2025年6月16日月曜日

願い

 











【今週の一枚】













CocoRosie - Little Death Wishes [Joyful Noise 2025]

BiancaとSierraのCasady姉妹によるデュオCocoRosieによる5年ぶりの8thアルバム。

衝撃のデビュー作「La maison de mon rêve」がリリースされたのが2004年の事だから、もうあれから二十年以上の時間が経過したのかと思うと実に感慨深い。

Touch and GoやSub Pop、City Slangと数々の名門インディー・レーベルを渡り歩いてきた彼女たちだが、今作はJoyful Noiseへの移籍第一弾となった。

流石にもう度肝を抜かれるような類のサウンドとは言えないものの、一定のクオリティはしっかり担保されている。

そういう意味では彼女達にはエイミー・マンとかイールズみたいに駄作を出すことなく安定して長い活動を期待したいトコロだ。

9曲目の「Girl In Town」には隠遁気味だったChance the Rapperがフィーチャーされているのも注目に値する。

先行シングルの2曲目の「Cut Stitch Scar」のサウンド・メイキングには新機軸を感じさせられた。

もう長い事来日はしていないけれど、久々に来てくれんかなあ。






2025年6月9日月曜日

奇天烈











 

【今週の一枚】













rusowsky - DAISY [Rusia IDK 2025]

スペインMadridを拠点に活動するアーティストRusowskyによる1stアルバム。

20代半ばとまだ若いが、2019年ごろから作品を発表し続けており、満を持して今作の完成に漕ぎつけた模様。

その奇抜なファッション・センスからキワモノ的な音楽性を連想してしまいそうになるが、音楽教師をしていたという母親の影響もあって幼少のころから正統派の音楽教育を受けていたそうだ。

なんともカテゴライズし難いサウンドだが、メロディ・メイカーとしての力量はかなりのもので、名だたるポップ職人の系譜に名を連ねるにふさわしい才能の様に感じられた。

基本スペイン語で歌われる曲が主体だが英語詞の曲も幾つかあって、全然違和感を感じさせないのも好感が持てた。

新たな異形の才能の登場に心躍らされる思いである。

2025年6月2日月曜日










 

【今週の一枚】














sunnbrella - gutter angel [Music Website 2025]

ロンドンを拠点に活動するDavid Zbirkaによるプロジェクトsunnbrellaの二年ぶりのセカンド・アルバム。

1st「Heartworn」もインパクトが強かったが今作では更にスケール・アップしている印象。

90年代初頭にシューゲイザー旋風が巻き起こり、次々とバンドが登場していた頃をリアル・タイムで経験したが当時はこのムーブメントは一過性のものだろうな、なんて思っていたものだが、なんのなんの。

シュゲイザーのエッセンスは今もなお多くのバンドに継承されているし、正にこのsunnbrellaはその典型とも言うべき存在のように思える。

昨今のハイパー・ポップの文脈でも語れそうだし、インダストリアル・ミュージックの影響も感じられ、リズムの組み立て方はレイブミュージックからの影響も色濃いと言えるだろう。

自身のヴォーカリゼイションも圧倒的だが、幾つかの曲でリード・ヴォーカルを務めたClaire Pengの歌唱も実に可憐で、MBVのビリンダ・ブッチャーやSlowdiveのRachel Goswellなんかを彷彿させるとか言ったら褒め過ぎだろうか。

しかし前作のトキもそうだったけど、今回のアルバムもこんな充実作なのに全然話題になっていない気がして不思議で仕方がない。






2025年5月26日月曜日

稀有










 

【今週の一枚】














Duval Timothy - wishful thinking [Carrying Colour Records 2025]

サウス・ロンドンと西アフリカ・シエラレオネをまたにかけて活動する奇才ピアニストDuval Timothyによる三年ぶりの新作アルバム。

自ら主宰するアパレル&ライフスタイルブランドにしてレコード・レーベルCarrying Colourよりリリースされた。

Solange、Kendrick Lamarといったビッグ・ネームとのコラボレーションでも名高い彼だが、誰にも媚びない唯我独尊とも言うべき孤高の音楽性を追求しており、刮目に値すると言えるのではないだろうか。

ピアノを主体としたポスト・クラシカルと形容出来そうな音楽だが、ジャズのようでもあるし、ゴスペルの要素やヒップ・ホップ的なアプローチも垣間見えて一筋縄ではいかない音楽性を称えている。

彼の創作活動は音楽のみならず、絵画やデザイン、写真なども手掛けており、正に真正の「アーティスト」と呼ぶにふさわしい。

坂本龍一の魂を引き継ぐ後継者の名にふさわしい稀有の才能の様に思えてならない。







2025年5月19日月曜日

ミステリアス











 

【今週の一枚】














Billy Woods - Golliwog [Backwoodz Studioz 2025]

ワシントンDC生まれでNYを拠点に活動するラッパーBilly Woodsによる2年ぶりの新作アルバム。

ソロ名義では9作目だが、Armand HammerやSuper Chron Flight Brothers、The Reaversといったグループのメンバーとしての活動やKenny SegalやMessiah Musik、Moor Mother等とのコラボ作など、20年を超えるキャリアのなかで驚くほどに多数の作品をリリースしている。

アブストラクト・ヒップホップ、アンダーグラウンド・ヒップホップなどとカテゴライズされる彼の音楽だが、百花繚乱ともいうべきヒップホップ・シーンにおいても特に異彩を放っているように思える。

ホラー映画のサウンドトラック作のような側面を持ちつつ、どこかユーモラスでもあり、流麗なメロディも散りばめられていて実にミステリアスな音楽だ。

今作は自らが主宰するBackwoodz Studiozレーベルからのリリースで、数々のコラボレーターを迎えBilly本人がExecutive Producerを務めている。

5曲目の「Waterproof Mascara」では唐突に日本語のサンプリングが絡められており驚かされたが、これは1997年の映画「CURE」の台詞を採用している模様。

楽曲単位でいうと「Corinthians」や「Lead Paint Test」あたりに特に感銘を受けた次第。

ところでBilly Woodsはステージ・ネームで彼は本名を明かしておらず、宣材写真でも一貫して顔を隠しているというのだから徹底している。







2025年5月12日月曜日

サーカスの










 

【今週の一枚】













Beirut - A Study of Losses [Pompeii 2025]

ニューメキシコ州サンタフェ出身のマルチ・インストゥルメンタリストZach CondonのプロジェクトBeirutの2年ぶりの7thアルバム。

2006年の1st「Gulag Orkestar」の鮮烈なデビューからもう20年近くの時間が経過した事を思うと感慨深いし、今もなお精力的な活動を続けてくれているのは嬉しい限りだ。

今回の作品はスウェーデンの現代サーカス・カンパニーKompani Giraffの新作公演のために描き下ろされたものだそう。

全18曲一時間ちかい大作に仕上げられており、Zachの本気度が伝わってくる。

バルカン・フォークの影響色濃い彼の音楽だが、古いモジュラーシンセも用いて独特な癇癪のサウンド・メイキングに成功している。

何曲かのインスト作も収録されているが、全編にわたって朗々と歌い上げられており、彼の声を堪能出来るのも魅力だ。

今作のリリースを受けてBeirutは今月欧州ツアーを敢行、ユトレヒト、ブリュッセル、ロンドンで公演を行う模様。






2025年5月2日金曜日

ひとり

















 【今週の一枚】














Quickly, quickly - I Heard That Noise [Ghostly International 2025]

オレゴン州ポートランドの若き俊英Graham Jonsonによるソロ・プロジェクト、quickly, quicklyの4年ぶりのセカンド・アルバム。

前作に引き続きGhostly Internationalからリリースされた。

自宅の地下スタジオKenton Soundでレコーディングが行われ、全ての楽器の演奏、ミキシング、プロデュースをたった一人で行った完全なるDIYアルバム。

前作ではローファイ・ビートを駆使したサウンド・メイキングが注目を集めたが、今作はノイズやサウンド・エフェクトをちりばめつつもメロディを強調した作風となっている。

現在25歳の彼だが、ビートルズのサイケデリックな魅力の虜になっていたようで、特に「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」がお気に入りなのだとか。

今回のアルバムを聴いていると「Tomorrow Never Knows」なんかにも相当影響を受けているように感じられる。

コンセプチュアルなアルバム作りを目指して制作されたそうだが、圧巻はラスト・トラックの「You Are」だ。

牧歌的なアンビエント・フォークで始まるこのトラック、作品の終盤にかけて壮大な轟音ノイズに覆われていく様には聴く度に圧倒されてしまう。

コレ、たった一人で作っているんだよなあ。