2025年11月17日月曜日

ひかり











 【今週の一枚】














Rosalía - LUX [Columbia 2025]

もし今年発表されたアルバムで自分が聴いたなかで一枚だけ挙げるとしたら間違いなくこの作品を選ぶ、そう確信させられた。

バルセロナの歌姫Rosalíaの3年ぶりの4thアルバム。

前作「MOTOMAMI」がかなり攻めた内容だったのに比して今回はかなりオーセンティックな路線に回帰している印象(とはいえ十分攻めているとも言えるが)。

先行リリースされた「Berghain」を聴いてその壮大なオーケストレーションを施したアレンジに度肝を抜かれ、大いに期待していた今作、その期待を遥かに超えていた、というのが正直な感想だ。

アート・ポップ、クラシカル・クロスオーバー、フラメンコ・ポップ、オーケストラル・ポップと様々な形でカテゴライズされる彼女の音楽だが、今回の作品はそれらの音楽的要素が絶妙な統一感を持って一枚の芸術作品に昇華されている。

既にグラミー賞を受賞し、これまでの活動で世界的な名声を獲得している彼女、この「LUX」で創造性の高みに達し、ケイト・ブッシュやビヨーク(今作にゲスト参加)の系譜に連なる、歴史にその名を刻む女性アーティストである事を証明したとは言えまいか。

所謂捨て曲はひとつもない今作にあっても2曲目の「Reliquia」には特に感銘を受けた次第。

因みにタイトルの「LUX」はラテン語で光を意味するんだそう。








2025年11月10日月曜日

Anaïs Anaïs

 










【今週の一枚】














anaiis - Devotion & The Black Divine [5DB RECORDS 2025]

anaiis は、ロンドンを拠点とするフランス系セネガル人のシンガーソングライター。

アナイスという名前は英語圏で言うトコロのアンナであり、1980年にフランスでヒットしたAnaïs Anaïsという香水がきっかけで、仏国内でアナイスという名前を付ける親が相次いだんだそうな。

仏トゥールーズ生まれの彼女、幼少期からダブリン、ダカール、オークランド、ニューヨーク、そしてロンドンなど、様々な都市を転々とし、彼女はニューヨーク大学ティッシュ芸術学校で音楽を学んだ模様。

2018年にデビューEP「Before Zero」をリリースしたのち幾つかのシングルを発表、サウス・ロンドンのTOUCHING BASSからリリースされたデビュー作「This Is No Longer A Dream」に続きウェスト・ロンドンを拠点にする5DB RECORDSからニュー・アルバムを届けてくれた。

その音楽スタイルはかなりオーセンティックなR&B、ソウル・ミュージックの文脈にありつつもエクスペリメンタルな側面を兼ね備えており、クール極まりない風貌も併せて独特の存在感を放っている。

今年佳作アルバム「wishful thinking」を世に放ったDuval Timothyも彼女の才能を大いに評価しているとの事、これからも大いに飛躍を期待したい才能とは言えまいか。








2025年11月5日水曜日

一発

















 【今週の一枚】














crushed - no scope [Ghostly International 2025]

crushedはBre MorellとShaun Durkanによるデュオで今作が1stアルバム。

BreはTemple of Angelsのヴォーカリストとしても活動、ShaunはTopographiesやWeekendの元メンバーという経歴を持つ。

それぞれLAとポートランドに在住する二人、遠隔からリモートで作品作りを進めるという現代風のユニットだ。

ドリーム・ポップの括りで語られる事の多い彼等、トリップホップやブレイクビーツ、90年代オルタナティブの影響も色濃く感じさせる。

この作品に先立つEP「extra life」で大きな話題を呼んだcrushedはGhostly Internationalとの契約に漕ぎつけ、満を持して今作を完成させたとの事。

当初はセルフ・プロデュースで作品作りをしていた二人だが、Japanese BreakfastやWeyes Bloodの作品に携わったJorge Elbrechtを共同プロデューサー兼ミキサーに迎え今回のアルバムの制作が進められた模様。

カナダのStarsの往年の作品が想起させられもしたが、このcrushedはデュエットのスタイルは採らず楽曲毎にヴォーカルを分担しており比率的にはBreが歌う楽曲が多いのだけれど、Shaunのヴォーカルも冴え渡っている。

アルバムの終盤Shaunの歌うweaponxとBreによる「celadon」の2曲が今作のハイライトのように思えた。

それにしてもこういう最新技術を用いつつも、どこかノスタルジックなムードの音が今の時代の空気なのかな、と思わされたり。







2025年10月27日月曜日

証左











 

【今週の一枚】














Blood Orange - Essex Honey [RCA Records 2025]

Blood OrangeことDevonté Hynesによる7年ぶりの5thアルバム。

先行シングルとなった「The Field」にはCaroline Polachek、Daniel Caesar、 Tariq Al-Sabirに加えてなんとUKインディー界の伝説的存在The Durutti Columnことヴィニ・ライリーがフィーチャーされており驚かされた。

加えてM12「Scared Of It」にはBrendan Yatesと共にEBTGのBen Watt もその名を連ねており世代を超えて彼の音楽が支持を受けている証左とは言えまいか。

プロデュースとミックスは自身とMikaelin "Blue" Bluespruceの共同作業で進められ、マスタリングはHeba Kadryが手掛けた模様。

作品全体を通じてその洗練されたアレンジは見事としか言い様がないが、時折鳴らされる流麗なストリングスは実に感動的だ。

ラスト・トラック「I Can Go」には昨年傑作アルバムを発表したMustafaがゲスト・ヴォーカルとして参加、味わい深い歌唱を披露している。

それにしても今年はDijonやNourished By Time然りでポストR&Bの佳作が多い年だとまざまざと実感させられる。




2025年10月20日月曜日

虚栄心











 

【今週の一枚】














Malibu - Vanities [YEAR0001 2025]

仏人プロデューサーMalibuことBarbara Bracciniのデビューアルバム。

これが実に見事なアンビエント作品となっており、深海で鳴らされているかのようなドローン・ミュージックだ。

今年佳作アルバムをリリースした同じフランスのOklouとはツアーを共にする関係なのだとか。

今作は主にストックホルムで制作され、最終的にはロサンゼルスで完成に漕ぎつけた模様。

シューゲイザーの再評価の高まる昨今だが、90年代にはドリーム・ポップと呼ばれるカテゴリーのバンドが多数活躍しており、このMalibuもその系譜に連なるアーティストのように思える。

個々の楽曲のクオリティもさることながら、アルバム全体がひとつの芸術作品として圧倒的な完成度を誇っていると言えるのではなかろうか。





2025年10月14日火曜日









 

【今週の一枚】














Purity Ring - Purity Ring [The Fellowship 2025]

カナダのエレクトロニック・ポップ・デュオPurity Ringによる5年ぶりの4thアルバムはセル・タイトル作品となった。

コロナ禍の2022年にEP「Graves」を発表しているものの、多くのファンにとって待望の復活作だと言えるだろう。

今作はコンセプト・アルバムとなっており、架空のロール・プレイング・ゲームのサウンドトラックとして制作されており、「ゼルダの伝説」や「ファイナル・ファンタジー」などのゲームにインスパイアされているのだとか。

初期の頃からエレクトロ歌謡的なスタイルは一貫している彼等、今回のアルバムで完成の域に達したように感じられた。

Corin Roddickによるトラック・メイキングは全編にわたって冴え渡っているし、Megan Jamesによるヴォーカルはかつてないほどに魅力的だ。

オープニングの「Relict」からして掴みは最高過ぎるし、「Many Lives」「Part II」「Place of My Own」の怒涛のシングル3連発は圧巻の出来。

個人的にはM5「Red the Sunrise」やM12「Broken Well」といったトラックに深く感銘を受けた次第。

キャリア・ピークとなった今回の作品だが、これからの活動にも大いに期待したいトコロだ。







2025年10月6日月曜日

とんま

















 【今週の一枚】














Geese - Getting Killed [Partisan Records 2025]

GeeseはNYブルックリン出身の4人組ロックバンドで今作が4thアルバム。

来年で結成10年を迎えるという彼等、バンド名の由来はギタリストのEmily GreenのニックネームGoose(ダチョウ、スラングでとんま)の複数形との事。

ロック・バンドというフォーマットで産み出される音というにはもう既に出尽くしてしまったようにも思えるが、未だにこういうプリミティブでレアなサウンドに圧倒されてしまうことに驚きを覚えてしまう。

丁度30年前に渋谷のクアトロでG・ラヴ&スペシャル・ソースとザ・ジョン・スペンサー・ブルースエクスプロージョンとのスプリット公演を観た事があるのだけれど、その時ですら「いまこんな音を鳴らすのか」と思ったものなのに2025年のいまこのGeeseのむきだしのロックンロールに戦慄を憶えてしまう。

NYのアートロックの先達テレヴィジョンへの憧憬を公言する彼等だが、「メインストリートのならず者」期のローリング・ストーンズをも彷彿させる。

来年2月には代官山SPACE ODDで初来日公演が開催されるとの事だが、あのクラスのハコで見られるのは最初で最後になるのではなかろうか。