2025年11月17日月曜日

ひかり











 【今週の一枚】














Rosalía - LUX [Columbia 2025]

もし今年発表されたアルバムで自分が聴いたなかで一枚だけ挙げるとしたら間違いなくこの作品を選ぶ、そう確信させられた。

バルセロナの歌姫Rosalíaの3年ぶりの4thアルバム。

前作「MOTOMAMI」がかなり攻めた内容だったのに比して今回はかなりオーセンティックな路線に回帰している印象(とはいえ十分攻めているとも言えるが)。

先行リリースされた「Berghain」を聴いてその壮大なオーケストレーションを施したアレンジに度肝を抜かれ、大いに期待していた今作、その期待を遥かに超えていた、というのが正直な感想だ。

アート・ポップ、クラシカル・クロスオーバー、フラメンコ・ポップ、オーケストラル・ポップと様々な形でカテゴライズされる彼女の音楽だが、今回の作品はそれらの音楽的要素が絶妙な統一感を持って一枚の芸術作品に昇華されている。

既にグラミー賞を受賞し、これまでの活動で世界的な名声を獲得している彼女、この「LUX」で創造性の高みに達し、ケイト・ブッシュやビヨーク(今作にゲスト参加)の系譜に連なる、歴史にその名を刻む女性アーティストである事を証明したとは言えまいか。

所謂捨て曲はひとつもない今作にあっても2曲目の「Reliquia」には特に感銘を受けた次第。

因みにタイトルの「LUX」はラテン語で光を意味するんだそう。








2025年11月10日月曜日

Anaïs Anaïs

 










【今週の一枚】














anaiis - Devotion & The Black Divine [5DB RECORDS 2025]

anaiis は、ロンドンを拠点とするフランス系セネガル人のシンガーソングライター。

アナイスという名前は英語圏で言うトコロのアンナであり、1980年にフランスでヒットしたAnaïs Anaïsという香水がきっかけで、仏国内でアナイスという名前を付ける親が相次いだんだそうな。

仏トゥールーズ生まれの彼女、幼少期からダブリン、ダカール、オークランド、ニューヨーク、そしてロンドンなど、様々な都市を転々とし、彼女はニューヨーク大学ティッシュ芸術学校で音楽を学んだ模様。

2018年にデビューEP「Before Zero」をリリースしたのち幾つかのシングルを発表、サウス・ロンドンのTOUCHING BASSからリリースされたデビュー作「This Is No Longer A Dream」に続きウェスト・ロンドンを拠点にする5DB RECORDSからニュー・アルバムを届けてくれた。

その音楽スタイルはかなりオーセンティックなR&B、ソウル・ミュージックの文脈にありつつもエクスペリメンタルな側面を兼ね備えており、クール極まりない風貌も併せて独特の存在感を放っている。

今年佳作アルバム「wishful thinking」を世に放ったDuval Timothyも彼女の才能を大いに評価しているとの事、これからも大いに飛躍を期待したい才能とは言えまいか。








2025年11月5日水曜日

一発

















 【今週の一枚】














crushed - no scope [Ghostly International 2025]

crushedはBre MorellとShaun Durkanによるデュオで今作が1stアルバム。

BreはTemple of Angelsのヴォーカリストとしても活動、ShaunはTopographiesやWeekendの元メンバーという経歴を持つ。

それぞれLAとポートランドに在住する二人、遠隔からリモートで作品作りを進めるという現代風のユニットだ。

ドリーム・ポップの括りで語られる事の多い彼等、トリップホップやブレイクビーツ、90年代オルタナティブの影響も色濃く感じさせる。

この作品に先立つEP「extra life」で大きな話題を呼んだcrushedはGhostly Internationalとの契約に漕ぎつけ、満を持して今作を完成させたとの事。

当初はセルフ・プロデュースで作品作りをしていた二人だが、Japanese BreakfastやWeyes Bloodの作品に携わったJorge Elbrechtを共同プロデューサー兼ミキサーに迎え今回のアルバムの制作が進められた模様。

カナダのStarsの往年の作品が想起させられもしたが、このcrushedはデュエットのスタイルは採らず楽曲毎にヴォーカルを分担しており比率的にはBreが歌う楽曲が多いのだけれど、Shaunのヴォーカルも冴え渡っている。

アルバムの終盤Shaunの歌うweaponxとBreによる「celadon」の2曲が今作のハイライトのように思えた。

それにしてもこういう最新技術を用いつつも、どこかノスタルジックなムードの音が今の時代の空気なのかな、と思わされたり。







2025年10月27日月曜日

証左











 

【今週の一枚】














Blood Orange - Essex Honey [RCA Records 2025]

Blood OrangeことDevonté Hynesによる7年ぶりの5thアルバム。

先行シングルとなった「The Field」にはCaroline Polachek、Daniel Caesar、 Tariq Al-Sabirに加えてなんとUKインディー界の伝説的存在The Durutti Columnことヴィニ・ライリーがフィーチャーされており驚かされた。

加えてM12「Scared Of It」にはBrendan Yatesと共にEBTGのBen Watt もその名を連ねており世代を超えて彼の音楽が支持を受けている証左とは言えまいか。

プロデュースとミックスは自身とMikaelin "Blue" Bluespruceの共同作業で進められ、マスタリングはHeba Kadryが手掛けた模様。

作品全体を通じてその洗練されたアレンジは見事としか言い様がないが、時折鳴らされる流麗なストリングスは実に感動的だ。

ラスト・トラック「I Can Go」には昨年傑作アルバムを発表したMustafaがゲスト・ヴォーカルとして参加、味わい深い歌唱を披露している。

それにしても今年はDijonやNourished By Time然りでポストR&Bの佳作が多い年だとまざまざと実感させられる。




2025年10月20日月曜日

虚栄心











 

【今週の一枚】














Malibu - Vanities [YEAR0001 2025]

仏人プロデューサーMalibuことBarbara Bracciniのデビューアルバム。

これが実に見事なアンビエント作品となっており、深海で鳴らされているかのようなドローン・ミュージックだ。

今年佳作アルバムをリリースした同じフランスのOklouとはツアーを共にする関係なのだとか。

今作は主にストックホルムで制作され、最終的にはロサンゼルスで完成に漕ぎつけた模様。

シューゲイザーの再評価の高まる昨今だが、90年代にはドリーム・ポップと呼ばれるカテゴリーのバンドが多数活躍しており、このMalibuもその系譜に連なるアーティストのように思える。

個々の楽曲のクオリティもさることながら、アルバム全体がひとつの芸術作品として圧倒的な完成度を誇っていると言えるのではなかろうか。





2025年10月14日火曜日









 

【今週の一枚】














Purity Ring - Purity Ring [The Fellowship 2025]

カナダのエレクトロニック・ポップ・デュオPurity Ringによる5年ぶりの4thアルバムはセル・タイトル作品となった。

コロナ禍の2022年にEP「Graves」を発表しているものの、多くのファンにとって待望の復活作だと言えるだろう。

今作はコンセプト・アルバムとなっており、架空のロール・プレイング・ゲームのサウンドトラックとして制作されており、「ゼルダの伝説」や「ファイナル・ファンタジー」などのゲームにインスパイアされているのだとか。

初期の頃からエレクトロ歌謡的なスタイルは一貫している彼等、今回のアルバムで完成の域に達したように感じられた。

Corin Roddickによるトラック・メイキングは全編にわたって冴え渡っているし、Megan Jamesによるヴォーカルはかつてないほどに魅力的だ。

オープニングの「Relict」からして掴みは最高過ぎるし、「Many Lives」「Part II」「Place of My Own」の怒涛のシングル3連発は圧巻の出来。

個人的にはM5「Red the Sunrise」やM12「Broken Well」といったトラックに深く感銘を受けた次第。

キャリア・ピークとなった今回の作品だが、これからの活動にも大いに期待したいトコロだ。







2025年10月6日月曜日

とんま

















 【今週の一枚】














Geese - Getting Killed [Partisan Records 2025]

GeeseはNYブルックリン出身の4人組ロックバンドで今作が4thアルバム。

来年で結成10年を迎えるという彼等、バンド名の由来はギタリストのEmily GreenのニックネームGoose(ダチョウ、スラングでとんま)の複数形との事。

ロック・バンドというフォーマットで産み出される音というにはもう既に出尽くしてしまったようにも思えるが、未だにこういうプリミティブでレアなサウンドに圧倒されてしまうことに驚きを覚えてしまう。

丁度30年前に渋谷のクアトロでG・ラヴ&スペシャル・ソースとザ・ジョン・スペンサー・ブルースエクスプロージョンとのスプリット公演を観た事があるのだけれど、その時ですら「いまこんな音を鳴らすのか」と思ったものなのに2025年のいまこのGeeseのむきだしのロックンロールに戦慄を憶えてしまう。

NYのアートロックの先達テレヴィジョンへの憧憬を公言する彼等だが、「メインストリートのならず者」期のローリング・ストーンズをも彷彿させる。

来年2月には代官山SPACE ODDで初来日公演が開催されるとの事だが、あのクラスのハコで見られるのは最初で最後になるのではなかろうか。








2025年9月29日月曜日

スムース













 

【今週の一枚】














Loyle Carner - hopefully ! [Virgin EMI 2025]

2023年の前作「Hugo」で大きな商業的成功を収め、有力レビューサイトや音楽誌の称賛を集めたLoyle Carner、2年ぶりの4thアルバム。

恵比寿ガーデンホールで初めて観る事が出来た彼のパフォーマンスは本当に感動的であった。

所謂まくしたて系のフロウとは対極にある彼のラップ・スタイルはより一層抑制的なものとなったおり。スムース・ホップ、メランコリック・ラップとでもいうべき独自のサウンドスケープを構築している。

なかでもタイトル・トラックのM8「hopefully」やM6「horcrux」に顕著なのだが、躍動感あふれるビートに乗って紡がれる彼のラップは途轍もなくクールでありつつ「低温なのにアツい」。

今作にも豪華なゲスト陣が名を連ねているが、なかでもNick Haimの客演に反応させられた。

そろそろ自身のアルバムにも期待したいトコロである。






2025年9月22日月曜日

Killer














 【今週の一枚】














Dijon - Baby [R&R 2025]

ボルチモアのシンガーソングライターにしてプロデューサーDijonによる4年ぶりのセカンド・アルバム。

気鋭のギタリストMk.geeことマイケル・ゴードンとのコラボレーションなどを通じ音楽通の間でカルト的な人気を誇っていた彼だが、ここに来て一気にメインストリームで注目を集める存在となった。

今年はBon Iverのアルバム「Sable, Fable」にフィーチャー、Justin Bieberのアルバム「SWAG」では楽曲提供や客演を果たすなど、正に旬のアーティストと言えるだろう。

この作品は所謂「キラートラック」が無いにも関わらず、何時までも聴いていたくなるような、一枚のアルバムとして不思議な魅力を放ち、このうえない完成度を誇っている「キラーアルバム」だ。

奇しくも同郷のNourished By Timeが自らの音楽を「ポストR&B」と形容したが、このDijonの奏でる音楽もこれまでのR&Bから逸脱したものと言えるだろう。

Prince、Frank OceanやD’Angeloといった偉大な先達の名前が引き合いに出されているのも彼の音楽のオリジナリティの証左とは言えまいか。

彼の活動は音楽のみにとどまらず、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「One Battle After Another」でレオナルド・ディカプリオと共演しているというのだから驚かされる。

これからも彼の溢れんばかりの才能が様々なフィールドで開花し続けると思うと実に楽しみだ。








2025年9月16日火曜日

粘土











 

【今週の一枚】














Gordi - Like Plasticine [Mushroom Music 2025]

豪州メルボルンを拠点に活動するGordiことSophie Paytenによる5年ぶりの3rdアルバム。

デビュー作および2ndはJagjaguwarレーベルからリリースしていた彼女、今作が本国Mushroom Musicレーベルへの移籍第一弾となった。

医師としての資格も持つ異色のアーティストである彼女だが1stアルバムのリリース前に勤務先の病院は退職していたが、コロナ禍のなかオンコール・ドクターとしての活動を再開、基本自宅で待機しつつ要請があれば出勤するという生活を送っていた模様。

フォークトロニカ、インディー・ポップにカテゴライズされる彼女の音楽だけれど、深遠で幽玄さを感じさせつつもダイナミックなスケール感も併せ持った独特のサウンド・スケープを展開しており今作においてもそういった側面は健在と言えるだろう。

S. Careyとの交流で名高いGordi、彼女の才能を高く評価するアーティストは少なくなく、これまでもBon IverやThe Tallest Man on Earth等とツアーを共にしている。

今作でも5曲目の「Lunch At Dune」ではアイルランドの俊英SOAKをフィーチャー、感動的なコラボレーションとなっている。





2025年9月8日月曜日

古巣














 【今週の一枚】














Cass McCombs - Interior Live Oak [Domino 2025]

Cass McCombsがANTI-レーベルから出した2枚のアルバム「Tip of the Sphere (2019年)」と「Heartmind (2022年)」にはとても思い入れがあって、当時愛聴しまくったワケだけど、昨年初期の未発表曲集「Seed Cake On Leap Year」を古巣Dominoからリリースしたのに続いて新作「Interior Live Oak」をリリースした。
全16曲で収録時間1時間14分という大作で、フィジカル版はダブル・アルバムの仕様となっている模様。
その内容は今回も充実しまくっており、2枚に分けてリリースしてもおかしくないように思えるが、多作な彼の事来年くらいにまた新作をドロップしてくれるような気もする。
今作の制作にあたってはベイエリアでは初期のコラボレーターJason Quever(Papercuts)やChris Cohen等が参加、NYではMatt SweeneyやMike Bonesといった面々がその名を連ねている。
アメリカーナ、フォークロックに類される彼の音楽、弛緩しているようで一定のテンション、緊張感が保たれており、聴いていて実に心地よい。
RHPのMark KozelekやSongs OhiaのJason Molinaなんかに比べるとその音楽的アプローチは伝統的で正統派のそれと言えるだろうが強烈な個性の持ち主なのは間違いないと言えるのではないだろうか。





2025年9月1日月曜日

ポスト
















 【今週の一枚】














Nourished By Time - The Passionate Ones [XL Recordings 2025]

Nourished By Timeは米国人SSWにしてレコード・プロデューサーMarcus Brownによるソロ・プロジェクト。

メリーランド州ボルチモアに生まれ現在はロンドンを拠点に活動する彼、今作が2ndアルバムでXL Recordings移籍第一弾となった。

レコーディングはボルチモア、ロンドン、ニューヨークで行われセルフ・プロデュースで完成された。

自らの音楽を「ポストR&B」と形容する彼だが、確かにR&Bでありながらもどこか異質な感じがするのは間違いない。

リズム処理が所謂王道ブラック・ミュージックのそれではないというか、往年のニューウェーブの影響を色濃く感じるのだ。

実際にScritti PolittiやThe Blue Nileなんかが引き合いに出される事も少なくないようで、個人的にはThe Blow MonkeysのDr.Robertを想起させられた。

プリンス、フランク・オーシャン、ソランジュらへのリスペクトを公言しているようで、確かにどのアーティストも良い意味で「逸脱した」音楽を生み出している。

リード・シングル「Max Potential」や「9 2 5」も素晴らしいが、ラスト2曲「When The War Is Over」から「 The Passionate Ones」への流れが生み出すカタルシスは格別のものと言えるのではないだろうか。

彼の関心は音楽だけに留まらず、写真、映像、パフォーマンスアートなどにも広がりを見せているようで今後の幅広い分野での活躍に期待したい。



2025年8月25日月曜日

旗手










 

【今週の一枚】














Ninajirachi - I Love My Computer [NLV Records 2025]

Ninajirachiは豪州人プロデューサーNina Wilsonによるプロジェクトで今作がデビュー・アルバム。

ポケモンのキャラクター「ジラーチ」にちなんで名付けられたそうで、幼少の頃から慣れ親しんだ日本のゲーム音楽から多大なインスピレーションを受けているそうだ。

シドニー近郊の自然豊かな環境で生まれ育ったという彼女、12歳の時にエレクトロニック・ミュージックに目覚め、以来徹底的にコンピューターに拘って音楽に向き合ってきたのだとか。

「私の音楽は全てコンピューターミュージック」と嘯くNinaだが、girl EDMの旗手として注目を集め、満を持して今作のリリースに漕ぎ付けた模様。

その才能は数々のアーティストの注目を集め、既にCharli XCXやPorter Robinsonのオープニング・アクトを務めた経験もあるのだそう。

不思議な質感のサウンドと独特のヴォイス・エフェクトが印象的な「CSIRAC」や叙情的なメロディが印象的な「Sing Good」には特に感銘を受けた。

「ฅ^•ﻌ•^ฅ」は最初「???」と思ったが、「Cat Interlude」を意味するようで、そういう遊びゴコロも微笑ましい。
今作リリース後一週間の都市別ダウンロード数は東京が一位だったそうで、本人も喜びのツイートをしている。
日本のカルチャーに多大な影響を受けて育ったオーストラリア人の電子音楽が日本で反響を呼んでいる現象はとても興味深い。





2025年8月18日月曜日











 

【今週の一枚】














yeule - Evangelic Girl is a Gun [Ninja Tune 2025]

グリッチ・プリンセスの異名で称されるシンガポール出身のNat Ćmielによるプロジェクト

yeuleの2年ぶりの4thアルバム。

アルバムのアートワークからしてかなり攻めまくっている印象が強いが、実際の音には良い意味で裏切られた。

実にフツーのガーリー・ポップなのだ。

元デイジー・チェインソウのケイティ・ジェーン・ガーサイドみたいなブッ飛びっぷりを想像しつつ聴き進めたところ、曲によっては往年のセイント・エティエンヌを彷彿とさせていたり、最近でいうとデジタル寄りのビーバドゥービーみたいな雰囲気も感じさせてくれる。

プロデューサーにはA. G. Cook、Mura Masaといった面々が名を連ねているが、彼女の持つポップな才能を上手く引き出していると言えるのでは。

音楽サイトの批評はあまり芳しくないものが多いように思えたが、コレはコレで十分アリなんではなかろうか。

6曲目の「Dudu」なんぞはメジャー・チャートを席捲してもオカしくないクオリティの高さだと思う。

意外と次作ではまたブッ飛びまくった作風だったりするのかも知れないけど。





2025年8月5日火曜日

人肌











 

【今週の一枚】













Rival Consoles - Landscape From Memory [Erased Tapes 2025]

エレクトロニック・アーティストにしてプロデューサーRyan Lee WestによるプロジェクトRival Consolesによる3年ぶりの9thアルバム。

RyanはRobert Raths率いるロンドンのErased Tapesレーベルが2007年に設立された際の最初の契約アーティストであり、以来ずっと同レーベルから作品を発表し続けている。

今作の制作に入る前に創作のスランプというか停滞期間があったそうで、それを乗り越えて作り上げられた全14曲収録時間58分の大作だ。

彼の音楽はTechno、House、Ambient、Drone、Electronicaと様々なエレクトロ・ミュージックのジャンルにカテゴライズされる性質のものだが、一貫して非常に無機質で機械的なサウンドが展開されているにも関わらず、どこか人肌の温もりめいたものも感じさせるところに独創性を感じさせてくれる。

タイトル・トラックにしてラストを飾る「Landscape from Memory」は制作意欲を失っていた期間を過ごしていたのち初めてエモーショナルに音作りに取り掛かるきっかけになった楽曲だそうで、パートナーに捧げられたという2曲目の「Catherine」と並んで思い入れの深いトラックである事は間違いなさそうだ。

個人的には10曲目の「In a Trance」に特に感銘を受けたが、是非一度フロアで大音量で聴いてみたいと思わされた。

昨年はレーベルメイトのKiasmosが感動的な来日公演を果たしてくれたが、Rival Consolesも来てくれんかなあ。









2025年7月28日月曜日

Do It Yourself

 














【今週の一枚】














Richard Shelest - Sunny Season Is Over [Richard Shelest 2025]

ベルギーの宅録ミュージシャンの2ndアルバム。

このヒトも情報が本当に少なくて、HPは存在せず、InstagramにYoutube、SoundcloudにTikTokといったプラットフォーム上で活動を展開している模様。

レーベルには所属せず、今回の作品もセルフ・リリースという事でDIY精神の塊のようなアーティストと言えるだろう。

幼少の頃からNOKIAの端末を使って無数の映像や音源制作に勤しんでいたようで、その後音楽学校に進み、マイクとフリーソフトを駆使して本格的に音楽活動にのめりこむようになったようだ。

今作のアートワークもそうだけど、上記プラットフォームにUPされている動画もどこかトボけているというか、オフビートなノリに覆われているんだけど、実際の音楽はかなり作りこまれた、完成度の高いものとなっている。

3曲目の「Endless Reminder」なんかが象徴的だが、メランコリックなテイストのメロディと繊細なトラック・アレンジが印象的な楽曲が数多く並べられている。

しかしここまで徹底して自主制作主義を貫いているのはある意味見事だと思うけど、もともと商業的な成功には興味が無いのだろうか。

ところでノルウェーと言えばMagnetという素晴らしいアーティストが居たよなあ、としみじみ。

「Last Day of Summer」とか超名曲でした。







2025年7月22日火曜日

不思議















 【今週の一枚】














DERBY - Slugger [Many Horses 2025]

こんなにも情報の少ないアーティストも珍しいのではないだろうか。

HPは存在せず、Instagramアカウントがあるのみ、リリース元のレーベルの所在すら判明しないのだから徹底している。

DERBYはヒューストン出身でNYを拠点に活動するアーティストで今作が4年ぶりのセカンド・アルバム。

ちなみに2021年リリースだという1stアルバムの音源も見つからなかったので、この「Slugger」が実質的なデビュー作と言えるのかも知れない。

その音楽はIndietronica、Bedroom Popにカテゴライズされるが、Hyperpopやオルタナ・カントリーの影響も汲んでいる。

音数の多いサウンドとは言い難く、シンプルなアレンジの楽曲が並ぶがメロディ・メイカーとしての力量は一筋縄では行かないように思える。

また彼の音楽を特徴づけているのは全てのボーカルにピッチ・エフェクトが施されているところ。

ノーマルで聴いても良い曲ばかりだと思うが、彼なりの拘りがあるのだろうし事実中毒性が高いと思える。

アートワークは何故鹿?みたいなカンジだけど、所在が確認できたこれまでのシングルも全てアートワークに鹿が採用されていて、余程思い入れがあるのだろうか。

もう少し露出を増やせば注目度も上がりそうなモンだが、全然その気が無さそうで本当に不思議だ。






2025年7月14日月曜日

ドス











 

【今週の一枚】














Annahstasia - Tether [Drink Sum Wtr 2025]

AnnahstasiaことAnnahstasia Enukeによるデビュー・アルバム。

アート系インディーレーベルDrink Sum Wtrよりリリースされた。

学生時代にその才能を見出され、初めてのレコード契約に結び付けるも、その環境は彼女の望んでいたものではなかったようで、その後インディペンデントな活動を続け、今作の発表に漕ぎつけた模様。

何の前情報もなく聴き始めたワケだが、その歌声には本当に驚かされた。

豪州のGrace Cummingsなんかもそうだけど、実に迫力ある低音ハスキー・ボイスは彼女のアーティストとしての特徴を際立たせていると思う。

知らずに聴いたら殆どのヒトが男が歌っていると思うのではないだろうか。

所謂ドスの効いた、凄みのある声で歌われる優美な楽曲の数々はインパクト十分と言える。

多くの楽曲は抑制的なアレンジのギター・フォークで、アカペラで歌われたとしても十分聴きごたえがあると思える。

LAのValentine Studiosで制作は進められ、Obongjayarやaja monetといった面々がゲスト参加している。

オープニング・トラックの「Be Kind」やM4「Take Care of Me」、M7「Overflow」といった佳曲が次々と奏でられているが、壮大なエンディグ曲「Believer」も素晴らしい。

今後の活躍に大いに期待したいアーティストの登場だ。





2025年7月7日月曜日

復活























 【今週の一枚】














Star Matriarch - Red Ship [Exotic Fever Records 2025]

2011年にリリースされたCarol Buiの3rdアルバム「Red Ship」には当時非常に強く感銘を受けて愛聴していたものだったが、その後音楽活動をしている風もなく、SNSも自身のベリー・ダンスの動画などがUPされていたり、Star Matriarchに改名したりとなんだか迷走気味に見え、ミュージシャンは引退したのかとさえ思っていたくらいだった。

ところが十数年の時を経て突如アルバムを発表、それも3rdアルバムと同名の作品だったので本当に驚かされた。

今作は2011年版の「Red Ship」に収録されたいた楽曲の再録に加え、新曲を数曲、ベトナムの反戦シンガー Trinh Cong Son「Xin Cho Tôi」のカバーで構成されている。

ベトナム戦争の難民の両親の下に生まれワシントン州Tacomaで育った彼女はハードコアやライオット・ガールのムーブメントに強い影響を受け自らソング・ライティングを手掛けるようになった模様。

ソニック・ユースのサーストン・ムーアがダイナソーJRのJ・マスシスの事を「彼はドラマー出身だからそのギタープレイのリズムの組立てが独創的なんだ」と評したというエピソードがスキなんだけれど、このStar Matriarchも自らドラムを叩き、大胆かつ荒々しいギター・サウンドを展開してくれている。

3年の年月をかけて作りこまれた復活作、大いに歓迎したい気持ちでいっぱいになった次第だ。



2025年6月30日月曜日

大器














 

【今週の一枚】














kmoe - K1 [deadAir 2025]

これまた大器が現れた。

kmoeはVancouverを拠点に活動するKale Itkonenによるソロ・プロジェクトで今作がデビュー・アルバム。

2001年生まれの彼、ティーンエイジャーの頃からSoundCloud上に音源をUPし注目を集め、インディー・レーベルdeadairとの契約を交わし、今回の作品のリリースに漕ぎつけた模様。

初期の頃はかなり電子音楽に傾倒した作風だったようだが、オルタナティブな轟音ギター・サウンドが実に鮮烈な印象を与えてくれる。

彼のbandcampのキーワードにはdigicore、hyperpop、indietronicaといった単語が羅列されており、かなり自覚的にそういった要素を作品作りに取り込んでいるのだろう。

またメロディ・メイカーとしての力量もかなりのもので、80年代NWのバンドを彷彿とさせるその歌声と相俟って聴きごたえは十分過ぎる程だ。

ちなみに彼のInstagramのフォロワーにはiglooghostやbrakenceが名を連ねており、若き才能の共振ぶりに思わず頬が緩んでしまう。








2025年6月16日月曜日

願い

 











【今週の一枚】













CocoRosie - Little Death Wishes [Joyful Noise 2025]

BiancaとSierraのCasady姉妹によるデュオCocoRosieによる5年ぶりの8thアルバム。

衝撃のデビュー作「La maison de mon rêve」がリリースされたのが2004年の事だから、もうあれから二十年以上の時間が経過したのかと思うと実に感慨深い。

Touch and GoやSub Pop、City Slangと数々の名門インディー・レーベルを渡り歩いてきた彼女たちだが、今作はJoyful Noiseへの移籍第一弾となった。

流石にもう度肝を抜かれるような類のサウンドとは言えないものの、一定のクオリティはしっかり担保されている。

そういう意味では彼女達にはエイミー・マンとかイールズみたいに駄作を出すことなく安定して長い活動を期待したいトコロだ。

9曲目の「Girl In Town」には隠遁気味だったChance the Rapperがフィーチャーされているのも注目に値する。

先行シングルの2曲目の「Cut Stitch Scar」のサウンド・メイキングには新機軸を感じさせられた。

もう長い事来日はしていないけれど、久々に来てくれんかなあ。






2025年6月9日月曜日

奇天烈











 

【今週の一枚】













rusowsky - DAISY [Rusia IDK 2025]

スペインMadridを拠点に活動するアーティストRusowskyによる1stアルバム。

20代半ばとまだ若いが、2019年ごろから作品を発表し続けており、満を持して今作の完成に漕ぎつけた模様。

その奇抜なファッション・センスからキワモノ的な音楽性を連想してしまいそうになるが、音楽教師をしていたという母親の影響もあって幼少のころから正統派の音楽教育を受けていたそうだ。

なんともカテゴライズし難いサウンドだが、メロディ・メイカーとしての力量はかなりのもので、名だたるポップ職人の系譜に名を連ねるにふさわしい才能の様に感じられた。

基本スペイン語で歌われる曲が主体だが英語詞の曲も幾つかあって、全然違和感を感じさせないのも好感が持てた。

新たな異形の才能の登場に心躍らされる思いである。

2025年6月2日月曜日










 

【今週の一枚】














sunnbrella - gutter angel [Music Website 2025]

ロンドンを拠点に活動するDavid Zbirkaによるプロジェクトsunnbrellaの二年ぶりのセカンド・アルバム。

1st「Heartworn」もインパクトが強かったが今作では更にスケール・アップしている印象。

90年代初頭にシューゲイザー旋風が巻き起こり、次々とバンドが登場していた頃をリアル・タイムで経験したが当時はこのムーブメントは一過性のものだろうな、なんて思っていたものだが、なんのなんの。

シュゲイザーのエッセンスは今もなお多くのバンドに継承されているし、正にこのsunnbrellaはその典型とも言うべき存在のように思える。

昨今のハイパー・ポップの文脈でも語れそうだし、インダストリアル・ミュージックの影響も感じられ、リズムの組み立て方はレイブミュージックからの影響も色濃いと言えるだろう。

自身のヴォーカリゼイションも圧倒的だが、幾つかの曲でリード・ヴォーカルを務めたClaire Pengの歌唱も実に可憐で、MBVのビリンダ・ブッチャーやSlowdiveのRachel Goswellなんかを彷彿させるとか言ったら褒め過ぎだろうか。

しかし前作のトキもそうだったけど、今回のアルバムもこんな充実作なのに全然話題になっていない気がして不思議で仕方がない。






2025年5月26日月曜日

稀有










 

【今週の一枚】














Duval Timothy - wishful thinking [Carrying Colour Records 2025]

サウス・ロンドンと西アフリカ・シエラレオネをまたにかけて活動する奇才ピアニストDuval Timothyによる三年ぶりの新作アルバム。

自ら主宰するアパレル&ライフスタイルブランドにしてレコード・レーベルCarrying Colourよりリリースされた。

Solange、Kendrick Lamarといったビッグ・ネームとのコラボレーションでも名高い彼だが、誰にも媚びない唯我独尊とも言うべき孤高の音楽性を追求しており、刮目に値すると言えるのではないだろうか。

ピアノを主体としたポスト・クラシカルと形容出来そうな音楽だが、ジャズのようでもあるし、ゴスペルの要素やヒップ・ホップ的なアプローチも垣間見えて一筋縄ではいかない音楽性を称えている。

彼の創作活動は音楽のみならず、絵画やデザイン、写真なども手掛けており、正に真正の「アーティスト」と呼ぶにふさわしい。

坂本龍一の魂を引き継ぐ後継者の名にふさわしい稀有の才能の様に思えてならない。







2025年5月19日月曜日

ミステリアス











 

【今週の一枚】














Billy Woods - Golliwog [Backwoodz Studioz 2025]

ワシントンDC生まれでNYを拠点に活動するラッパーBilly Woodsによる2年ぶりの新作アルバム。

ソロ名義では9作目だが、Armand HammerやSuper Chron Flight Brothers、The Reaversといったグループのメンバーとしての活動やKenny SegalやMessiah Musik、Moor Mother等とのコラボ作など、20年を超えるキャリアのなかで驚くほどに多数の作品をリリースしている。

アブストラクト・ヒップホップ、アンダーグラウンド・ヒップホップなどとカテゴライズされる彼の音楽だが、百花繚乱ともいうべきヒップホップ・シーンにおいても特に異彩を放っているように思える。

ホラー映画のサウンドトラック作のような側面を持ちつつ、どこかユーモラスでもあり、流麗なメロディも散りばめられていて実にミステリアスな音楽だ。

今作は自らが主宰するBackwoodz Studiozレーベルからのリリースで、数々のコラボレーターを迎えBilly本人がExecutive Producerを務めている。

5曲目の「Waterproof Mascara」では唐突に日本語のサンプリングが絡められており驚かされたが、これは1997年の映画「CURE」の台詞を採用している模様。

楽曲単位でいうと「Corinthians」や「Lead Paint Test」あたりに特に感銘を受けた次第。

ところでBilly Woodsはステージ・ネームで彼は本名を明かしておらず、宣材写真でも一貫して顔を隠しているというのだから徹底している。