年間もナニやってたんだよう」なんて呟いていたくらいだったのだ。

90年代後半から2000年台前半にかけてスロウコアのシーンが隆盛で、このIdahoをはじめMark Kozerek率いるRed House PaintersやJason MolinaのSongs: Ohiaあたりは特に熱心に愛聴していたモノである。

フル・アルバムちしては9作目にあたる今作だが、長過ぎるブランクが一体何だったのかと思える程に、良い意味で「変わっていない」。

フロントマンのJeff Martin以外はメンバーの入れ替わりが激しいバンドだが、現在はRobert FronzoとJeff Zimmittiとのトリオ編成で活動している模様。

過去にはあのJoey Waronkerもメンバーとして名を連ねていた事もあったようだ。

抑制的なアレンジでありながらも、非常にエモーショナルでダイナミズムも感じさせてくれる音楽性は決して古びてはいないし、まだまだこれからの活動にも期待したいと思う。

というかRed House Paintersも突如再結成したりしてくれんかなあ。

2024年6月3日月曜日

勇気


















 【今週の一枚】














The Pearlfishers - Making Tapes for Girls [Marina Records 2024]

スコットランド、グラスゴーのDavid Scott率いるThe Pearlfishers、5年振りの9thアルバム。

デビュー・アルバムをリリースしたのが1993年の事なのでバンドとしての活動は30年を超えるワケだけれど、決して多作とは言えないものの、こうやって着実に音源を届けてくれるのは嬉しい限りだし、クオリティが毎回安定しているのも素晴らしいと思う。

DavidはPrefab SproutのPaddy McAloonに深い親近感を抱いているそうだが、彼やRoddy Frame、そしてEdwyn CollinsにThe Pale FountainsのMichael Head(このヒトは昨年来日公演を敢行)といった同世代と思しきアーティスト達にも旺盛な活動を期待したいトコロだ。

ところでDavid Scottの手掛ける音楽はバート・バカラックやブライアン・ウィルソンの影響が色濃いのは一聴して感じ取れるが、元はといえば幼少の頃に彼の父親が車中のBGMでよく流していたのに感銘を受けたのだとか。

全12曲収録時間42分と長すぎる事も短すぎる事も無い今作、とにもかくにも内容が濃密なうえに、このうえなく瑞々しい。

変な言い方になるけど、オジさんに勇気を与えてくれる作品だと思う。

毎度ながらにお洒落なアートワークはStefan Kasselが手掛けている模様。