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【今日の一枚】
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Other Lives - Tamer Animals [TBD records 2011]
タイムレスな、魅力。
【今日の一冊】
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井口 俊英 - 告白 [文春文庫]
「…まるで太平洋で小便をしているようなもんだな」
さすがに私も自分の無力と得体の知れないブラックホールのような相場に意気消沈してしまった。同時にすでに27億ドルにもなってしまった空売りポジションが重くのしかかって唖然としてしまった。
我々が無駄な売りを止めて暫くすると、相場はまたじりじりと上がりだした。
「余りにも思惑的だ。うちのショートが完全にバレているんですよ」
心配そうな表情で水島が言った。
「そうだろうな。ということは、我々が買い戻すまでは下げないということか…」
絶望的な敗北感が三人を包んだ。
その日は三人で夕食をしたが、打ちひしがれて気息奄々、ほとんど誰も口をきく気力もなかった。ただ高杉が片手を拡げて「これだけやらんと勝てんわ」と言ったのには、私自身も考えていなかったことなので愕然とすると同時に恐ろしくなった。
外観は大胆に見えても極めて繊細な神経を有する高杉がそんなことを考えるほど、この相場は我々を無節操にしてしまっていた。
片手、即ち50憶ドル(7千億円:当時)という金額がどういうものか、冷静に考えられなくなっていた。
…それこそ生きた心地がしなかったでしょうなあ。