2024年7月29日月曜日

ちひろ










 

【今週の一枚】













Billie Eilish - Hit Me Hard and Soft [Interscope 2024]

なんとさりげなくも自然体な作品なのだろうか。

Billie Eilishの3年ぶりとなる3rdアルバムを最初に聴いた印象はそんな感じだった。

2019年の1stアルバムで一気にスターダムを駆け上がり、今や押しも押されぬスーパースターとなった彼女だが、この作品でもデビュー前に兄のFINNEASと二人でベッドルームで音楽を作っていた頃のような佇まいをそのまま残しているかのようである。

オープニングの「SKINNY」のアルペジオに彼女の声が被さってくる瞬間に心地よい震えを感じてしまうが続く「LUNCH」もクールだ。

映画「千と千尋の神隠し」にインスパイアされたという「CHIHIRO」を挟んで、これぞキラー・チューンというべき「BIRDS OF A FEATHER」に連なっていくのは今作のハイライトと言えるだろう。

今作の中で異彩を放っているのは7曲目の「L'AMOUR DE MA VIE」で曲の前半は彼女特有の憂いを帯びた哀愁のバラード調なのだが突如疾走系のエレポ・トラックに変貌する。

こういう遊びゴコロも悪くないと思えた。

それにしても2001年生まれでまだ23歳にして堂々たる貫禄で、彼女の快進撃はまだまだ続きそうだ。







2024年7月22日月曜日
















【今週の一枚】













Kiasmos - II [Erased Tapes 2024]

ポスト・クラシカル界の重鎮Ólafur Arnaldsとエレクトロポップ・バンドBloodgroupのマンバーJanus RasmussenによるデュオKiasmosによる10年ぶりの2ndアルバム。

この間、2015年には「Looped」と「Swept」の2枚のEPを発表、2017年にEP「Blurred」をリリースしているが、それから既に7年が経過しており、久々の音源に心躍らされる。

今作は2020年から2021年にかけてバリ島のÓlafur所有のスタジオで制作されたようで、ガムランなどバリの伝統的打楽器やJanusによるフィールド・レコーディングもサンプリングしているそう。

ミニマル・テクノの無機質なビートに乗って流麗なメロディが奏でられていくさまは、本当に美しいと感じられるが、なかでもM4「Laced」とM10「Dazed」のクオリティが突出しているように感じられた。

メンバー二人がシンセサイザーとエレクトロニクスを駆使して作り上げられたサウンドに加え、Ólafurがオーケストラル・アレンジメントを施したストリングス・カルテットも全面的に導入されている。

ミキシングはStyrmir Hauksson、マスタリングはZino Mikoreyが担当しており、Studio Torsten Posseltによって手掛けられたアートワークも素晴らしい。

そんなワケで10月のリキッド・ルーム公演のチケット、獲れたどー!





2024年7月16日火曜日

情趣











 

【今週の一枚】













Claire Rousay - Sentiment [Thrill Jockey 2024]

カナダ生まれでテキサスで育ち、現在はLAを拠点に活動する実験音楽家Claire Rousayによる3年ぶりの4thアルバム。

もとはパーカッショニストとして活動していた彼女だがフィール・レコーディングを駆使したエクスペリメンタル・ミュージックに傾倒していったようだ。

セオドアという友人男性のポエトリー・リーディングで幕を開ける今作、この楽曲と4曲のインストゥルメンタル曲を除いて彼女自身とゲスト参加したLala Lala、Hand Habitsのヴォーカル全てにオート・チューンのエフェクトが施されている。

簡素なアレンジの幽玄フォークが並ぶが、このヴォイス・エフェクトが作品全体に独特で特異なムードをもたらしていて、非常に中毒性が高い。

自らの音楽を「Emo Ambient」と表現していたという彼女、90年代のエモやスロウコアからの多大なる影響を公言しつつも、確固たるオリジナリティを獲得していると言えるだろう。

今回の作品を制作するにあたり、楽曲の寄せ集めではなくアルバム全体として一つのアートに昇華させようとしたのだとか。

サウンド・コラージュやミニマル・ドローン、ポスト・クラシカルなどの手法が随所に散りばめられつつも一枚のアルバムとしての統一感が保たれており、その手腕は実に見事だと思えた。

佳曲揃いの本作にあって3曲目「it could be anything」には特に感銘を受けた次第。



2024年7月8日月曜日

 











【今週の一枚】













Mk.gee - Two Star & The Dream Police [R&R 2024]

Mk.gee(マッギー)はニュージャージー出身で現在LAを拠点に活動するMichael Todd Gordonのステージネームであり、今作が1stアルバム。

幼少からピアノを習っていたようだが、ギタリストとして頭角を現した。

スタジオ・ミュージシャンを志してLAに移り住んだようだが、宅録の世界に魅入られて拘りまくった音作りに邁進していったらしい。

その独特なサウンド・スケープは変態AORとでもいうべき格別なもので、Sean Nicholas SavageやRyan Powerなんかも想起させられたが、ひときわ異彩を放っていると思う。

活動初期にFrank Oceanにその才能を見出され、彼のラジオ番組「blonded」で紹介された事で大きな注目を集めたようだ。

またDijonの2021年のアルバム「Absolutely」にギタリストで参加したこともアーティストとして大きく開花するきっかけとなった模様。

それにしても今作、いかにもギタリストが作りました、みたいな雰囲気は微塵も感じさせず、このサウンド、どうやって鳴らしているんだろう、と不思議になってしまうような音が満載である。

革新性の塊のような作品であると断言出来るし、今後の活動ぶりにも大いに期待したいミュージシャンだ。







2024年7月2日火曜日

サプライズ















 【今週の一枚】













Salvia Palth - Last Chance To See [Danger Collective 2024]

Salvia PalthはニュージーランドのDaniel Johannによるプロジェクトで、今作が11年ぶりの2ndアルバム。

2013年のデビュー作「Melanchole」は彼が弱冠15歳にして録音した音源で当初Bandcampで発表され、大いに話題を呼んだ模様。

その後Adore, 1996なる名義で活動、作品もリリースしたようだが、7年の歳月をかけて今作を完成に漕ぎつけ、今回のサプライズ・リリースとなったようだ。

ドラマーとしてSamuel Austinの名前がクレジットされているが、その他の全ての楽器の演奏はDaniel Johann自身によって手掛けられている。

そのDIY的なスタイルからベッドルーム・ポップという形容が為される事が多いようだが、広義のエモの括りでも違和感は無いし、実に良質なインディー・ローファイ・ロックだと思う。

Neutral Milk Hotelの名前が引き合いにだされたりしているようだが、初期Death Cab for CutieやRocketship、インディー期のThe Flaming Lipsあたりも想起させられた。

いずれにしてもドリーム・ポップの名盤の系譜にその名を刻む作品だと思う。