2024年12月26日木曜日

今年の十枚














Roy Blair - Chasing Moving Trains [Warner]

Mustafa - DUNYA [Jagjaguwar]

Fred again.. - ten days [Atlantic]

Lau Ro- Cabana [Far Out Recordings]

Kiasmos - II [Erased Tapes]

Mk.gee - Two Star & The Dream Police [R&R]

Salvia Palth - Last Chance To See [Danger Collective]

Iglooghost - Tidal Memory Exo [LuckyMe]

1010Benja - Ten Total [Three Six Zero Recordings]

Kali Malone - All Life Long [Ideologic Organ 2024]

 

Selection 2024




















01.Looking Out - 1010benja [Ten Total]
02.Panavision - Roy Blair [Chasing Moving Trains]
03.BIRDS OF A FEATHER - Billie Eilish [HIT ME HARD AND SOFT]
04.Totem - Tycho [Infinite Health]
05.Love You Got - Kelly Lee Owens [Dreamstate]
06.When she holds me - Becky and the Birds [Only music makes me cry now]
07.祝福 - さらさ [Golden Child]
08.Assim - Lau Ro [Cabana]
09.Call It Love - Nilüfer Yanya [My Method Actor]
10.Add Up My Love - Clairo [Charm]
11,SNL - Mustafa [Dunya]
12.Ever Seen - Beabadoobee [This Is How Tomorrow Moves]
13.Daydream Repeat - Four Tet [Three]
14.SXC - Mura Masa [Curve 1]
15.Coral Mimic - Iglooghost [Tidal Memory Exo]
16.The Believers - Kim Gordon [The Collective]
17.Be Forever Like A Curse - Fink [Beauty In Your Wake]
18.Make Friends - Hiatus Kaiyote [Love Heart Cheat Code]
19.Water - Tyla [TYLA]
20.IF I'M GONNA GO ANYWHERE - Eels [EELS TIME!]
21.Dazed - Kiasmos [II]
22.Kfm - Madi Diaz [Weird Faith]
23.Get Numb To It! - Friko [Where we've been, Where we go from here]
24.Arooj Aftab - Raat Ki Rani[Night Reign]
25.Wish You Could Be Here - Helado Negro [PHASOR]
26.it could be anything - claire rousay [sentiment]
27.last chance to see - salvia palth [last chance to see]
28.Club classics - Charli XCX [BRAT]
29.just stand there - Fred again.. & SOAK [ten days]
30.Lucky - Erika de Casier [Still]
31.Cubic Zirconia - Katy Kirby [Blue Raspberry]
32.John Williams - The Innocence Mission [Midwinter Swimmers]


2024年12月23日月曜日

不朽











 

【今週の一枚】













The Innocence Mission - Midwinter Swimmers [Bella Union 2024]

毎度思うことだけどThe Innocence Missionを全く聴いたことのないヒトに「このヴォーカル、まだ10代なんだよ」と言っても殆どが信じてくれるんではないだろうか。

ペンシルベニア州ランカスターの高校の同級生で1986年に結成され、デビュー・アルバムをリリースしたのが1989年、今作が4年ぶり13作目の作品となる。

「永遠の少女の歌声」と言っても過言ではないKaren Perisのヴォーカルは健在で、作品を追う毎に瑞々しさを増しているようにさえ思えてしまう。

40年近くにわたる長い活動のなかでも殆ど音楽性が変わることはなく、今回のアルバムも正にエバーグリーンと呼ぶべき珠玉の楽曲集に仕上がっていると言えるだろう。

今作は先行シングルにしてオープニング・トラックの「This Thread Is a Green Street」を夫のDon Perisと共作している以外はすべての楽曲をKarenが作曲しており、彼女のソングライターとしての力量を存分に堪能できる作品となっている。

それにしてもこれだけ長くやっていると作品のクオリティにバラつきが出そうなモンだけど、彼らの音楽は本当に安定しているし、かつ魅力的だと思う。

これからもずっと色褪せる事はないんだろうなあ。










2024年12月16日月曜日

呪縛











 

【今週の一枚】













Fink - Beauty In Your Wake [R'COUP'D 2024]

FinkことFin Greenallの5年ぶりの8thアルバム。

英国Cornwallで生まれBristolで育った彼だが、現在はBerlinを拠点に活動している模様。

初期の作品からずっとNinja Tuneレーベルから作品をリリースしてきたFink、現在は自ら主宰するR'COUP'Dから作品を発表している。

コロナ禍の2022年には仏リヨンのフィメイルSSW、Claire Daysのデビュー・アルバム「Emotional Territory」に共同プロデューサーとして名を連ね、演奏にも参加するなど全面的にバックアップ、これがまた非常にイイ仕事をしているのだ。

さて5年ぶりの今作だが、これまでの彼の作品に見られたエレクトロ・ミュージック的な要素は完全に鳴りを潜めており、完全にフォーク・ミュージックに振り切った仕上がりとなっている。

とはいえこれまでも彼の音楽の核心にはシンガー・ソングライターとしてのアティチュードが据えられていたのも事実で、そんな彼が電子音を排してフォーク・アルバムを作るのはそんなに不自然な話でもないと言えるだろう。

アルバム全体を通しての統一感は実に見事だと思えるが、なかでも3曲目の「Be Forever Like a Curse」や7曲目の「One Last Gift」のクオリティが突出しているように感じられた。

1972年生まれという事で52歳になるというFinkだが、これからも息の長い活動ぶりに期待したいトコロである。









2024年12月9日月曜日

うっとり










 

【今週の一枚】














Clairo - Charm [Clairo Records 2024]

ClairoことClaire Elizabeth Cottrillの3年ぶりの3rdアルバム。

2017年に寮の部屋で自作した楽曲「Pretty Girl」がネット上でバイラルヒットとなり一気に注目を集めた彼女、2019年の1st「Immunity」と2021年の「Sling」の2枚のアルバムもそれぞれ高い評価を集めてきた。

前作も70年代フォークの影響が感じ取れたが、今回の作品はよりレイドバックした印象が強くソウル・ミュージックやソフト・ロック、サイケデリック・フォークの文脈に連なるサウンド・メイキングが施されている。

共同プロデューサーを務めたLeon MichelsはBig Crownレーベルの創設者でEl Michels Affairのリーダーとして活動しているが過去にNorah Jonesの作品にも携わったようだ。

最初の印象はちょっと洗練されて過ぎているのでは、もう少し破綻を感じさせてくれる音のほうが好みかなあ、なんて思わされたりしたのも事実だが、聴き返すうちにコレはコレで面白みがあるかも、なんて思うようになっていった。

楽曲単位でいうと「Thank You」と「Add Up My Love」が抜きんでている印象で、彼女のソングライターとしての力量を証明しているように思える。

1998年という事でまだ20代半ばの彼女、これからも息の長い音楽活動に期待したい。







2024年12月2日月曜日

 


【今週の一枚】













Caribou - Honey [Merge 2024]

カナダ出身で現在ロンドンで活動するDan SnaithことCaribouの4年ぶりの6thアルバム。

DanはManitobaやDaphniという別名義でも活動しており、20年を超える活動の中で十数枚の作品をリリースしている。

なかでも2014年に発表した「Our Love」はグラミー賞のベスト・エレクトロニック・ダンス・アルバムにノミネートされた程の高い評価を受けている。

10月には9年ぶりとなるバンドセットによる単独来日公演と朝霧JAMの出演を果たし大いに好評を博した模様。

今作からは「Honey」、「Broke My Heart」、「Volume」、「Come Find Me」がそれぞれシングル・カットされており、いずれも実に魅力的なダンス・ミュージックとなっている。

彼自身、「活動を始めた当初から音に対する好奇心は全く変わっていない」という趣旨の発言をしており、それが無くならない事を幸運な事だと受け止めているようだ。

ポップ・ミュージックとして高い完成度を誇りつつ、細部に耳を傾けると実験精神の塊のようなサウンド・メイキングとなっているのは本当に見事だと思える。

今年は盟友的存在のFour Tetもアルバム「Three」を発表し話題を呼んだが、本当にエレクトロ・ミュージック豊作の年だったなあとしみじみ。






2024年11月25日月曜日

音楽だけが
















 【今週の一枚】














Becky and the Birds - Only Music Makes Me Cry Now [4AD 2024]

Becky and the Birdsはスウェーデン人アーティストThea Gustafssonによるソロ・プロジェクト。

2020年にEP「Trasslig」を4ADレーベルよりリリースして注目を集めた彼女、今作が4年越しに満を持してのデビュー・アルバムとなった。

耽美派ベッド・ルーム・ポップとも呼ぶべきその作風は、百花繚乱とも言えるラインナップを誇る同レーベルにあっても異彩を放っている。

ロンドンと母国ストックホルムを股にかけセルフ・プロデュースで完成させた今作、聴きドコロ満載の仕上がりと言えるだろう。

オープニング・トラックの「Star」からいきなり胸を鷲掴みにされるような感覚に陥ってしまうが、続く「anymore」や6曲目の「When she holds me」、そしてラスト・ソングにしてタイトル・トラック「only music makes me cry now」に至るまで感動的な楽曲目白押しとなっている。

今作はDijon、Seinabo Sey、Lapsley等とのコラボレーションから着想を得ているようで、拘り抜いたその音楽スタイルは今後の活躍に大いに期待できる逸材と言えるのではないか。






2024年11月18日月曜日

追いかけて
















 【今週の一枚】













Roy Blair - Chasing Moving Trains [Warner 2024]

LA出身で現在はNYを拠点に活動するアーティストRoy Blairの7年ぶりとなる2ndアルバム。

1stアルバム「Cat Heaven」をリリース後に2019年にツアーを終え、今作の制作が開始されたがコロナ禍のなか2年前にアルバムは完成、その後紆余曲折を経てやっとリリースに漕ぎつけたという経緯のようだ。

ビョークやUKガレージなどに影響を受けたと公言している彼、様々な映画音楽にも精通しており、正にPOP職人という呼称が似つかわしい作風だ。

真っ先に思い浮かんだのがカナダのSpookey Rubenで、1990年代後半に傑作を連発していた頃の高揚感がまざまざと思い起こされる。

レコーディングはNYやアイスランドで行われ、自らプロデュースを手掛けている。

リード シングルの「Panavision」や「Strawberry」も素晴らしいが、3曲目の「Belmont」の轟音ギター・ノイズは聴く度に痺れまくりだし、ラスト・トラックの「Garden」のポップ・ソングとしての完成度がズバ抜けているように思える。

USインディーズ・シーンにまたもや現れた若き傑出した才能に胸躍らされる思いである。








2024年11月11日月曜日

連続体
















 【今週の一枚】













Nala Sinephro - Endlessness [Warp Records 2024]

カリブ系ベルギー人アーティストNala Sinephroの3年ぶりの2ndアルバム。

1st「Space 1.8」に続いてWarp Recordsからのリリースとなった。

アンビエント・ジャズの旗手として賞賛を集める彼女、モジュラー・シンセとハープを駆使してオリジナリティの塊のような音世界を確立している。

black midiのMorgan Simpson、Ezra CollectiveのJames Mollison、Nubya Garciaの他、新世代UKジャズ・シーンの担い手が多数ゲスト参加した今作、正に旬のアーティストとして確固たる地位を確立していることの証左と言えるのではないだろうか。

全10曲45分の収録時間で構成される本作、トラック名は「連続体」を意味する「Continuum」の1から10で統一されている。

今月25日にはめぐろパーシモンホールにて初来日公演が予定されており、是非足を運びたいところではあるが、気が付いたら完売御礼。

こないだClaire Rousayの前座で観たphewの轟音アンビエント・ノイズにも大いに感銘を受けたけれど、このNala Sinephroもライブ空間でその唯一無二の音世界に身を委ねてみたいものである。






2024年11月5日火曜日

幻想









 

【今週の一枚】













TychoInfinite Health [Ninja Tune 2024]

サンフランシスコを拠点に活動するScott HansenのプロジェクトTychoの4年ぶりの7thアルバム。

ISO50名義で写真家・グラフィック・デザイナーとしても活動する彼だが、その偏執狂的とさえ言えそうな音質への拘りが遺憾なく発揮された仕上がりとなっている。

フィジカルなエレクトロニック・ギターやベースのサウンド、ダイナミックなドラムは電子音とポスト・ロック的な生演奏の化学反応を意識したものと感じたが、驚いたのは全ての楽器をデジタルで演奏・処理しているそうなのだ。

てっきり大型のギター・アンプにエフェクターを繋いで大音量で演奏したものを取り込んで加工しているものと思いきや、そもそも最初からプラグインを使用しているとは。

音の印象とは裏腹にアルバム制作にあたって電子音楽的なプロダクションに回帰しており、特にブレイク、ドラムとリズム楽器にフォーカスして作品作りが進められたそうだ。

大部分の楽曲のプロデュースとエンジニアリングをGrizzly Bear’のChris Taylorが手掛けており、タイトル・トラックの「Infinite Health」にはCautious Clayのヴォーカルをフィーチャー。

本人も最も気に入っているというリード・シングル「Phantom」や終盤の「DX Odyssey」から「Totem」にかけての流れは、さぞやライブで盛り上がるだろうなあ。





2024年10月28日月曜日

ゆめのくに

 











【今週の一枚】













Kelly Lee Owens - Dreamstate [dh2 2024]

ウェールズ出身の電子音楽家Kelly Lee Owensの2年ぶりの4thアルバム。

看護師からミュージシャンに転身したという異色の経歴を持つ彼女、コロナ禍のなかにあっても精力的に作品作りに取り組んできた。

これまでの3作はSmalltown Supersoundからのリリースであったが、今回の作品はThe 1975のドラマーGeorge Danielが新たに設立したエレクトロ・ミュージック・レーベルdh2への移籍第一弾となった。

前作「LP.8」ではThrobbing GristleとEnyaの融合を目指したなどと嘯き、かなり実験色の強い作風であったが、今作はうってかわってかなり開かれた音となっている。

リード・シングルの「Love You Got」などはメジャー・チャートを席捲しても全然不思議ではないようなアッパーなポップ・チューンだ。

プロデューサーにはGeorge Danielに加えてBicepやThe Chemical BrothersのTom Rowlandsらも名を連ね、曲作りにも参画している模様。

今夏彼女は今夏イビザ島で開催されたBoiler Room & Charli xcx presents: PARTYGIRL Ibizaに参加したそうだが、今回の作品はCharli xcxの「BRAT」と並んで2025年を代表するダンス・アルバムの一枚に挙げらえるのではないだろうか。




2024年10月22日火曜日

黄金の子














 

【今週の一枚】












さらさ - Golden Child [ASTERI ENTERTAINMENT 2024]

湘南出身のSSWさらさによる2年ぶりのセカンド・アルバム。

デビュー・アルバム「Inner Ocean」に衝撃を受けて以来ずっと注目しているアーティストで2023年3月の1stアルバム・リリース・パーティと銘打たれたソロ公演、12月の渋谷WWW Xにおけるワンマンライブ「( star )」、そして今作のリリースを受けて開催された恵比寿リキッド・ルームでのライブと既に三回も彼女のパフォーマンスを観る機会に恵まれ、その都度感激しまくっている次第。

楽曲の完成度の高さは勿論のこと、彼女の歌唱も本当に素晴らしいのだが、バンド・メンバーの演奏が実にハイ・レベルなのだ。

今作は当初の予定より発売が延期されるという経緯があったのだが、5曲目の「リズム」の完成に相当手こずったらしく、それでもどうしても収録したいという思いがあったようで、その拘りも納得の出来栄え。

オープニング・トラックの「予感」やリード・シングルの「f e e l d o w n」も名曲だが、ライブでも披露されていた「祝福」が今作の白眉ではなかろうか。

アルバム・タイトルの「Golden Child」は彼女の母親が彼女を身ごもる前に占い師に「あなたの前世の悲しみを救うために、ゴールデン・チャイルドが生まれてくる」と言われた、というエピソードから採られているそう。





2024年10月17日木曜日

毅然
















 【今週の一枚】













Nilüfer Yanya - My Method Actor [Ninja Tune 2024]

UKのNilüfer Yanyaの2年ぶりの3rdアルバムはNinja Tuneレーベルへの移籍第一弾となった。

躍動感溢れるギター・ストロークが印象的なオープニング・トラック「Keep On Dancing」で幕を開ける今作、続く「Like I Say (I runaway)」とタイトル・トラック「Method Actor」と轟音ギターがうなりをあげるのは実に痛快だ。

ところが4曲目の「Binding」から一転して繊細でリリカルなSSW然とした佇まいの楽曲が並べられており、これがまた味わい深いのである。

特に7曲目の「Call It Love」は聴くたびに胸を締め付けられるような思いのする名曲だと思えた。

2020年の初来日公演を観た際にも彼女のギターという楽器に対する強い思い入れと拘りを感じさせられたが、今作も全編を通じ本当に様々なギターのサウンドを堪能出来る。

その声質と歌唱スタイルからネオR&B的な文脈で語られる事の多い彼女の音楽だが、「自分の作る音楽にはR&B的な要素は一切無い」と嘯く彼女、その毅然とした姿勢にも好感を感じさせられる次第だ。









2024年10月7日月曜日

詩人








 

【今週の一枚】













Mustafa - DUNYA [Jagjaguwar 2024]

こ、これは…。

エリオット・スミスやスフィアン・スティーブンスの系譜にも連なるメランコリック・フォークの逸品というべき作品が産み落とされた。

Mustafaはスーダン系カナダ人でトロントで生まれ育ったSSWにして映像制作者で、かつてはMustafa the Poetの名義で活動していた模様。

もとはDrakeにその才能を見出され、The WeekndやCamila Cabelloに楽曲を提供してきた経歴を持つ。

2021年に発表したミニ・アルバム「When Smoke Rises」はJames Blake、Jamie xxをプロデューサーに迎え、今をときめくSamphaをゲストに迎え、大きな話題を呼んだようだ。

今回の「DUNYA」は待望のデビューアルバムで、タイトルはアラビア語で「あらゆる欠点を抱えた世界 」の意だそう。

共同プロデューサーにThe NationalのAaron Dessnerを招き、Rosalía, Clairo, Nicolas Jaarといった錚々たるコラボレターが名を連ねて完成に漕ぎつけた今作だが、えもいわれぬ美しさをたたえている。

またしても眩いばかりの才能を持った若きクリエイターの登場に心躍らされる思いだ。






2024年9月30日月曜日

娘よ









 

【今週の一枚】













Bat for Lashes - The Dream of Delphi [Mercury 2024]

Natasha KhanによるプロジェクトBat for Lashesの5年ぶりの6thアルバム。

タイトルのDelphiは彼女の娘の名前だそうで、タイトル・トラックの他にも「Letter To My Daughter」や「Delphi Dancing」など娘への思いを綴ったと思しきトラックが並ぶ。

作品はLAでコロナ期間中に制作され、殆どが即興で書かれた模様。

デビュー以来幾度となく引き合いに出されてきたKate Bushの影響は本作にも色濃く息づいており、シアトリカルでオペラチックなスタイルと80年代NWっぽいサウンド・アレンジが絶妙のコントラストを現出している。

5曲目の「Home」は唯一のカバー・ソングで、Delphiのお気に入りの一曲なのだとか。

Brad OberhoferやJack Falbyに加え、孤高のハーピストMary Lattimoreがゲストに名を連ねている。






2024年9月25日水曜日

キック!

 











【今週の一枚】














Eels - Eels Time! [E Works 2024]

EことMark Oliver Everettが率いるEelsの15作目となるスタジオ・アルバム。

1996年にデビュー作「Beautiful Freak」を発表後、コンスタントに活動を続け、今作は2年ぶりの作品。

2023年は北米と欧州でLockdown Hurricaneツアーを敢行、2枚目のベスト・アルバム「EELS SO GOOD: ESSENTIAL EELS VOL. 2 (2007-2020)」もリリースと話題に事欠かなかったが、コラボレーターにKoool G Murder、The Chet、Tyson Ritter、Sean Colemanらを迎え、Los AngelesとDublinのスタジオで12曲がレコーディングされて今回のアルバムに結実した模様。

これまでも何度も書いてきたけど、1998年の2nd「Electro-Shock Blues」と続く2000年の3rd「Daisies of the Galaxy」には当時本当に深く感銘を受けたし、今もって傑作だと信じて疑わない次第だ。

その後もずっとこのバンドの事は追いかけ続けてきていたものの、上記2作品に比べると正直インパクトに欠けるというか、毎回全盛期の七掛けくらいのクオリティの作品だな、なんて印象を抱いていたのも事実である。

ただ、今回の「Eels Time!」はかなり復調の兆しが感じられるというか、久々の充実作に仕上がっているように思えた。

Eの特徴のある声質もハリが感じられるし、ソング・ライティングのクオリティもかなりイイ線行っているように思え、「If I’m Gonna Go Anywhere」なんぞは往年の名曲「Fresh Feeling」にも比肩するトラックと言えるのでは。

加えてアートワークが素晴らしい。

1963年生まれという事で還暦目前のEだが、素晴らしいキックを披露してくれており、なんとも微笑ましいではないか。










2024年9月17日火曜日

10日間















 【今週の一枚】













Fred again.. - ten days [Atlantic 2024]

今やダンス・ミュージックのフィールドでは世界的な知名度を誇るプロデューサーにしてマルチ・インストゥルメンタリストFred again..ことFrederick John Philip Gibsonによる2年ぶりの4thアルバム。
前作「Actual Life 3」は今年の第66回グラミー賞でBest Dance/Electronic Albumを受賞、8月のReading and Leeds Festivalsではダンス・エレクトロニック・アクトとして初のヘッドライナーを務めたとうのだから、その勢いは留まることを知らないかのようだ。
今作は「或る10日間についての10曲」というテーマで10のインターバルを挟みつつ10の楽曲を演奏する、というコンセプトの作品となっている。

彼が旬のアーティストである事を証明するかの如く、そのゲスト陣は豪華絢爛なラインナップとなっている。

昨年のアルバムが称賛を浴び、今年のフジロックのパフォーマンスも注目を集めたSamphaを始め、盟友的存在のSkrillex、Four Tet、Bruno Marsとユニット「Silk Sonic」でも名高いAnderson .Paak、オルタナ・カントリーの歌姫Emmylou Harrisもその名を連ねている。

個人的にはアイルランドのSOAKの参加が嬉しい驚きだったし、彼女のポエトリー・リーディング・スタイルの歌をフィーチャーした「just stand there」には大いに感銘を受けた。

今回のアルバムのリリースに先立って、世界40都市以上でリスニングパーティーが催され、東京も下北沢で行われた模様。





2024年9月9日月曜日

熱望










 

【今週の一枚】













Beabadoobee - This Is How Tomorrow Moves [Dirty Hit 2024]

フィリピン生まれロンドン育ちのBeabadoobeeことBeatrice Kristi Lausの2年ぶりの3rdアルバム。

今作はUKメジャー・チャート初登場1位を獲得したというのだから凄まじい。

去年はTaylor Swiftの全米ツアーのサポート・アクトにも抜擢されたようで、正に今が旬のアーティストと言えるのでは。

リード・シングルにしてオープニング・トラック「Take A Bite」やそれに続く「California」はライブで聴くとさぞや盛り上がるだろうなと思えるが、今作はぐっと楽曲のヴァリエーションが広がった印象で、「Girl Song」やタイトル・トラックにしてラストを飾る「This Is How It Went」などアコースティックな佳品が凄く良い。

なかでも日本で全面ロケを敢行してMV制作をして話題を呼んだ「Ever Seen」などはそれこそ絶品と言える仕上がりで彼女のキャリアを代表する曲のひとつになるのではないだろうか。

ところで個人的に復活を熱望しているバンドのひとつに英国ブリストルのThe Sundaysが居るのだけれど、彼らの名曲「Here's Where the Story Ends」をBeabadoobeeがカヴァーしているヴィデオを発見して猛烈に感激した記憶がある。

The Sundaysのリード・シンガーHarriet Wheelerは本当に魅力的な歌い手だけれど、Beabadoobeeは彼女の系譜に連なる才能の持ち主だと思える。

「Can't Be Sure」とか演ってくれたら間違いなく泣いてしまうだろうなあ。







2024年9月2日月曜日

SXC












 

【今週の一枚】













Mura Masa - Curve 1 [Pond Recordings 2024]

英国Guernsey島出身のMura MasaことAlexander George Edward Crossanによる2年ぶりの4thアルバム。

これまでメジャー・レーベルから作品をリリースしてきたが、今作は自ら設立したPond Recordingsより。

yeuleをフィーチャーした「We Are Making Out」、Daniela Lalitaを迎えた「Drugs」といったコラボレーション作を含めた全10曲50分は実際の収録時間以上のヴォリューム感だ。

ラスト・トラック「Fly」はCherishが堂々たる歌唱を披露、9分超えのExtend Mixヴァージョンとなっている。

個人的には仏語詞が全面的に導入されたトラック「SXC」に最も心奪われた。

なんだか90年代のMomusなんかが想起させられたりして。

今年快作アルバム「Brat」を発表したチャーリーXCXにも感じた事だが、享楽的なダンス・ミュージックを追求しつつも、そのアティチュードは実にストイックなのも興味深い。

彼が設立したThe Pondは単なるレコード・レーベルの枠を超え、新進のアーティストやクリエイターが交流するクリエイティブ・コミュニティを目指しているようで、その活動拠点として2025 年初頭の完成を目指しPondスタジオ・コンプレックスを建設中なのだとか。

これからもまだまだ精力的な活動ぶりに期待出来そうだ。





2024年8月26日月曜日

往年










 

【今週の一枚】













Andrew Bird Trio - Sunday Morning Put On [Concord 2024]

ヴァイオリンを携えた吟遊詩人Andrew Birdの新作はベーシストにAlan HamptonとドラマーにTed Poorを迎えてAndrew Bird Trioとしてリリースされた。

20代の頃に住んでいたシカゴのアパートでよく聴いていたオールド・ジャズを独自の解釈でカヴァーするという趣向の作品で唯一のオリジナルであるラスト・トラック「Ballon de Peut-etre」を除いて、コール・ポーター、デューク・エリントンといった往年の巨匠の作品を即興演奏で録音している。

オリジナルでサックスが用いられているパートをヴァイオリンで演奏しているが、これはこれで味わい深い。

レコーディングは南カリフォルニアの伝説的なヴァレンタイン・スタジオで行われ、トリオの3人に加え、ギタリストのJeff ParkerやピアニストのLarry Goldingsがゲスト参加。

緊張感を保ちつつもどこかリラックスしたムードも漂う貫禄のセッション集、彼独自の「グレート・アメリカン・ソングブック」に仕上がっていると思える。





2024年8月19日月曜日















【今週の一枚】













Arooj Aftab - Night Reign [Verve 2024]

Arooj Aftabはサウジアラビア生まれのパキスタン人シンガー。

外交官の父とエコノミストの母のもと、大都市ラホールで育ち、その後渡米しバークリー音楽大で学んだ。

2014年にデビュー・アルバムをリリース、2021年の3rd「Vulture Prince」

で大きな注目を集め、パキスタン人として初めてのグラミー賞受賞アーティストとなった。

その後名門Verveレーベルに移籍、コラボレーション作をリリースし、今作が移籍後初のソロ作品である。

ジャズ、ミニマリズムの文脈で語られる彼女の音楽だが、英語とウルドゥー語で歌われるそのサウンド・スケープは非常に異質な感触をたたえている。

「夜が支配する」と銘打たれた今回の作品は、正に夜にしか鳴らされない音だと言えるだろう。

James Franciesをフィーチャーしたジャズ・スタンダード「Autumn Leaves」の斬新な解釈にも大いに感銘を受けたが、個人的には「Raat Ki Rani(夜の女王)」が白眉だと思えた。

Chocolate Geniousをはじめ錚々たるゲスト陣のなかにElvis Costelloの名前を見つけたときは驚いたけれど、孤高のギタリストKaki Kingの参加も大いに注目される。

多様な個性を惹き付ける大いなる才能と言えるのではないだろうか。





2024年8月9日金曜日

真骨頂

 



【今週の一枚】













Hiatus Kaiyote - Love Heart Cheat Code [Brainfeeder 2024]

昨年のフジ・ロックは動画配信で幾つかのバンドを観たのだけれど、なかでもこのHiatus Kaiyoteには度肝を抜かれてしまった。

レコードを聴いてもその抜群の歌唱力と演奏力に圧倒されるが、このバンドはライブでこそその真骨頂を発揮するのだなあと唸らされたものである。

2011年に豪州メルボルンで結成され、今作が3年ぶりの4thアルバム。

個性の塊のようなフロント・ウーマンにしてギタリストのNai Palm、べーシストのSimon MavinにキーボーディストのSimon Mavin、そしてドラマーのPerrin Mossから成る鉄壁の4人組だ。

フューチャー・ソウルやアバンギャルド・ビーツなどと称される彼等の音楽だが、恐るべきオリジナリティを誇ると言えるだろう。

3曲目の「Make Friends」なんかはNaiのヴォーカルに張り合うかのように縦横無尽に鳴らされるSimonのベースはあたかも「歌っている」かのようである。

前作「Mood Valiant」でフライング・ロータス率いるBrainfeederに移籍した彼等だが、今作も同レーベルからのリリースとなっている。

それにしてもラストの2曲「Cinnamon Temple」と「White Rabbit」なんかはライブ会場がバーストしてしまうんじゃないかとさえ思わされてしまうが、再来月豊洲PITで予定されている再来日公演は既にソールド・アウトとなっており、その人気ぶりが窺える。

是非とも追加公演、やってくれんかのう。



2024年8月5日月曜日

キャビン






















 【今週の一枚】













Lau Ro- Cabana [Far Out Recordings 2024]

呆れ返る程の酷暑が続く毎日だけれど、そんな今夏のサウンド・トラックはこちらに決定。

Lau Roはブラジル・サンパウロ生まれで現在は英国ブライトンを拠点に活動するSSWで今作がデビュー・アルバム。

彼はネオサイケデリック・バンドWax Machineのフロントマンとしても活動しており、3枚のアルバムをリリースしている。

今回の作品では自ら歌い、ギターにベースにドラム、ピアノにフルートを演奏という具合でマルチ・インストゥルメンタリストぶりを遺憾なく発揮しているが、Isobel Jonesをはじめ管楽器や弦楽器にゲスト奏者を迎えて制作された模様。
60年代から70年代のブラジルのルーツ・ミュージックへの憧憬を感じさせるサウンド・スタイルを標榜するLau Roだが、ボサノヴァやアンビエント・フォーク、トロピカリアなどのエッセンスを自然に取り入れつつ、オリジナリティ溢れるスタイルを確立しているように思えた。
比較的簡素なアレンジが施されているにも関わらず、非常に濃厚な音空間を現出させている手腕は実に見事と言えるだろう。
インストを交えた全10曲収録時間38分と長くもなく短くもない作品だが、ずっと聴き続けていたくなるような中毒性を孕んでいる。
オープニングの「Onde Eu Vou」からして掴みは抜群だけれど、3曲目の「Assim」やWax Machineのメンバーとの共作となった9曲目「Lugar」あたりに特に感銘を受けた次第だ。

アルバムのタイトルの「Cabana」は今作がレコーディングされた庭の奥にある小さな木造小屋(キャビン)にちなんで名づけられたそう。

2024年7月29日月曜日

ちひろ










 

【今週の一枚】













Billie Eilish - Hit Me Hard and Soft [Interscope 2024]

なんとさりげなくも自然体な作品なのだろうか。

Billie Eilishの3年ぶりとなる3rdアルバムを最初に聴いた印象はそんな感じだった。

2019年の1stアルバムで一気にスターダムを駆け上がり、今や押しも押されぬスーパースターとなった彼女だが、この作品でもデビュー前に兄のFINNEASと二人でベッドルームで音楽を作っていた頃のような佇まいをそのまま残しているかのようである。

オープニングの「SKINNY」のアルペジオに彼女の声が被さってくる瞬間に心地よい震えを感じてしまうが続く「LUNCH」もクールだ。

映画「千と千尋の神隠し」にインスパイアされたという「CHIHIRO」を挟んで、これぞキラー・チューンというべき「BIRDS OF A FEATHER」に連なっていくのは今作のハイライトと言えるだろう。

今作の中で異彩を放っているのは7曲目の「L'AMOUR DE MA VIE」で曲の前半は彼女特有の憂いを帯びた哀愁のバラード調なのだが突如疾走系のエレポ・トラックに変貌する。

こういう遊びゴコロも悪くないと思えた。

それにしても2001年生まれでまだ23歳にして堂々たる貫禄で、彼女の快進撃はまだまだ続きそうだ。







2024年7月22日月曜日
















【今週の一枚】













Kiasmos - II [Erased Tapes 2024]

ポスト・クラシカル界の重鎮Ólafur Arnaldsとエレクトロポップ・バンドBloodgroupのマンバーJanus RasmussenによるデュオKiasmosによる10年ぶりの2ndアルバム。

この間、2015年には「Looped」と「Swept」の2枚のEPを発表、2017年にEP「Blurred」をリリースしているが、それから既に7年が経過しており、久々の音源に心躍らされる。

今作は2020年から2021年にかけてバリ島のÓlafur所有のスタジオで制作されたようで、ガムランなどバリの伝統的打楽器やJanusによるフィールド・レコーディングもサンプリングしているそう。

ミニマル・テクノの無機質なビートに乗って流麗なメロディが奏でられていくさまは、本当に美しいと感じられるが、なかでもM4「Laced」とM10「Dazed」のクオリティが突出しているように感じられた。

メンバー二人がシンセサイザーとエレクトロニクスを駆使して作り上げられたサウンドに加え、Ólafurがオーケストラル・アレンジメントを施したストリングス・カルテットも全面的に導入されている。

ミキシングはStyrmir Hauksson、マスタリングはZino Mikoreyが担当しており、Studio Torsten Posseltによって手掛けられたアートワークも素晴らしい。

そんなワケで10月のリキッド・ルーム公演のチケット、獲れたどー!





2024年7月16日火曜日

情趣











 

【今週の一枚】













Claire Rousay - Sentiment [Thrill Jockey 2024]

カナダ生まれでテキサスで育ち、現在はLAを拠点に活動する実験音楽家Claire Rousayによる3年ぶりの4thアルバム。

もとはパーカッショニストとして活動していた彼女だがフィール・レコーディングを駆使したエクスペリメンタル・ミュージックに傾倒していったようだ。

セオドアという友人男性のポエトリー・リーディングで幕を開ける今作、この楽曲と4曲のインストゥルメンタル曲を除いて彼女自身とゲスト参加したLala Lala、Hand Habitsのヴォーカル全てにオート・チューンのエフェクトが施されている。

簡素なアレンジの幽玄フォークが並ぶが、このヴォイス・エフェクトが作品全体に独特で特異なムードをもたらしていて、非常に中毒性が高い。

自らの音楽を「Emo Ambient」と表現していたという彼女、90年代のエモやスロウコアからの多大なる影響を公言しつつも、確固たるオリジナリティを獲得していると言えるだろう。

今回の作品を制作するにあたり、楽曲の寄せ集めではなくアルバム全体として一つのアートに昇華させようとしたのだとか。

サウンド・コラージュやミニマル・ドローン、ポスト・クラシカルなどの手法が随所に散りばめられつつも一枚のアルバムとしての統一感が保たれており、その手腕は実に見事だと思えた。

佳曲揃いの本作にあって3曲目「it could be anything」には特に感銘を受けた次第。