2024年9月17日火曜日

10日間















 【今週の一枚】













Fred again.. - ten days [Atlantic 2024]

今やダンス・ミュージックのフィールドでは世界的な知名度を誇るプロデューサーにしてマルチ・インストゥルメンタリストFred again..ことFrederick John Philip Gibsonによる2年ぶりの4thアルバム。
前作「Actual Life 3」は今年の第66回グラミー賞でBest Dance/Electronic Albumを受賞、8月のReading and Leeds Festivalsではダンス・エレクトロニック・アクトとして初のヘッドライナーを務めたとうのだから、その勢いは留まることを知らないかのようだ。
今作は「或る10日間についての10曲」というテーマで10のインターバルを挟みつつ10の楽曲を演奏する、というコンセプトの作品となっている。

彼が旬のアーティストである事を証明するかの如く、そのゲスト陣は豪華絢爛なラインナップとなっている。

昨年のアルバムが称賛を浴び、今年のフジロックのパフォーマンスも注目を集めたSamphaを始め、盟友的存在のSkrillex、Four Tet、Bruno Marsとユニット「Silk Sonic」でも名高いAnderson .Paak、オルタナ・カントリーの歌姫Emmylou Harrisもその名を連ねている。

個人的にはアイルランドのSOAKの参加が嬉しい驚きだったし、彼女のポエトリー・リーディング・スタイルの歌をフィーチャーした「just stand there」には大いに感銘を受けた。

今回のアルバムのリリースに先立って、世界40都市以上でリスニングパーティーが催され、東京も下北沢で行われた模様。





2024年9月9日月曜日

熱望










 

【今週の一枚】













Beabadoobee - This Is How Tomorrow Moves [Dirty Hit 2024]

フィリピン生まれロンドン育ちのBeabadoobeeことBeatrice Kristi Lausの2年ぶりの3rdアルバム。

今作はUKメジャー・チャート初登場1位を獲得したというのだから凄まじい。

去年はTaylor Swiftの全米ツアーのサポート・アクトにも抜擢されたようで、正に今が旬のアーティストと言えるのでは。

リード・シングルにしてオープニング・トラック「Take A Bite」やそれに続く「California」はライブで聴くとさぞや盛り上がるだろうなと思えるが、今作はぐっと楽曲のヴァリエーションが広がった印象で、「Girl Song」やタイトル・トラックにしてラストを飾る「This Is How It Went」などアコースティックな佳品が凄く良い。

なかでも日本で全面ロケを敢行してMV制作をして話題を呼んだ「Ever Seen」などはそれこそ絶品と言える仕上がりで彼女のキャリアを代表する曲のひとつになるのではないだろうか。

ところで個人的に復活を熱望しているバンドのひとつに英国ブリストルのThe Sundaysが居るのだけれど、彼らの名曲「Here's Where the Story Ends」をBeabadoobeeがカヴァーしているヴィデオを発見して猛烈に感激した記憶がある。

The Sundaysのリード・シンガーHarriet Wheelerは本当に魅力的な歌い手だけれど、Beabadoobeeは彼女の系譜に連なる才能の持ち主だと思える。

「Can't Be Sure」とか演ってくれたら間違いなく泣いてしまうだろうなあ。







2024年9月2日月曜日

SXC












 

【今週の一枚】













Mura Masa - Curve 1 [Pond Recordings 2024]

英国Guernsey島出身のMura MasaことAlexander George Edward Crossanによる2年ぶりの4thアルバム。

これまでメジャー・レーベルから作品をリリースしてきたが、今作は自ら設立したPond Recordingsより。

yeuleをフィーチャーした「We Are Making Out」、Daniela Lalitaを迎えた「Drugs」といったコラボレーション作を含めた全10曲50分は実際の収録時間以上のヴォリューム感だ。

ラスト・トラック「Fly」はCherishが堂々たる歌唱を披露、9分超えのExtend Mixヴァージョンとなっている。

個人的には仏語詞が全面的に導入されたトラック「SXC」に最も心奪われた。

なんだか90年代のMomusなんかが想起させられたりして。

今年快作アルバム「Brat」を発表したチャーリーXCXにも感じた事だが、享楽的なダンス・ミュージックを追求しつつも、そのアティチュードは実にストイックなのも興味深い。

彼が設立したThe Pondは単なるレコード・レーベルの枠を超え、新進のアーティストやクリエイターが交流するクリエイティブ・コミュニティを目指しているようで、その活動拠点として2025 年初頭の完成を目指しPondスタジオ・コンプレックスを建設中なのだとか。

これからもまだまだ精力的な活動ぶりに期待出来そうだ。





2024年8月26日月曜日

往年










 

【今週の一枚】













Andrew Bird Trio - Sunday Morning Put On [Concord 2024]

ヴァイオリンを携えた吟遊詩人Andrew Birdの新作はベーシストにAlan HamptonとドラマーにTed Poorを迎えてAndrew Bird Trioとしてリリースされた。

20代の頃に住んでいたシカゴのアパートでよく聴いていたオールド・ジャズを独自の解釈でカヴァーするという趣向の作品で唯一のオリジナルであるラスト・トラック「Ballon de Peut-etre」を除いて、コール・ポーター、デューク・エリントンといった往年の巨匠の作品を即興演奏で録音している。

オリジナルでサックスが用いられているパートをヴァイオリンで演奏しているが、これはこれで味わい深い。

レコーディングは南カリフォルニアの伝説的なヴァレンタイン・スタジオで行われ、トリオの3人に加え、ギタリストのJeff ParkerやピアニストのLarry Goldingsがゲスト参加。

緊張感を保ちつつもどこかリラックスしたムードも漂う貫禄のセッション集、彼独自の「グレート・アメリカン・ソングブック」に仕上がっていると思える。





2024年8月19日月曜日















【今週の一枚】













Arooj Aftab - Night Reign [Verve 2024]

Arooj Aftabはサウジアラビア生まれのパキスタン人シンガー。

外交官の父とエコノミストの母のもと、大都市ラホールで育ち、その後渡米しバークリー音楽大で学んだ。

2014年にデビュー・アルバムをリリース、2021年の3rd「Vulture Prince」

で大きな注目を集め、パキスタン人として初めてのグラミー賞受賞アーティストとなった。

その後名門Verveレーベルに移籍、コラボレーション作をリリースし、今作が移籍後初のソロ作品である。

ジャズ、ミニマリズムの文脈で語られる彼女の音楽だが、英語とウルドゥー語で歌われるそのサウンド・スケープは非常に異質な感触をたたえている。

「夜が支配する」と銘打たれた今回の作品は、正に夜にしか鳴らされない音だと言えるだろう。

James Franciesをフィーチャーしたジャズ・スタンダード「Autumn Leaves」の斬新な解釈にも大いに感銘を受けたが、個人的には「Raat Ki Rani(夜の女王)」が白眉だと思えた。

Chocolate Geniousをはじめ錚々たるゲスト陣のなかにElvis Costelloの名前を見つけたときは驚いたけれど、孤高のギタリストKaki Kingの参加も大いに注目される。

多様な個性を惹き付ける大いなる才能と言えるのではないだろうか。





2024年8月9日金曜日

真骨頂

 



【今週の一枚】













Hiatus Kaiyote - Love Heart Cheat Code [Brainfeeder 2024]

昨年のフジ・ロックは動画配信で幾つかのバンドを観たのだけれど、なかでもこのHiatus Kaiyoteには度肝を抜かれてしまった。

レコードを聴いてもその抜群の歌唱力と演奏力に圧倒されるが、このバンドはライブでこそその真骨頂を発揮するのだなあと唸らされたものである。

2011年に豪州メルボルンで結成され、今作が3年ぶりの4thアルバム。

個性の塊のようなフロント・ウーマンにしてギタリストのNai Palm、べーシストのSimon MavinにキーボーディストのSimon Mavin、そしてドラマーのPerrin Mossから成る鉄壁の4人組だ。

フューチャー・ソウルやアバンギャルド・ビーツなどと称される彼等の音楽だが、恐るべきオリジナリティを誇ると言えるだろう。

3曲目の「Make Friends」なんかはNaiのヴォーカルに張り合うかのように縦横無尽に鳴らされるSimonのベースはあたかも「歌っている」かのようである。

前作「Mood Valiant」でフライング・ロータス率いるBrainfeederに移籍した彼等だが、今作も同レーベルからのリリースとなっている。

それにしてもラストの2曲「Cinnamon Temple」と「White Rabbit」なんかはライブ会場がバーストしてしまうんじゃないかとさえ思わされてしまうが、再来月豊洲PITで予定されている再来日公演は既にソールド・アウトとなっており、その人気ぶりが窺える。

是非とも追加公演、やってくれんかのう。



2024年8月5日月曜日

キャビン






















 【今週の一枚】













Lau Ro- Cabana [Far Out Recordings 2024]

呆れ返る程の酷暑が続く毎日だけれど、そんな今夏のサウンド・トラックはこちらに決定。

Lau Roはブラジル・サンパウロ生まれで現在は英国ブライトンを拠点に活動するSSWで今作がデビュー・アルバム。

彼はネオサイケデリック・バンドWax Machineのフロントマンとしても活動しており、3枚のアルバムをリリースしている。

今回の作品では自ら歌い、ギターにベースにドラム、ピアノにフルートを演奏という具合でマルチ・インストゥルメンタリストぶりを遺憾なく発揮しているが、Isobel Jonesをはじめ管楽器や弦楽器にゲスト奏者を迎えて制作された模様。
60年代から70年代のブラジルのルーツ・ミュージックへの憧憬を感じさせるサウンド・スタイルを標榜するLau Roだが、ボサノヴァやアンビエント・フォーク、トロピカリアなどのエッセンスを自然に取り入れつつ、オリジナリティ溢れるスタイルを確立しているように思えた。
比較的簡素なアレンジが施されているにも関わらず、非常に濃厚な音空間を現出させている手腕は実に見事と言えるだろう。
インストを交えた全10曲収録時間38分と長くもなく短くもない作品だが、ずっと聴き続けていたくなるような中毒性を孕んでいる。
オープニングの「Onde Eu Vou」からして掴みは抜群だけれど、3曲目の「Assim」やWax Machineのメンバーとの共作となった9曲目「Lugar」あたりに特に感銘を受けた次第だ。

アルバムのタイトルの「Cabana」は今作がレコーディングされた庭の奥にある小さな木造小屋(キャビン)にちなんで名づけられたそう。