2025年9月29日月曜日

スムース













 

【今週の一枚】














Loyle Carner - hopefully ! [Virgin EMI 2025]

2023年の前作「Hugo」で大きな商業的成功を収め、有力レビューサイトや音楽誌の称賛を集めたLoyle Carner、2年ぶりの4thアルバム。

恵比寿ガーデンホールで初めて観る事が出来た彼のパフォーマンスは本当に感動的であった。

所謂まくしたて系のフロウとは対極にある彼のラップ・スタイルはより一層抑制的なものとなったおり。スムース・ホップ、メランコリック・ラップとでもいうべき独自のサウンドスケープを構築している。

なかでもタイトル・トラックのM8「hopefully」やM6「horcrux」に顕著なのだが、躍動感あふれるビートに乗って紡がれる彼のラップは途轍もなくクールでありつつ「低温なのにアツい」。

今作にも豪華なゲスト陣が名を連ねているが、なかでもNick Haimの客演に反応させられた。

そろそろ自身のアルバムにも期待したいトコロである。






2025年9月22日月曜日

Killer














 【今週の一枚】














Dijon - Baby [R&R 2025]

ボルチモアのシンガーソングライターにしてプロデューサーDijonによる4年ぶりのセカンド・アルバム。

気鋭のギタリストMk.geeことマイケル・ゴードンとのコラボレーションなどを通じ音楽通の間でカルト的な人気を誇っていた彼だが、ここに来て一気にメインストリームで注目を集める存在となった。

今年はBon Iverのアルバム「Sable, Fable」にフィーチャー、Justin Bieberのアルバム「SWAG」では楽曲提供や客演を果たすなど、正に旬のアーティストと言えるだろう。

この作品は所謂「キラートラック」が無いにも関わらず、何時までも聴いていたくなるような、一枚のアルバムとして不思議な魅力を放ち、このうえない完成度を誇っている「キラーアルバム」だ。

奇しくも同郷のNourished By Timeが自らの音楽を「ポストR&B」と形容したが、このDijonの奏でる音楽もこれまでのR&Bから逸脱したものと言えるだろう。

Prince、Frank OceanやD’Angeloといった偉大な先達の名前が引き合いに出されているのも彼の音楽のオリジナリティの証左とは言えまいか。

彼の活動は音楽のみにとどまらず、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「One Battle After Another」でレオナルド・ディカプリオと共演しているというのだから驚かされる。

これからも彼の溢れんばかりの才能が様々なフィールドで開花し続けると思うと実に楽しみだ。








2025年9月16日火曜日

粘土











 

【今週の一枚】














Gordi - Like Plasticine [Mushroom Music 2025]

豪州メルボルンを拠点に活動するGordiことSophie Paytenによる5年ぶりの3rdアルバム。

デビュー作および2ndはJagjaguwarレーベルからリリースしていた彼女、今作が本国Mushroom Musicレーベルへの移籍第一弾となった。

医師としての資格も持つ異色のアーティストである彼女だが1stアルバムのリリース前に勤務先の病院は退職していたが、コロナ禍のなかオンコール・ドクターとしての活動を再開、基本自宅で待機しつつ要請があれば出勤するという生活を送っていた模様。

フォークトロニカ、インディー・ポップにカテゴライズされる彼女の音楽だけれど、深遠で幽玄さを感じさせつつもダイナミックなスケール感も併せ持った独特のサウンド・スケープを展開しており今作においてもそういった側面は健在と言えるだろう。

S. Careyとの交流で名高いGordi、彼女の才能を高く評価するアーティストは少なくなく、これまでもBon IverやThe Tallest Man on Earth等とツアーを共にしている。

今作でも5曲目の「Lunch At Dune」ではアイルランドの俊英SOAKをフィーチャー、感動的なコラボレーションとなっている。





2025年9月8日月曜日

古巣














 【今週の一枚】














Cass McCombs - Interior Live Oak [Domino 2025]

Cass McCombsがANTI-レーベルから出した2枚のアルバム「Tip of the Sphere (2019年)」と「Heartmind (2022年)」にはとても思い入れがあって、当時愛聴しまくったワケだけど、昨年初期の未発表曲集「Seed Cake On Leap Year」を古巣Dominoからリリースしたのに続いて新作「Interior Live Oak」をリリースした。
全16曲で収録時間1時間14分という大作で、フィジカル版はダブル・アルバムの仕様となっている模様。
その内容は今回も充実しまくっており、2枚に分けてリリースしてもおかしくないように思えるが、多作な彼の事来年くらいにまた新作をドロップしてくれるような気もする。
今作の制作にあたってはベイエリアでは初期のコラボレーターJason Quever(Papercuts)やChris Cohen等が参加、NYではMatt SweeneyやMike Bonesといった面々がその名を連ねている。
アメリカーナ、フォークロックに類される彼の音楽、弛緩しているようで一定のテンション、緊張感が保たれており、聴いていて実に心地よい。
RHPのMark KozelekやSongs OhiaのJason Molinaなんかに比べるとその音楽的アプローチは伝統的で正統派のそれと言えるだろうが強烈な個性の持ち主なのは間違いないと言えるのではないだろうか。





2025年9月1日月曜日

ポスト
















 【今週の一枚】














Nourished By Time - The Passionate Ones [XL Recordings 2025]

Nourished By Timeは米国人SSWにしてレコード・プロデューサーMarcus Brownによるソロ・プロジェクト。

メリーランド州ボルチモアに生まれ現在はロンドンを拠点に活動する彼、今作が2ndアルバムでXL Recordings移籍第一弾となった。

レコーディングはボルチモア、ロンドン、ニューヨークで行われセルフ・プロデュースで完成された。

自らの音楽を「ポストR&B」と形容する彼だが、確かにR&Bでありながらもどこか異質な感じがするのは間違いない。

リズム処理が所謂王道ブラック・ミュージックのそれではないというか、往年のニューウェーブの影響を色濃く感じるのだ。

実際にScritti PolittiやThe Blue Nileなんかが引き合いに出される事も少なくないようで、個人的にはThe Blow MonkeysのDr.Robertを想起させられた。

プリンス、フランク・オーシャン、ソランジュらへのリスペクトを公言しているようで、確かにどのアーティストも良い意味で「逸脱した」音楽を生み出している。

リード・シングル「Max Potential」や「9 2 5」も素晴らしいが、ラスト2曲「When The War Is Over」から「 The Passionate Ones」への流れが生み出すカタルシスは格別のものと言えるのではないだろうか。

彼の関心は音楽だけに留まらず、写真、映像、パフォーマンスアートなどにも広がりを見せているようで今後の幅広い分野での活躍に期待したい。