2025年8月5日火曜日

人肌











 

【今週の一枚】













Rival Consoles - Landscape From Memory [Erased Tapes 2025]

エレクトロニック・アーティストにしてプロデューサーRyan Lee WestによるプロジェクトRival Consolesによる3年ぶりの9thアルバム。

RyanはRobert Raths率いるロンドンのErased Tapesレーベルが2007年に設立された際の最初の契約アーティストであり、以来ずっと同レーベルから作品を発表し続けている。

今作の制作に入る前に創作のスランプというか停滞期間があったそうで、それを乗り越えて作り上げられた全14曲収録時間58分の大作だ。

彼の音楽はTechno、House、Ambient、Drone、Electronicaと様々なエレクトロ・ミュージックのジャンルにカテゴライズされる性質のものだが、一貫して非常に無機質で機械的なサウンドが展開されているにも関わらず、どこか人肌の温もりめいたものも感じさせるところに独創性を感じさせてくれる。

タイトル・トラックにしてラストを飾る「Landscape from Memory」は制作意欲を失っていた期間を過ごしていたのち初めてエモーショナルに音作りに取り掛かるきっかけになった楽曲だそうで、パートナーに捧げられたという2曲目の「Catherine」と並んで思い入れの深いトラックである事は間違いなさそうだ。

個人的には10曲目の「In a Trance」に特に感銘を受けたが、是非一度フロアで大音量で聴いてみたいと思わされた。

昨年はレーベルメイトのKiasmosが感動的な来日公演を果たしてくれたが、Rival Consolesも来てくれんかなあ。









2025年7月28日月曜日

Do It Yourself

 














【今週の一枚】














Richard Shelest - Sunny Season Is Over [Richard Shelest 2025]

ベルギーの宅録ミュージシャンの2ndアルバム。

このヒトも情報が本当に少なくて、HPは存在せず、InstagramにYoutube、SoundcloudにTikTokといったプラットフォーム上で活動を展開している模様。

レーベルには所属せず、今回の作品もセルフ・リリースという事でDIY精神の塊のようなアーティストと言えるだろう。

幼少の頃からNOKIAの端末を使って無数の映像や音源制作に勤しんでいたようで、その後音楽学校に進み、マイクとフリーソフトを駆使して本格的に音楽活動にのめりこむようになったようだ。

今作のアートワークもそうだけど、上記プラットフォームにUPされている動画もどこかトボけているというか、オフビートなノリに覆われているんだけど、実際の音楽はかなり作りこまれた、完成度の高いものとなっている。

3曲目の「Endless Reminder」なんかが象徴的だが、メランコリックなテイストのメロディと繊細なトラック・アレンジが印象的な楽曲が数多く並べられている。

しかしここまで徹底して自主制作主義を貫いているのはある意味見事だと思うけど、もともと商業的な成功には興味が無いのだろうか。

ところでノルウェーと言えばMagnetという素晴らしいアーティストが居たよなあ、としみじみ。

「Last Day of Summer」とか超名曲でした。







2025年7月22日火曜日

不思議















 【今週の一枚】














DERBY - Slugger [Many Horses 2025]

こんなにも情報の少ないアーティストも珍しいのではないだろうか。

HPは存在せず、Instagramアカウントがあるのみ、リリース元のレーベルの所在すら判明しないのだから徹底している。

DERBYはヒューストン出身でNYを拠点に活動するアーティストで今作が4年ぶりのセカンド・アルバム。

ちなみに2021年リリースだという1stアルバムの音源も見つからなかったので、この「Slugger」が実質的なデビュー作と言えるのかも知れない。

その音楽はIndietronica、Bedroom Popにカテゴライズされるが、Hyperpopやオルタナ・カントリーの影響も汲んでいる。

音数の多いサウンドとは言い難く、シンプルなアレンジの楽曲が並ぶがメロディ・メイカーとしての力量は一筋縄では行かないように思える。

また彼の音楽を特徴づけているのは全てのボーカルにピッチ・エフェクトが施されているところ。

ノーマルで聴いても良い曲ばかりだと思うが、彼なりの拘りがあるのだろうし事実中毒性が高いと思える。

アートワークは何故鹿?みたいなカンジだけど、所在が確認できたこれまでのシングルも全てアートワークに鹿が採用されていて、余程思い入れがあるのだろうか。

もう少し露出を増やせば注目度も上がりそうなモンだが、全然その気が無さそうで本当に不思議だ。






2025年7月14日月曜日

ドス











 

【今週の一枚】














Annahstasia - Tether [Drink Sum Wtr 2025]

AnnahstasiaことAnnahstasia Enukeによるデビュー・アルバム。

アート系インディーレーベルDrink Sum Wtrよりリリースされた。

学生時代にその才能を見出され、初めてのレコード契約に結び付けるも、その環境は彼女の望んでいたものではなかったようで、その後インディペンデントな活動を続け、今作の発表に漕ぎつけた模様。

何の前情報もなく聴き始めたワケだが、その歌声には本当に驚かされた。

豪州のGrace Cummingsなんかもそうだけど、実に迫力ある低音ハスキー・ボイスは彼女のアーティストとしての特徴を際立たせていると思う。

知らずに聴いたら殆どのヒトが男が歌っていると思うのではないだろうか。

所謂ドスの効いた、凄みのある声で歌われる優美な楽曲の数々はインパクト十分と言える。

多くの楽曲は抑制的なアレンジのギター・フォークで、アカペラで歌われたとしても十分聴きごたえがあると思える。

LAのValentine Studiosで制作は進められ、Obongjayarやaja monetといった面々がゲスト参加している。

オープニング・トラックの「Be Kind」やM4「Take Care of Me」、M7「Overflow」といった佳曲が次々と奏でられているが、壮大なエンディグ曲「Believer」も素晴らしい。

今後の活躍に大いに期待したいアーティストの登場だ。





2025年7月7日月曜日

復活























 【今週の一枚】














Star Matriarch - Red Ship [Exotic Fever Records 2025]

2011年にリリースされたCarol Buiの3rdアルバム「Red Ship」には当時非常に強く感銘を受けて愛聴していたものだったが、その後音楽活動をしている風もなく、SNSも自身のベリー・ダンスの動画などがUPされていたり、Star Matriarchに改名したりとなんだか迷走気味に見え、ミュージシャンは引退したのかとさえ思っていたくらいだった。

ところが十数年の時を経て突如アルバムを発表、それも3rdアルバムと同名の作品だったので本当に驚かされた。

今作は2011年版の「Red Ship」に収録されたいた楽曲の再録に加え、新曲を数曲、ベトナムの反戦シンガー Trinh Cong Son「Xin Cho Tôi」のカバーで構成されている。

ベトナム戦争の難民の両親の下に生まれワシントン州Tacomaで育った彼女はハードコアやライオット・ガールのムーブメントに強い影響を受け自らソング・ライティングを手掛けるようになった模様。

ソニック・ユースのサーストン・ムーアがダイナソーJRのJ・マスシスの事を「彼はドラマー出身だからそのギタープレイのリズムの組立てが独創的なんだ」と評したというエピソードがスキなんだけれど、このStar Matriarchも自らドラムを叩き、大胆かつ荒々しいギター・サウンドを展開してくれている。

3年の年月をかけて作りこまれた復活作、大いに歓迎したい気持ちでいっぱいになった次第だ。



2025年6月30日月曜日

大器














 

【今週の一枚】














kmoe - K1 [deadAir 2025]

これまた大器が現れた。

kmoeはVancouverを拠点に活動するKale Itkonenによるソロ・プロジェクトで今作がデビュー・アルバム。

2001年生まれの彼、ティーンエイジャーの頃からSoundCloud上に音源をUPし注目を集め、インディー・レーベルdeadairとの契約を交わし、今回の作品のリリースに漕ぎつけた模様。

初期の頃はかなり電子音楽に傾倒した作風だったようだが、オルタナティブな轟音ギター・サウンドが実に鮮烈な印象を与えてくれる。

彼のbandcampのキーワードにはdigicore、hyperpop、indietronicaといった単語が羅列されており、かなり自覚的にそういった要素を作品作りに取り込んでいるのだろう。

またメロディ・メイカーとしての力量もかなりのもので、80年代NWのバンドを彷彿とさせるその歌声と相俟って聴きごたえは十分過ぎる程だ。

ちなみに彼のInstagramのフォロワーにはiglooghostやbrakenceが名を連ねており、若き才能の共振ぶりに思わず頬が緩んでしまう。








2025年6月16日月曜日

願い

 











【今週の一枚】













CocoRosie - Little Death Wishes [Joyful Noise 2025]

BiancaとSierraのCasady姉妹によるデュオCocoRosieによる5年ぶりの8thアルバム。

衝撃のデビュー作「La maison de mon rêve」がリリースされたのが2004年の事だから、もうあれから二十年以上の時間が経過したのかと思うと実に感慨深い。

Touch and GoやSub Pop、City Slangと数々の名門インディー・レーベルを渡り歩いてきた彼女たちだが、今作はJoyful Noiseへの移籍第一弾となった。

流石にもう度肝を抜かれるような類のサウンドとは言えないものの、一定のクオリティはしっかり担保されている。

そういう意味では彼女達にはエイミー・マンとかイールズみたいに駄作を出すことなく安定して長い活動を期待したいトコロだ。

9曲目の「Girl In Town」には隠遁気味だったChance the Rapperがフィーチャーされているのも注目に値する。

先行シングルの2曲目の「Cut Stitch Scar」のサウンド・メイキングには新機軸を感じさせられた。

もう長い事来日はしていないけれど、久々に来てくれんかなあ。